脳血管障害の言語療法
公開日:2016年7月25日 16時00分
更新日:2019年5月29日 10時57分
重症度別のリハビリテーションを示します。
1.実用的なコミュニケーション能力がない重度の障害
まず数字を書き写したり、数字のカードを用いた単純な課題でコミュニケーションとしての反応を引き出します。
発声や表情などに何らかの意志表示がみられる場合、首振りでの"はい"、"いいえ"の表現、指でのOKサイン、写真や絵の指さし、ジェスチャーなど、言葉を用いないコミュニケーション方法を指導します。
次に単語レベルの言葉を耳から聴いた時の理解力と字を目で見た時の理解力を促進するために、絵カードを用いて、言葉で示されたカードを指さしたり、示された絵カードに文字カードを合わせる練習をします。
また単語の理解と話す能力を促進するために、患者さんの前に実物を提示し、名前や用途を聞き、実物を選んだり、提示された文字カードに対応する実物を選ぶことを行います。また実物を使って実際の使う動作を行う練習をします。
2.ある程度の言語機能が残存し、聞き手の協力が必要ではあるが、身近な話題に関しては会話が成立する中等度の障害
中等度では耳で聞いて言葉を理解する能力を伸ばすために、種々の文型による表現を単純な形で数多く練習します。
話す能力を促すため、コマ漫画の説明、単文から徐々に長い文章を声に出して読んだり、復唱したりします。
読解力の向上のため、絵と文をマッチングさせたり、仮名文字、短い文、長い文を書き取ったり、新聞や文章の要約や日記を書いたりします。
また、非言語的手段で実用的なコミュニケーションを獲得するために、PACE訓練を導入します。これは、絵カードを机の上に伏せて積み、相手に見えないように患者さんと言語聴覚士が交互に取り上げ、絵カードの内容を描画やジェスチャーなどさまざまな代償手段を用いて伝えあうもので、自然に近い状態でのコミュニケーション能力を身につけます。
3.日常的会話はほぼ普通に行えるが、やや厳密さに欠ける軽度の障害
軽度の障害では、少ない言葉の数で伝える情報量を高める必要があります。
話す言葉では、単に叙述だけでなく、説明もできるようにします。日記、漫画を見てあらすじを書いたり、作文などを書いたりして、文章レベルの書字も活発に行います。話し言葉の滑らかさや仮名文字の操作、語想起などに障害が残っている場合、それだけを集中的に訓練を行います。
またグループ訓練として、患者さん同士で会話をしたり、歌を歌ったり、ゲームなどを通してコミュニケーションを向上させます。外来に通院している患者さんの場合、自宅で日記を書いたり、文を書き取ったり、文章を要約したり、計算問題の課題などを行います。
運動性構音障害の治療
発声訓練の前に、異常な姿勢や筋緊張をやわらげてから、頭と頸の安定を確保しながらリラックスした状態にします。
1.呼吸訓練
次に呼吸訓練として、正常な呼吸運動が可能となるように姿勢の指導を行い、急速に空気を吸ったり、息を止めたり、息をはき続ける時間を延ばす練習を行います。
また患者さんが息をはききったあとに言語聴覚士が胸郭を圧迫して息をはく時間を延長させます。さらに胸郭の抵抗運動や、コップに入れた水をストローで吹く練習などがあります。
2.鼻咽腔閉鎖不全
鼻咽腔閉鎖不全により発声が開鼻音となる場合、舌圧子を用いて軟口蓋を上に上げながら母音の発声をさせたり、氷刺激を与え軟口蓋の動きの感覚をよみがえらせます。
3.構音訓練
構音訓練として、下顎・口唇・頬・舌の運動を促進しながら、構音に関わる頬、下顎、口唇、舌などがどういった運動に種々の言語音が結びつくのか気づかせ、その上で単音から連続した構音を指導します。
実用的な発話が達成できないときや発話以外の手段を併用したほうがコミュニケーション効率が格段によくなるときは、もし書字ができる場合は、メモ帳、ホワイトボードを使用したり、障害が重度の場合は、簡単な身振り、五十音の指さしなどを用います。