日常生活圏域で地域包括ケアシステムをめざす(宮島 俊彦)
公開日:2020年2月28日 09時00分
更新日:2021年6月30日 11時06分
シリーズ第1回生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして
わが国がこれから超長寿社会を迎えるに当たり、長寿科学はどのような視点で進んでいくことが重要であるかについて考える、シリーズ「生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして」と題した各界のキーパーソンと祖父江逸郎公益財団法人長寿科学振興財団理事長との対談の第1回は、宮島俊彦厚生労働省老健局長(当時)をお招きしました。
人類史上初めて実現した長寿社会
祖父江:人類の長い歴史で初めて長寿社会がわが国で実現しました。それにはこれまでのいろいろな要因がかかわっていると思われますが、中でも昭和40年以降の食生活、生活条件の変化というものが極めて大きな影響を持ちました。年齢層ごとの生存率は、この40年間で大きく変わりました。そのような時代にわれわれは生きているのです。うまくこの高齢社会を乗り切って、輝くような高齢社会にしていくにはどうすべきでしょうか。
宮島:あまり悲観的に考えることもないと思っています。健康寿命が長い高齢者像をつくり、それをめざしてもらえばよいのです。
祖父江:それが一番よいのではないでしょうか。私がいつも言っているのは、自分よりも1つか2つ年上で比較的元気な人、そのあとをついていけばよいのです。マラソンと一緒です。
宮島:1人暮らしや夫婦2人暮らしが増えますから、地域で生活するために、どのような自助・互助的な生活基盤を地域の中につくるが大きな課題だろうと思っています。
高齢化の問題は東京・大阪などの都市問題
祖父江:後期高齢者の数が非常に増え、2050年頃になると、生産人口が減って1.2人で1人の高齢者を養わなければいけないという時代になるといわれています。このことを国民1人ひとりが覚悟をしなければいけないと思うのです。
宮島:よくいわれるのは、今までは3人で1人が上に乗る「騎馬戦型」の社会だったのですが、2050年に向けて1人で1人を支える「肩車型」になります(図1)。行政の体制整備では、箱根駅伝で現在だいたい3区の終わりぐらいまで来ています。さらに4区を走って、あと10年すると箱根の坂を上るところに来るということでしょう。
このため施策のピッチも早くしなければならないのですが、長寿社会のあり方を考えると、行政サービスだけで全部カバーできるようなことにならない。若い人もそうですが高齢者1人ひとりの生き方が変わってくるのではないかと感じています。
これまでの大量生産・大量消費の時代から「1人ひとり個性のあるものを持ちましょう」と変化してきましたが、それがまたさらに変わっていくというのが私の印象です。
たとえば、シェアハウスが流行ってきているように共用部分は共有しますが、プライバシーはそれぞれ保って一緒に住む。そういうベースの生き方が変わっていかないと、この超高齢社会を乗り切るのはむずかしいというイメージを持っています。
祖父江:高齢者自身の生活の仕方をだんだん変えていかなければいけない時代になってくると思います。私自身は後期高齢者の91歳(2013年当時)です。社会の動きが極めて早く移り変わっていくことに高齢者自身がそれについていけるかどうか。IT化や先端技術化とシステムが急激な変化を起こし、スピードを上げています。この「ファストライフ」に対して、多くの人が「スローライフ」の必要性を言い出しています。そのあたりのバランスが非常にむずかしいのではないでしょうか。
宮島:今まで集権化・都市化が進んできました。これから高齢化の問題はまさに都市問題になろうとしています。地方の高齢化はもうピークです。これから急速に高齢化が進むのは、東京とその周辺の千葉・埼玉・神奈川、それと名古屋・大阪・福岡とその周辺です。
戦後の高度経済成長期に地方から出てきた団塊の世代は今65歳ですが、あと10年すると75歳です(2013年当時)。この人たちの生き方がどうなるのかが、一番大きな社会問題になるのです。
予防・医療・介護・生活支援と住まいの要素
宮島:団塊の世代が一番大きな高齢人口の山です。次に第2次ベビーブームのもう1つの山が来ます。高齢者人口が相対的に減るのは第2次ベビーブームの人たちの高齢化が過ぎないと始まらないのです。
私たちは「地域包括ケアシステム」を進めていますが、これは以前からある程度いわれていました。「コミュニティケア」、「全人的医療」などです。「地域包括ケア」という言葉は、広島県御調(みつぎ)町(現在は尾道市)の山口昇医師が昭和50年代に提唱しました。当時は脳卒中を早期に治療してどうやって地域に早く帰すか。そのためには地域での受け入れ体制も整えなければと、「地域包括ケア」がいわれました。
