脳血管障害の理学療法
公開日:2016年7月25日 18時00分
更新日:2020年5月13日 14時04分
脳血管障害の急性期リハビリテーションの目的は、運動機能の回復が第一ではなく、日常生活動作の自立と今後回復期で行われるリハビリテーションの阻害因子となる廃用症候群の予防に主眼が置かれます。
1.関節拘縮の予防と褥瘡予防
最初にベッドサイドで行われるのは、関節拘縮の予防と褥瘡予防に努めます。そのためには、ベッド上での他動的な体位変換、良肢位を保つためのポジショニング、適切なマットの使用、時には手または足部に装具を使用します。これは、リハビリテーションとして重要であり、発症当日から可能です。
2.口腔ケアなど
次には、口腔ケア(リンク1参照)を行うとともに摂食・嚥下のスクリーニング評価(水飲みテスト、フードテスト)などを行い、摂食・嚥下訓練(リンク2・3参照)も行います。
また排泄訓練の前提として、尿意および便意の確認を行い、座位が可能になれば、介助にてベッドサイドでのポータブルトイレでの排泄を促します。同時に理学療法士および作業療法士による四肢の関節可動域訓練とストレッチングを開始します。拘縮予防として、各関節を5-10回の運動を少なくとも1日2回行います。
3.坐位訓練
次に開始されるのが、坐位訓練ですが、開始にあたっては、呼吸、血圧、脈拍などが落ち着き、麻痺の進行が停止したとき、意識が比較的はっきりしていることを目安とします。
初回の坐位訓練としては、ベッド上で背もたれ坐位をとらせるか、体幹の安定性があれば、介助でベッドサイドに下肢を下げての端坐位をとらせてもよい。次にベッドサイドの端坐位での坐位バランスの訓練を行います。
4.その他の訓練
同時に体幹・下肢基本訓練として、ベッド上で健側下肢の挙上訓練などを行います。
自己関節可動域訓練として、健側の上肢を用いて患側上肢の自己他動訓練などを行います。
床上起居移動動作訓練としては、背臥位にて健側上・下肢を用いての横移動と寝返り動作、起き上がり、ベッド柵をもって立位をとる起立訓練を行います。
移乗動作訓練としては、ベッドから車椅子、ポータブルトイレへの移乗動作の訓練を含みます。端坐位もしくは車いす上で30分程度の坐位がとれるようになれば、訓練室でのリハビリテーションに移行します。
訓練室でのリハビリテーション
1 マット動作訓練
マット上動作訓練として、横への移動、寝返り、起き上がりの練習を行います。
2 座位バランス訓練
端座位での体幹ゆすり動作としての動的座位バランスの練習を行います。
3 移乗動作訓練
移乗動作訓練、健側下肢・体幹の筋力増強訓練などを行います。
4 車椅子駆動訓練
健側の片手・片足を用いて車椅子を自己駆動する練習を行います。
5 ファシリテーション
脳血管障害患者では、痙性(けいせい:筋肉がかたくなること)により動的姿勢コントロールが障害されて、異常姿勢が固定・悪化すると考えられ、治療として筋トーヌスと運動により正常な感覚を患者さんに与えることにより筋の緊張と運動をコントロールする方法を学習することが、ファシリテーションです。治療手技は非常に多彩であり、具体的には、両足底が接地できる高さのベンチに座って伸展した患側上肢をベンチ上に置いて体重を負荷したり、患者さんに両手で組んでできる限り両上肢の肘伸展位を保ちながら立ち上がる動作を行うなどの練習をします。
6 起立訓練
起立訓練としては、手すりを把持して比較的高い椅子からの起立を行い、次に普通の高さの椅子からの立位を行います。
7 立位バランス訓練
もし必要なら下肢装具を装着して、平行棒内などで手すりを把持し、立位をとる練習をして、歩行の前段階の練習を行います。
8 歩行訓練
歩行訓練では、必要であれば下肢装具を装着して平行棒内歩行を開始します。次に介助量が少なければ、杖使用しての平行棒外での歩行を行います。また下肢装具自己装着訓練も同時に行います。