きざみ食による誤嚥の危険性
公開日:2016年7月25日 00時00分
更新日:2019年2月 1日 18時24分
きざみ食の特徴
きざみ食は咀嚼(噛む機能)が低下した方や歯がない人が噛まなくて済むように5mm~1cm位に細かく包丁で刻んだ食事のことです。刻んだ食事は口の中でパラパラしてしまい、うまくまとまりません。そのため、飲み込んでも咽頭で残り、気道に食べ物が入ってしまうことがあります。これが誤嚥(ごえん)の原因です。
きざみ食は噛むという作業を省くため、高齢者にとって食べやすい食事に思われがちですが、噛む機能だけが低下している人はいません。多くの方が唾液の分泌量が少ないか、飲み込みがうまくいかない、むせ込みやすいなどスムーズに食事ができない方が多いです。
またきざみ食は口の中に食べ物が残りやすく、歯の間に入りやすい為、食後にきちんと口腔ケアをしないと虫歯になり、細菌が繁殖してしまうこともあります。
きざみ食は噛む機能を助ける食事形態なので、嚥下食(えんげしょく)には向いていない、食事形態です。
フライやキャベツの千切りなど料理によっては、食べ物を刻むとカサが増えるので、盛り付け量が減り、結果的に摂取量が少なくなってしまいます。また食べ物を刻むと、本来の料理の形がわからなくなり、食欲低下をも招きます。摂取量の減少や食欲低下により、体に必要な栄養素が補いきれないことがあります。細かく刻んであるのでスプーンで食べますが、ぽろぽろとこぼれやすいので、口まで運ぶのも難しく、自力で食べるのも大変です。
きざみ食は調理済み食品をまな板の上で、包丁で細かく刻みます。刻むときに食中毒の菌が付着する可能性が高くなります。さらにまな板や包丁など調理器具類が、調理前と調理後と区別されていないと、より細菌やノロウイルスなど二次汚染を引き起こしやすくなります。細菌は加熱すれば死滅しますが、調理済みは再度加熱をせず、そのまま提供をするため、時間がたてばたつほど、細菌も増殖し、食中毒のリスクも高まります。
きざみ食の誤嚥の危険性
食べ物を食べる行動の流れは5つの段階があります。
1.先行期
目の前にある食べ物を見て、食べられるものと認識するとどれくらいの量をどうやって食べようか判断します。この時に唾液や胃液の分泌が促され、体が「食べる」ことに反応を始めます。
2.準備期
食べ物を嚥下(えんげ)するための準備をします。食べ物を口に入れて飲み込めるように、咀嚼(そしゃく)し、飲み込みやすいように、食べ物を舌で形作りします。
3.口腔期
口の中で塊になった食べものを、喉に運ぶ時期です。準備期で形成した食べ物を喉にまで運ぶことができなければ、食べ物は口の中に残ったままになってしまいます。
4.咽頭期
塊になった食べものが、咽頭から食道へと運ばれます。この時に声門が閉じていなかったりすると、食べ物が気道へ入ってしまい誤嚥を引き起こしてしまいます。
5.食道期
食べ物の塊を、食から胃へ送り込む時期です。
食べ物はこの5つの流れを経て、胃へ食べ物が送り込まれますが、きざみ食では、準備期や口腔期で食べ物がパラパラし、うまくまとまらないので、誤嚥し、誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます。
若いころは誤嚥(ごえん)をしても、激しく咳をすれば気管に入ってしまった食べ物を出すことができますが、高齢者になると体力が落ちているため食べ物を出すことが難しくなります。
高齢者になると噛む機能は衰えてしまい、刻んだ食事で噛むことを省いてしまいますが、唾液の分泌は先行期だけでなく、噛むことによっても分泌されます。噛むことを省いてしまうと、ますます唾液の分泌量が減り、食べ物がまとまらず、悪循環となってしまいます。
万が一きざみ食を提供する際は、料理を単に細かく刻むのではなく、舌でつぶせる程度まで軟らかく調理します。またパサパサしたり、口の中の水分を吸収してしまうものには、片栗粉やとろみ剤であんをかけ、食べ物がまとまりやすいように、調理の工夫をします。
参考文献
- 家庭でできる高齢者ソフト食レシピ2 著者:黒田留美子 発行所:株式会社河出書房新社