エレメント(要素)としては、予防・医療・介護・生活支援・住まいの5つがあり、これらを一体的に提供できる圏域を人口1万人程度の中学校区に整備することをめざしています(図2)。これを考えていかないと、超高齢化社会は乗り切れません。
特に都会は土地問題などにより新たな施設をつくるのはむずかしい現状ですので施設や病院中心に高齢者のケアを組み立てていくのではなく、地域をベースにして5つのエレメントで組み立てていくということです。
祖父江:都市の中でも1つずつモデルをつくって、どの程度できるかということを検証すれば自然に広がっていきます。「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」の頃から「中学校区」を1つのユニットにして、たとえば老健施設や特養などをどう配置したらよいか検討されていましたね。
宮島:たとえば新潟県長岡市では、丘の上の大規模特養はやめてしまい、30床程度の小規模特養を市内各地に配置して、もっと生活に密着したところに特養があるという形に変えています。
その小規模特養に、ショートステイやデイサービスもあり、そこからヘルパーが地域に出ていけるように多機能型にしました。特養をどんどんつくるのではなく、中学校区というエリアを介護サービスと医療サービスでカバーするということです。小規模多機能型居宅介護、認知症のグループホームなど規模を小さくして中学校区ごとにサービスが行き渡るようにするということが始まってきているのです。
もう1つの柱は在宅医療と訪問看護です。このあたりが充実してくると、在宅でも重度の方に対応できるようになってくるのではないかと思います。
祖父江:在宅医療・看護・介護のシステム化、ことに24時間365日といったシームレスの体制が十分整っているわけでなく、このことが不安材料になっている点ではないのかという感じがします。
宮島:なぜ特養や病院に行きたいかというと、家族の介護負担や、世帯に介護の担い手がいないということ。もう1つは、病状が急変したときの医療が確保できていないから、病院に行くしかないということなのです。この2つの要因を、医療と介護の連携でカバーしていく在宅ケアができれば、かなり多くの方が在宅で暮らせるようになると思っています。
祖父江:現実的にはそのとおりですね。しかし、エマージェンシー(急変)が起こったときには、急性病院で一応の手当てを受ける。それで治まって、ある程度慢性化したときが問題です。
宮島:そうですね。在宅に受け皿がないという問題は確かにあり、在宅医療と看護の体制ができないと慢性期の病院に行かざるを得ないという形になっていますね。
祖父江:そこをどう対応していくのかはこれからの課題ですね。それからマンパワーや医療行為の問題があります。医療行為については、介護福祉士の方たちが少しずつ簡単なことができるようになってきつつあるのですが、いずれにしても医療行為の核心のところはスペシャリストが必要でしょうから、その部分をどうするのかということですね。
シームレスな医療・介護をどうセットアップするか
宮島:介護福祉士が基礎的医療ケアをできるように教育しているのがヨーロッパの流れです。今の介護福祉士の養成は高校卒業後2年ですが、ヨーロッパでは3年になっているのです。ドイツでは准看護師と介護福祉士を一緒にしたような養成体制になっています。
フィンランドの教育システムが一番進んでいます。保育士・准看護師・介護福祉士のカリキュラムを一緒にしているのです。ケアの専門職として共通する基礎課程を2年間学び、3年目に保育士コース・准看護師コース・そして高齢者のコースなど9つのコースのうちから1つを選択します。
そうすると、たとえば高齢者ケア施設に勤めていた人が「高齢者ケアに向かないので保育士のほうがいい」という場合、あとで保育士の専門コースで1年間職業訓練を受け直して転換できるのです。そのように働き口を変えられるという意味での基盤があるのです。
日本の介護福祉士養成は2年です。今回、少し医療行為ができるようにしましたが、本格的に見直そうと思ったら、そのような方向がよいと考えています。
祖父江:要するにレベルアップですね。
宮島:レベルアップです。掃除・洗濯・料理ばかりを行う必要はありません。
祖父江:高齢者側からいいますと、何らかの医療行為が必要になってきます。その限界が非常にむずかしく、医師法の中の医療行為の限界ということがいわれていますので、いわゆる在宅ケアでも一番ネックになってしまうわけです。スペシャリストとして養成した人たちが、そのような場面のときにどれぐらい活用できるのか、有効に働き得るのかについてはどうでしょうか。
宮島:介護福祉士がどれだけ医療行為を行うかというのは、ある程度線引きしないといけないと思っています。
看護師は「診療の補助」はできるということになっていますから、医師の指示を受ければかなり広範囲なことができます。在宅ではどうしても医師から離れてしまいますので、「包括指示」にしてもらうなど、医師との関係は弾力性があるようにすることが必要でしょう。
