高齢者の睡眠
公開日:2019年6月21日 10時05分
更新日:2023年3月 8日 10時33分
高齢者は、加齢とともに睡眠が浅くなる傾向があり、高齢者に多い疾患の影響も伴い、不眠や睡眠障害がみられやすくなります。高齢者の睡眠の特徴と高齢者にみられやすい睡眠障害についてみていきましょう。
高齢者の睡眠の特徴
加齢とともに睡眠にも変化が現れます。加齢による体内時計の変化によって睡眠に係る体温やホルモン分泌などの生体機能リズムが早い時間にずれ、高齢者は若年者に比べて早寝早起きになる傾向があります。また、高齢者は深い眠りのノンレム睡眠の時間が減り、浅いレム睡眠の時間が増えます。睡眠中の途中覚醒も多くなり、全体的に浅い眠りとなります(図1参照)。
総務省統計局の平成28年(2016年)の社会生活基本調査の統計によると、50歳以上では高齢になるほど生活行動別の睡眠の総平均時間が増加しています(表1)。
年齢層(再掲) | 睡眠の総平均時間(分) |
---|---|
(再掲)15歳以上 | 471 |
(再掲)65歳以上 | 499 |
(再掲)75歳以上 | 531 |
高齢者の睡眠は次のような特徴がみられます。
- 起床・就寝時間とも早い傾向がある
- 就床の時間が長い
- 眠りが浅く、熟睡感が少ない
- トイレなど、途中で覚醒する回数が多い
- 寝床に入ってもなかなか入眠できない
- 朝早くに目が覚めてしまう
高齢者は途中覚醒が多く、眠りが浅いため、実際に睡眠をとっている時間は若年者に比べて短いですが、睡眠のために寝床に入っている時間は若年層より長くなっています。必要な睡眠時間以上は眠れないので、寝床に入っている時間が長くなっても、眠りの浅い時間が長くなるだけで結果、睡眠の満足度も低下することが言われています2)。
心身の健康状態、昼間の活動状況などの生活習慣によって、高齢者でも睡眠の個人の差はみられます。
高齢者の睡眠障害
高齢者は退職、死別、独居などの環境の変化や急性の精神的ストレスを抱えることや、活動性が低下して心身の病気にかかり、疾患の影響や疾患の治療薬の副作用によって不眠症などの睡眠障害を生じやすくなります。
不眠の原因となる病気は、うつ病、不安障害、統合失調症などの精神疾患、認知症、パーキンソン病、脳血管障害などの神経疾患、睡眠時無呼吸症候群、心不全、呼吸不全、夜間頻尿、慢性疼痛などの全身疾患です。これらの治療薬や睡眠薬の服用により不眠がみられることもあります。交替制勤務などに仕事が変わった場合には概日リズム障害から不眠となることもあります3)。
高齢者によくみられる睡眠障害としては不眠症、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス(むずむず脚)症候群、周期性四肢運動障害、レム睡眠行動障害があり、これらの睡眠障害は専門の施設での検査、診断と適切な治療が必要です。それぞれの睡眠障害について詳しくみていきましょう。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に気道が閉塞していびきや呼吸停止を生じ、血液中の酸素不足が起こります。また無呼吸が起こると睡眠中に覚醒反応を生じ、睡眠が途切れ途切れとなるため、日中の過度の眠気を生じます。顎が小さくて首が短く、肥満の男性に多くみられ、一般成人での有病率は1~4%と考えられていますが、60歳以上の男性高齢者では約20%の有病率とも言われています4)。繰り返す夜間の酸素不足も一因となって高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などの心血管系疾患のリスクが高くなります。
レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
夜に眠る前、じっとしていると足にむずむずする感じや虫が這う感じ、突っ張り感、痛み、不快感などを生じ、寝つきが悪くなります。足を動かすと足の症状は軽減します。一般成人の有病率は1~3%と考えられていますが、加齢とともに有病率は増大します4)。
周期性四肢運動障害
睡眠中に足首と足の親指が反り、膝が曲がる動きの反復が1時間に15回以上みられ、不眠や日中の過度の眠気が認められます。主に足の動きが起こることが多いですが手の動きがみられることもあります。加齢とともに有病率は増大します4)。
レム睡眠行動障害
レム睡眠時には筋緊張が緩和し、身体は休んでいる状態で夢を見ますが、この障害では、夢で見たことが大きな声での寝言や四肢の異常運動として反映されます。重症の場合は起き上がって暴力行為がみられることもあります。50歳以上の男性に多く、パーキンソン病やレビー小体病などの神経疾患に伴いやすい睡眠障害です。