カロリー制限と健康長寿の関連
公開日:2016年7月24日 01時00分
更新日:2023年8月 2日 13時13分
カロリー制限とは1)
カロリー制限とは、その字の通り、摂取するエネルギー(数値ではカロリーとして表わす)を制限することです。
近年、中高年、特に中年の世代の間では、生活習慣病が増加し、大きな社会問題になっています。食生活の乱れや運動不足などによる肥満が、生活習慣病の大きな原因の一つであると言われています。
ヒトを含む動物は、摂取した食事をエネルギーに変え、それを消費して活動します。摂取したエネルギーの方が消費するエネルギーより多ければ、余った分のエネルギーは体に体脂肪として蓄積されていき、その分体重は増加します。反対に、摂取したエネルギーの方が消費したエネルギーより少なければ、体重が減少します。
そのため、肥満傾向の人が体重を減らそうと思ったら、運動して消費エネルギーを増やすか、食事を制限して摂取エネルギーを減らすかして、消費エネルギーが摂取エネルギーを上回るようにします。
摂取エネルギーを制限するためは、単純に食べる食事のカロリーを減らします。近年、糖質だけを制限する糖質制限ダイエットや脂質だけを制限する脂質制限ダイエットが流行っていますが、これまで日常、脂質や糖質を過剰に摂取していた場合などを除いて、特定の栄養素だけを制限する方法は、栄養バランスが崩れてしまう危険があります。脂質や糖質だけを制限する必要があるのであれば、かかりつけの医師のもとで栄養士の指導を受けながら行うことをおすすめします。
カロリー制限と健康長寿の関連2)3)
近年、さまざまな老化の要因を抑えてくれる長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)の存在が明らかにされ、研究者の間で注目を集めています。
この長寿遺伝子は、2000年にアメリカのマサチューセッツ工科大学の研究者が、酵母から発見しました。ヒトもみんなその遺伝子を持っていることも明らかになっています。
この遺伝子は、細胞内でエネルギーを作り出す※ミトコンドリアを増やしたり、細胞内で古くなったミトコンドリアを新しくして細胞を若返らせたりするほか、体に有害な活性酸素を除去したり、動脈硬化や糖尿病などの病気を予防したりする働きがあります。
※正確にはエネルギーを身体が利用しやすい型に変換すること、ここではわかり易く「作る」としておきます。
しかしながら、この長寿遺伝子は通常は眠った状態で、最初から機能しているわけではありません。いくつかの研究で、摂取するカロリーを制限することで、長寿遺伝子が活性化することが明らかになっています。ヒトでの研究では、7週間、必要なエネルギー量の25%のカロリーを制限することで、長寿遺伝子の働きが4.2倍~10倍に増加したことが示されました。
さらに、摂取カロリーを制限して体重を制限することで、糖尿病や動脈硬化などの発症も防ぐことが出来ます。実際に、ウィスコンシン大学がヒトに近い種のアカゲザルを用いて行った研究では、食事のカロリーを制限したサルでは、自由に食事をしたサルよりも、加齢関連疾患(がん・心血管疾患・糖代謝異常)にかかっていないサルの割合が明らかに多いことが示されています(図1)3)。
自由摂食群ではかなり若い時から加齢関連疾患(がん、心臓血管系病気、糖尿病)が増えてくる。
中年(15-20歳位:ヒトでは45-60歳相当)では両群の違いは明瞭。
ダイエット・やせの健康長寿の影響3)
それでは、誰もが食事の摂取カロリーを減らせばよいのでしょうか。
高齢者の間では、肥満による生活習慣病の増加の問題に加えて、低栄養も問題になっています。低栄養で、栄養状態が良くないと、風邪をひきやすくなったり病気にかかりやすくなったりします。特に高齢者の場合は、栄養状態が良くないと体の抵抗力も著しく低下しますので、ちょっとした風邪をこじらせて肺炎になってしまうという場合も少なくありません。実際に肺炎による死亡者の数は年齢が上がるにつれて急増しています。そのため、痩せすぎている人の場合は、健康長寿のためには、摂取カロリーを制限するよりもむしろ増やした方が良い場合もあります。
やせすぎで食事の量を増やした方が良いか、それとも食事のカロリーを制限したほうが良いのかを簡単に知るためには、BMI(体格指数)が指標になります。BMIは「BMI=体重(kg)÷身長(m)の2乗」の式で計算できます。厚生労働省が定めた食事摂取基準でも、エネルギーの摂取量と消費量のバランスの維持を示す指標としてBMIが導入されるようになりました。
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、目標とするBMIの範囲が定められています。65歳以上の高齢者は、フレイルの予防及び生活習慣病の発症予防を考慮した値に定められています。目標とするBMIの範囲内に体重を設定し、エネルギーの摂取量及び消費量のバランスを維持することが大切です。肥満以外に、高齢者の場合には、低栄養予防のためにも、エネルギーをしっかりと補うことも大切です。
目標とするBMIの範囲は表1、推定エネルギー必要量は表2の通りです。
年齢 | 目標とするBMIの範囲 |
---|---|
18~49歳 | 18.5~24.9 |
50~64歳 | 20.0~24.9 |
65~74歳 | 21.5~24.9 |
75歳以上 | 21.5~24.9 |
- 男女共通。あくまでも参考として使用すべきである。
- 観察疫学研究において報告された総死亡率が最も低かったBMIを基に、疾患別の発症率とBMIの関連、死因とBMIとの関連、喫煙や疾患の合併によるBMIや死亡リスクへの影響、日本人のBMIの実態に配慮し、総合的に判断し目標とする範囲を設定。
- 高齢者では、フレイルの予防及び生活習慣病の発症予防の両者に配慮する必要があることも踏まえ、当面目標とするBMIの範囲を21.5~24.kg/m2とした。
性別 | 男性 | 男性 | 男性 | 女性 | 女性 | 女性 |
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル※ | Ⅰ(低い) | Ⅱ(普通) | Ⅲ(高い) | Ⅰ(低い) | Ⅱ(普通) | Ⅲ(高い) |
65~74歳 | 2,050 | 2,400 | 2,750 | 1,550 | 1,850 | 2,100 |
75歳以上 | 1,800 | 2,100 | ― | 1,400 | 1,650 | ― |
- ※身体活動レベル:
-
- Ⅰ(低い):生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合。(75歳以上は、自宅にいてほとんど外出しない者、また、高齢者施設で自立に近い状態で過ごしている者にも適用できる値である。)
- Ⅱ(普通):座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事・軽いスポーツ等のいずれかを含む場合。(75歳以上は、自立している者に相当する。)
- Ⅲ(高い):移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣をもっている場合
低栄養予防のための食事については、たんぱく質不足は低栄養を招きやすいため、たんぱく質が不足しないように気を付けましょう。1日3回の食事でたんぱく質が豊富に含まれる肉や魚、大豆製品を取り入れ、食事だけでなく間食に牛乳・乳製品を摂るように心がけることが大切です。
参考文献
- 教えて!ドクター 第4回 腹七分目で若返ろう カロリー制限が長寿遺伝子活性化 金沢医科大学病院