その後に、看護師と介護職との間で役割分担をある程度きちんと決め、その中で看護師の指示を受けて介護職でも大丈夫だという医療行為はやってもらうことです。そのようにしないと、うまく回らないのです。
祖父江:回らないですね。そこが大きな問題だと思うのです。在宅をどの程度進展させていくのか、どこにウエートを置くのかということはこれからの高齢社会の一番大きな課題です。そこに24時間365日シームレスの医療・介護がどの程度セットアップされているのか。これで高齢者の心理的な安定感というものがずいぶん変わります。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 189保険者での実施へ
宮島:今年(2012)度から定期巡回・随時対応型訪問介護看護を始め、すでに60か所以上で始まっています。第5期介護保険事業計画において、平成24年度に189の保険者がサービスを見込んでいます。看護師・介護職員が短時間でも来てくれるとなると、かなり在宅の対応力は高まると思います。
祖父江:そのあたりを大いに進めていただくと、高齢社会の大きなキーポイントになるのではないかと感じます。地域包括ケアシステムの中に「生活支援」を入れたことは非常に意味があると思います。高齢者は毎日の生活が非常に大きなウエートを持っているわけです。
たとえば、食生活1つにしてもサポートしてもらわなければ生活ができない在宅の人がかなりいると思うのです。それには民間の力、食の配給制度などをどんどん入れていくべきではないかと思うのです。
宮島:サービス提供のあり方として、ヘルパーはケアの部分でやることが多くありますから、配食・見守り・移送サービスなどは、地域の中に埋め込んでいく。配食サービスだったら配食業者が専門的に行い、見守りはボランタリーな民生委員や自治会が組織化して行っていくということが望ましいでしょう。孤独死の問題では、意外とガス業者や水道業者が気づいているのです。
認知症の見守りも社会的な資源の使い方として、ヘルパーが24時間つきっきりというわけにいきません。たとえば大牟田市が実施しているように、認知症の人が徘徊した場合、警察・消防署・商店街もお互いに連携して地域包括支援センターに連絡するネットワークをつくっています。そういうものを地域社会の中に埋め込んでいないと、要介護の高齢者が地域で生活できないということになってしまう。
また、生活支援では虐待の問題、認知症の人の後見制度、低所得の高齢者の家賃保証などもあります。生活基盤そのものを介護サービスとは別枠で考えていくために、「生活サービス」、「生活支援」という言葉を使ったのです。
地域包括支援センターに「地域ケア会議」を
祖父江:食事が摂れなくなることは高齢者の大きな致命的な問題の1つです。どういう要素・要因によって食べられないのか、食べたくないのか、あるいは心理的な要因がどれぐらい影響しているのか、飲み込み動作ができにくい嚥下困難がどのぐらいあるのか、そういう医学的・心理的な問題の見極めが結構ついていないことが多いのです。
現場ではある程度見極めをつけることによって大きく病気が好転していく場合があり得るものです。したがって、どうやって地域の中に組み込んでいくのかという問題になります。たとえば、地域の医療機関の方が時々見て回る「地域回診」をシステムの中に入れれば、より一層安心できる状況が形成されるのではないかと感じます。
宮島:介護保険のサービスを組み合わせて利用者の身体や精神のニードに合ったケアプランをつくるのはケアマネジャーです。しかし、実際のケアプランは医療やリハビリのニード、咀嚼や口腔の状況など、なかなか1人のケアマネジャーでは幅広くできないのです。
そこで「地域ケア会議」を提唱しています。地域包括支援センターに地域ケア会議を置き、この中で多職種の人が集まり、個別のケースについてケアプランの検討をしていただく。するとケアプランの内容も向上し、利用者の自立支援に対応できるようなプランができていく。
そしてケアプランをつくる過程で、「この地域は見守りサービスがないから、認知症の人が困ってしまう。ここは歯科衛生士の活動がないから、口腔ケアがほとんどできない」といったような地域の課題も見えてくるのです。そうすると、そのサービスをどうつくっていったらよいかが市町村の介護保険事業計画に反映される。そのような仕掛けを各地域包括支援センターごとにつくっていかないと、地域包括ケアはうまくいかないと思っています。
祖父江:医療関係者、特に医師もそういうことに目を向けていただくということが重要ですね。病院や施設の延長線上に地域の在宅ケアがあると考えたらよいのでしょう。
宮島:施設や病院はそこの中でパッケージになって完結しているのですが、地域というのはもっと広がりがあります。
