高齢者の低栄養対策のための食生活とは
公開日:2016年7月25日 12時00分
更新日:2020年5月22日 10時49分
高齢者の食生活の特徴とは
高齢者の食生活の特徴は、独居や高齢者だけの世帯になると、同じものばかり食べる、買い物や調理が億劫(おっくう)になる、食事そのものへの関心が薄れ、食生活が単調になってしまう、食事の回数が減る、といった特徴があります1)。
また、独居や高齢者だけの世帯は、社会的孤立から外出する頻度も減り、運動不足により食欲低下となり、食事量の減少など悪循環を招きます。
また、加齢に伴う生理的、社会的、経済的問題は高齢者の栄養状態に影響を与えます。
これらの高齢者の食生活の特徴から、低栄養状態に陥ってしまいます。高齢者の代表的な低栄養の要因は次の通りです。
高齢者の代表的な低栄養の要因 2)
- 社会的要因
- 独居
- 介護力不足・ネグレクト
- 孤独感
- 貧困
- 精神的心理的要因
- 認知機能障害
- うつ
- 誤嚥・窒息の恐怖
- 加齢の関与
- 嗅覚、味覚障害
- 食欲低下
- 疾病要因
- 臓器不全
- 炎症・悪性腫瘍
- 疼痛
- 義歯など口腔内の問題
- 薬物副作用
- 咀嚼・嚥下障害
- 日常生活動作障害
- 消化管の問題(下痢・便秘)
- その他
- 不適切な食形態の問題
- 栄養に関する誤認識
- 医療者の誤った指導
食事はただ食べるためのものではなく、楽しく、美味しく食べることで生きがいにもつながります。しかし、独居や高齢者二人のみでは、食事の時の会話の楽しみなどが減り、食欲低下を生じることもあります。生活リズムの乱れから、朝食、昼食が一緒になり1日2食になることもあります1)。
平成28年国民健康・栄養調査の結果によると、65歳以上の高齢者の低栄養傾向の人の割合は17.8%で、およそ高齢者6人に1人が低栄養状態です3)。
低栄養が及ぼす健康への影響
低栄養状態は、筋肉量の減少が現れます。高齢者になると、食事はきちんととり、健康的であっても、若いころに比べると、加齢とともに筋肉量や骨量は減少していきます。筋肉量の減少により、転倒しやすくなってしまうため、骨量も少ないので、骨折の危険性は増加します。
栄養不足の状態が続くと血液中のアルブミンなどのたんぱく質が減っていきます。それにより免疫機能が低下し、風邪などの感染症を引き起こしやすくなり、認知機能の低下、創傷治癒遅延となり、これらがいくつも重なると寝たきり状態や死に至る危険性も出てきます4)。
高齢者の低栄養対策のための食生活
高齢者の低栄養の対策として、元気で長生きのための食生活という内容で、以下15項目があります。日々の食生活に気をつけていくことで、低栄養を予防し、健康寿命を延ばしていくことができます。
低栄養を予防し老化を遅らせるための食生活指針4)
- 3食のバランスをよくとり、欠食は絶対さける
- 動物性たんぱく質を十分に摂取する
- 魚と肉の摂取は1:1程度の割合にする
- 肉は、さまざまな種類を摂取し、偏らないようにする
- 油脂類の摂取が不足にならないように注意する
- 牛乳は、毎日200ml以上飲むようにする
- 野菜は、緑黄色野菜、根野菜など豊富な種類を毎日食べ、火を通して摂取量を確保する
- 食欲がないときはとくにおかずを先に食べごはんを残す
- 食材の調理法や保存法を習熟する
- 酢、香辛料、香り野菜を十分に取り入れる
- 味見してから調味料を使う
- 和風、中華、洋風とさまざまな料理を取り入れる
- 会食の機会を豊富につくる
- かむ力を維持するため義歯は定期的に点検を受ける
- 健康情報を積極的に取り入れる
普段から体重の変化やBMIなどにも注意し、栄養バランスの良い食事を摂るようにしていきます。高齢者では肥満よりも痩せすぎの方の方が、死亡率が高くなっています5)。
肉、魚、卵、乳製品などの動物性たんぱく質は人の体の筋肉や血液など身体をつくる役割があります。たんぱく質の摂取不足により、血液中のアルブミン量が減少し、低栄養状態を招きます4)。
高齢者になると1回の食事量が少なくなるため、栄養素の不足によって低栄養を引き起こします。1回の食事で不足する栄養素は、間食で摂るようにしましょう。とくに牛乳などの乳製品には多くのたんぱく質が含まれるので、積極的に摂るようにします。
調理において、いつも似たような味付けばかりだと、食事がマンネリ化してしまいあきてしまいます。和風、洋風、中華などいろいろな料理を入れ、食事を楽しむようにします。調理が大変な方は宅配食やコンビニ、スーパーなどのお惣菜、冷凍食品などを上手に利用します。
高血圧の方は減塩に気をつけます。しかし、全体の味付けが薄いと食欲が低下し食事がすすみません。酢や香辛料、香味野菜などを利用してメリハリのあるお食事にします。
栄養バランスの良い食事のメニューや食材選びについては、厚生労働省と農林水産省による「食事バランスガイド」を活用します。毎食を完璧でなくても1日の中で栄養バランスを整えるようにしていきます。その日に食べられなければ、翌日に取り入れるようにしていきます(リンク1、2参照)。
参考文献
- 葛谷雅文 低栄養 新老年医学 第3版 大内 尉 秋山弘子編集. 低栄養 東京大学出版会(東京)2010;579─90.