高齢者の体力測定
公開日:2016年7月25日 19時00分
更新日:2019年2月 1日 17時59分
体力測定とは
体力とは、「人間の生存と活動の基礎をなす、身体的、および精神的能力である」と定義されます。活動的に身体を動かすため「行動体力」と、病気にならない、気持ちが落ち着いているなど健康的に生きるための「防衛体力」の2つに大別されます(図)1)。
一般的な体力測定とは行動体力の機能面を測ることをいい、筋力・筋持久力、敏捷性・スピード、平衡性・協応性、持久力、柔軟性で評価されます。
体力測定の目的・意義
特に全身持久力、筋力・筋持久力、柔軟性は、体力要素の中でも健康と深く関連することが報告されています。健康の維持増進にはすべての体力がバランスよく高い状態であることが望ましく、体力測定をすることでどの体力が高く、どの体力が低いのかを把握することができます。体力測定をすることで現状の体力の把握と、個人により適した運動内容を選択することができるようになります。
高齢者の体力測定
代表的な体力測定に、文部科学省「新体力テスト」の65~79歳を対象とした測定項目・判定基準があります2)。「新体力テスト」では、65歳以上の場合、体力測定を実施する前にADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)に関するテストを行い、スクリーニングの判定基準により体力測定の実施項目を決定します。ADLテストで一定以上の点数が得られない場合、体力測定は実施不可となります。
他にも徒手で大腿四頭筋の筋力を測定する下肢筋力測定や、椅子からの立ち座りと歩行を組み合わせた複合的動作能力を測定するTimed up & goテスト、歩行能力を測定する5m歩行、動的バランス能力を測るファンクショナルリーチ等、対象者と目的に合わせた測定方法があります3,4)。これらは多くの対象者から測定データを集め、年齢別・性別に基準値が算出されているので参考にすることができます。
特に高齢者の体力測定を行う場合は、転倒や疼痛など障害の発生リスクが高く注意が必要です。測定の際に補助者1名が傍につき、測定に影響を及ぼさずかつ安全を保障できるような工夫と技術が必要となります。
高齢者の体力測定の項目
高齢者の代表的な体力測定項目と測定方法(概要)は以下の通りです。(「新体力テスト実施要項」、「運動器の機能向上マニュアル(改訂版)」一部抜粋)
握力
直立の姿勢で、握力計を身体や衣服に触れないようにしながら全力で握りしめます。左右交互に2回ずつ測定します。
上体起こし
マット上で両膝の角度を90°にした仰臥位をとり、両腕を胸の前で組みます。30秒間で仰臥姿勢から両肘が大腿部につくまで何回上体を起こせるか測定します。
長座体前屈
壁に背をつけて長座姿勢をとり、膝を伸ばしたまま前屈します。測定用の箱を用い、スタート地点からの箱の移動距離を測定します。
開眼片足立ち
目を開けたまま何秒間片足立ちで立っていられるかを測定します。最大120秒とし、2回測定したうち良い方を記録とします。
10m障害物歩行
10mの間に2m間隔で置かれている障害物をまたぎ越しながら、スタートからゴールまでの歩く時間を測定します。
6分間歩行
普段歩く速さで歩き、6分間で移動した距離を測定します。
下肢筋力測定
膝が90°になるように椅子に座った状態から膝を伸ばします。下腿下部前面に筋力測定器をあて、等尺性(膝の角度が一定のままでの)膝伸展筋力を測定します。
Timed up & goテスト
椅子から立ち上がり、3m先の目印を折り返し、再び椅子に座るまでの時間を計測します。小走り可。
5m歩行
5mの距離を歩く時間を計測します。
ファンクショナルリーチ
直立姿勢で両腕を肩の高さ(90度)まで挙げた状態から、バランスを崩さずに上体を前傾します。スタート時点からの指先の距離を測定します。
体力測定はどこで受けられるか
各測定項目と測定方法の詳細は「新体力テスト実施要項2)」や「運動器の機能向上マニュアル(改訂版)3)」等で解説されています。そのため特別な施設でなくても自分で測定環境を整えられればどこでも実施可能です。ただし、高齢者の場合、転倒や障害のリスクが高いため一人では行わず必ず補助者とともに行うことが推奨されます。
専門的に測定してもらいたい場合は、各自治体や地域にある体育施設で体力測定を行っていることがあるため、各自問い合わせてみることをおすすめします。
参考文献
- 猪飼道夫:運動生理学入門.杏林書院,東京都,1969