祖父江:病院や施設のようにはいかないにしても、それに類似したような、介護や医療がある程度行き渡るというシステムが地域にあればよいのではないでしょうか。
宮島:医療や介護が地域で行き渡ってくると、それは施設や病院にない地域のよさというのも、またあります。家族関係や地域の人間関係は病院や診療所・施設よりはるかに豊富です。それから本人の生きがいです。病院や施設に入っているより、自宅で生活しているほうが本人のやる気が出ますから、自立志向はずっと強くなっていくわけです。
条件が整えばやはり在宅が一番よい
祖父江:おっしゃるとおり、いずれにしても在宅には何ものにも代えがたい馴染み・安定感といったものがあり、やはり在宅にいたい、在宅で医療・介護サービスを受けいという志向が、高齢者の中では高いですね。
宮島:その気持ちは強いですね。実際にその条件さえ整えてあげれば、かなり在宅で健康寿命を維持していくことができます。
祖父江:在宅で医療・介護サービスが必要になっている対象人口というのはどれぐらいですか。
宮島:要介護認定を受けている方は500万人を超えました(2013年当時)。
祖父江:そのうち、施設や病院などに入っている方がいますね。
宮島:100万人少々は入っています。特養・老健施設で78万人、介護療養病床に8万人、有料老人ホームは27万人です。在宅も320万人程度です。
サービス付き高齢者向け住宅もあります。最近出てきているサービス付き高齢者向け住宅は賃貸契約で在宅として扱われるものが多いですが、利用権方式のように施設に近い契約方式をとるものがあります。
祖父江:総務省のデータで、65歳以上高齢者の約9割はADLはまあよいということです。そうすると、大まかに言って65歳以上約2,800万人の1割である約300万人が要介護者ですね。
宮島:介護保険の要介護認定では要支援1や2の軽い人も対象にしていますから、それで500万人ぐらいという数になるのです。介護保険給付を65歳以上で受けている方はだいたい6人に1人。ADLが低下している方は10人に1人ぐらいでしょう。
祖父江:そういう方たちがぜひ生き生きと長寿社会の生活をエンジョイしていくように在宅ケアや医療の一部を持っていかないとなりません。現在、ある程度要介護度が高くなった方は別として、これからは介護予防をもう少し的確に進めていく。そうしないと追いかけっこになってしまいます。
宮島:介護予防と生活習慣病予防、がんの検診の問題があります。介護予防では生活不活発による廃用症候群・低栄養・運動機能の問題を予防することです。それから生活習慣病である脳血管疾患・心臓病・糖尿病などの予防です。そして検診でがんを早期発見することです。これらをどう効果的に組み込めるかの影響は大きいと思っています。
介護予防事業の参加者をうまく募れない、どう効果的にやるのかというところに課題はあるのですが、一生懸命に実施している市町村とそうでないところのばらつきがかなりあります。
祖父江:私は、臨床を長年やってきて、疾病の発生は遺伝子の問題と環境要因というもののバランスであり、環境要因には種々ありますが、中でも食事・運動・休養などのバランスが重要といえます。特定の疾病遺伝子を持った人は当然発病しやすい条件にありますが、環境要因をうまくアレンジすることで発病阻止はかなりできるのではないかといわれています。生活習慣を整えることで生活習慣病などをある程度防いでいくことや、介護予防を強化することはこれからの長寿社会にとっては極めて重要なことです。こうした介護予防も一般的な風潮としてだんだん広がってきているのではないでしょうか。
宮島:「メタボリックシンドローム」の言葉が流行り、「食事と運動と休養が大事だ」という認識が一般的な常識になりました。介護予防でも同じようなことはいえるのです。「生活不活発になると要介護になる」、「口の清潔をきちんと行う」、「食事をきちんと摂る」、「栄養に気をつける」というのは、ある程度国民的常識になっていくでしょう。
「介護」というとどうしても「お世話」という感じになってしまいます。「食事のお世話をしてあげる」、「掃除してあげる」、「料理をつくってあげる」ということは、世話される本人には本当はよくありません。「お世話してあげる」ということは、「自分でやらない習慣をつくってしまう」ことになるからです。
お世話するのではなく、その人自らが自分で自立して生活できるように、どういうことをやったらよいのだろうかということを考えなければいけないのです。しかし、得てして介護というと、「お世話してやればいい」になってしまう。お世話すると、本人は何もすることがなくなり生活不活発になってしまう。
自立支援や予防については、介護の中でもリハビリのマインドが必要です。看護師やリハビリ専門職の指示を受ければ、ある程度リハビリができるような介護職員にしていかないと、逆回転してしまいます。
祖父江:最近の高齢社会では、"エリート高齢者"が増えてきつつあります。日野原重明先生は"エリート高齢者"の極地の人ですね(2017年逝去)。あのような方たちを1つの目標に、老化を少しでも遅らせていく。生き生きとした生活をして1日が過ぎ、プロダクティブ・エイジングを重ねれば、それに達することはできないことはない。そういう自立精神を国民運動の目標に入れたほうがよろしいのではないでしょうか。
家族機能が失われ地域も壊れている
祖父江:「自助」と「共助」と「公助」のバランスですね。これがうまくいっている地域はうまくいく。
宮島:ただし「自助」・「共助」・「公助」では、「公助」は生活保護のようになってしまい、「共助」というと社会保険のようになるので、最近は「互助」と言っている人がいます。
もう1つは、自分がやるということと、家族が助け合うというのも「自助」に入り、家族機能が大きな役割を果たしていたのですが、この家族機能が失われつつあるのです。それを地域で代替するということにならざるを得ないが、地域も壊れているのです。
地方は過疎・高齢化が問題になっているし、東京周辺は戦後、地方から出てきていた団塊の世代が郊外に住んでいますが、お互いをまったく知らないのです。これから出てくる問題はそこです。地域社会の中で、お互いが助け合うメカニズムをどうつくっていくのかということでしょう。
祖父江:私は戦前もよく知っているのですが、昭和の初めの頃の家族の力は非常に大きかったのです。ところが今は家族が崩壊してしまい、これが日本の社会にとって大きな打撃です。
それに代わるものとして何があるのかです。アメリカは「個人社会」といわれていますが、彼らの家族はかなり結びつきが強いのです。
宮島:アメリカは人種のるつぼといわれています。だから人種的な問題として塊がありますし、それでやはり最後は家族の結びつきがないと、あのような社会では生活が厳しいのではないかと思います。
日本のような民族的に同一で、どこへ行っても安全な国だから、1人で暮らしていても安全などの面では困らないところが影響しているという気がします。
祖父江:そういう社会構造がこれからの高齢社会の中で非常に大事な問題になると思います。厚労省の地域包括支援センターの考え方は大変興味深いことだと思います。このセンターはすでに全国に何千か所か用意されていますね。
宮島:約4,000か所あり、約3,000か所のブランチがあります(2013年当時)。
祖父江:ただし人的支援という点で力がどれぐらいあるのかというと、まだ少し小さいのではないかと思います。
宮島:1か所平均、5人しかいませんから。
祖父江:5人しかいないと、とても全部賄うことはできません。するとやはり地域の力を借りなければいけなくなります。
宮島:ある程度、充実していかないとなかなか厳しいところがあります。業務の整理をすることと、さらに充実していかないとやり切れないところが出てきています。
祖父江:ゴールドプランが始まってからもう20年以上経ちましたから、各地域における施設や、いわゆる健康、福祉、そしてケアに対するサポートシステムの施設などの社会的資源がかなり整備されてきています。そういうものを地域包括ケアや生活支援に結びつけようとした場合、実際にチームとしてどのように活用されているのかが住民にはまだ十分見えてきていませんね。
宮島:市町村単位だと大きすぎるのです。特に人口の大きい市では地域住民からは見えてこないのです。
祖父江:自分の問題、住民1人ひとりの問題としてどこをどうしたらシステムが回り動くのかということが見えてくれば、大きなセーフティネットになり得ると思います。もう少し地域住民の目にとまり、システムを回転させるようにしていただくのが当面の重要な課題ではないかと思います。
宮島:それは地域包括支援センターが本来果たす役割の一番大きなところです。
祖父江:それがセーフティネットになり、住民の不安を解消する引き金になると思うのです。いわゆる超長寿社会が来ても乗り切ることができるだろうと思います。どうぞよろしくお願いします。それから人類が初めて獲得した長寿社会の時代に生きているという誇りと、心豊かで生き生きとした長寿社会を築く責任を各個人が強く認識する必要があります。
本日はお忙しいところどうもありがとうございました。
(2013年1月発行エイジングアンドヘルスNo.64より転載)
対談者
- 宮島 俊彦(みやじま としひこ)
- 厚生労働省老健局長(当時)
日本製薬団体連合会理事長、東京女子医科大学監事、岡山大学客員教授、兵庫県立大学大学院経営研究科客員教授、介護経営学会理事。1977年東京大学教養学部教養学科卒業後、厚生省入省。2006年厚生労働省大臣官房審議官、2008年同省老健局長、2014年内閣官房社会保障改革担当室長を歴任。
著書に『地域包括ケアの展望』(社会保険研究所)がある。
転載元
公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.64