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第5章 認知症のケア 9.社会的支援の視点から~見守り・SOS体制に焦点をあてて~

 

公開月:2019年10月

認知症介護研究・研修東京センター 研究部長
永田 久美子

1.はじめに

 社会的支援は、「社会的関係の中でやりとりされる支援」1)であり、本稿では、認知症とともに生きている本人(以下、本人とする)やその家族にとって、命や生活を守るために優先度が極めて高く、加えて、取組を通じて認知症に関連する社会的支援全般を活発にする波及効果が高い「見守り・SOS体制づくり」に焦点をあてて解説する。

2.見守り・SOS体制の基礎

1.見守り・SOS体制とは

 本人が地域の中で安心・安全に自分らしく暮らし続けていけるために、普段からの見守りと行方不明発生時に関係者が速やかに協働し、本人を発見・保護、アフターケアをする一連の機能を統合した体制をいう1)

2.見守り・SOS体制づくりの重要性

1)増え続ける行方不明:命と暮らしを守るために

 警察庁が2012年から認知症(疑いを含む)の行方不明者数を公表するようになって以来、その数は年々増加している。2017年段階で年間15,863人(対前年2.8%増)に上り、そのうち無事発見が15,166人、死亡発見が470人、所在不明(未発見)が227人となっている。

 平均すると全国のどこかで、1日約44人が行方不明になっており、約2人が死亡あるいは未発見のままという深刻な状況が続いている。

 なおこれらの数は、警察に届けが出され受理された数である。実際には届け出ずに家族や関係者で探し出しているケースが相当数にのぼり、統計値は氷山の一角とされている。

 行方不明は特殊な問題ではなく日常的に身近なところで起きうる、誰にでも関係する社会問題である。近年では、自宅から行方不明になった認知症の男性が鉄道事故で命を失い、その後悲しみの中にある家族が鉄道会社から多額の損害賠償を請求され、数年に及ぶ裁判で責任の所在や見守りのあり方等が問われ、社会全体での大きな問題となっている2)

 助かる命を救い、一人ひとりの暮らしを守るための見守り・SOS体制づくりは、全自治体/地域、医療・介護・福祉等の専門職、そしてすべての人にとって急務の課題である。

2)多様な人々が連携・協働していくために(図1)

 新オレンジプランに基づく認知症施策の推進が急ピッチで進む中、各自治体では多様な事業・取組が同時並行で展開されてきている。関係する人が、行政、専門職、住民、多様な生活関連職域の人たち等、多岐に渡って年々増えているが、むしろ急速な展開により全体が見えにくく、各事業ごとの範囲内でのつながりにとどまっている場合も少なくない。

 見守り・SOS体制づくりを進めている地域では、認知症施策の各種事業に関係する多様な人びと(行政、警察、消防、保健・医療・福祉専門職、キャラバンメイト、認知症サポーター、認知症カフェ、初期集中支援チーム員、成年後見制度関係者等)のつながりが生まれ、事業の枠を超えた協働に発展している3)

 加えて、認知症以外の地域の幅広い取組(健康づくり、防犯・防災、交通安全、地域活性化、子育て支援、自殺対策等)の関係者とのつながりと協働も生まれ、認知症の人の見守り・SOS体制づくりが地域の分野や世代を越えた連携・協働を促進する重要な機能を果たし始めている4)

 取組を継続的に進めている地域では、認知症の人のみならず、障害者や子どもたち等も、安心・安全に暮らせる地域に発展している。

図1:認知症に関連する見守り・SOS体制と多様なつながりを表す図。認知症施策の各種事業に関係する行政、警察、消防、保健・医療・福祉専門職、キャラバンメイト、認知症サポーター、認知症カフェ、初期集中支援チーム員、成年後見制度関係者等の多様な人々とのつながりが生まれ、事業の枠を超えた協働に発展している。
図1 見守り・SOS体制と多様なつながり

3)偏見を解消し、共生社会を創るために

 多様な啓発事業が展開されているが、知識としての理解は広がっても、認知症に関する偏見が根強く残っており、本人や家族が安心して暮らしていく上での様々な障壁になっており、偏見の解消が各地域の重要課題になっている。

 行方不明に関しても「認知症が進んで何もわからなくなった重度の人が行方不明になる」という偏見が根強いが、決してそうではないことが明らかになってきている。厚生労働省の調査では行方不明者の要介護度では認定なしが26.2%、要支援1、2が5.8%、要介護1が24.2%、要介護2が20.3%、要介護3が18.9%、要介護4が4.4%、要介護5が1.0%であり、認定なしの段階の人が最も多かった(図2-A)。また、まだ普通に外出しながら暮らしていたり、症状が出始めた段階の人たちが約7割を占めていたという調査結果もある(図2-B)。

図2:行方不明発生時の行方不明者の介護度の状態についての調査結果を表す図。厚生労働省の調査では、要介護度認定なしの割合が26.8%と最も多く、釧路地域SOSネットワーク10年の検証調査では、症状が出始めた段階の人たちが約7割を占めており、重度の人の割合は少なくなっている。
図2 行方不明発生時の状態

 見守り・SOS体制づくりは、「認知症の人は何もわからない」、「なったらおしまい」、「認知症になると徘徊して危ない」、「ひとり歩きは無理」、「監視が必要」等の偏見を地道に解消し、日常の中で認知症に関する正しい理解や備え(予防)、支えあいを体験的に広げながら、共生社会を創り出すための具体的手段でもある。

3.見守り・SOS体制づくりの現状

 図3は、2017年に全国1,741市区町村を対象に見守り・SOS体制づくりに関して実施されたアンケート調査の結果である5)

①普段からの見守りとSOS体制が一体的に充実 115(10.6%)
②整備されつつあるが一体的な充実はまだ 318(29.4%)
③普段からの見守り体制は整備、SOS体制はまだ 209(29.3%)
④普段からの見守り体制はまだ、SOS体制は整備 181(16.7%)
⑤普段からの見守り体制も、SOS体制も、未整備 166(15.3%)
⑥把握していない 86(7.9%)

図3 全国の市区町村の見守り・SOS体制の拡充状況(2017年)(N=1,083)
(認知症介護研究・研修東京センター:平成29年度 厚生労働省老人保健健康増進等事業 「認知症の人の行方不明や事故等の未然防止のための見守り体制構築に関する調査研究事業」より作成)

 回答した市区町村のうち、①「普段からの見守りとSOS体制が一体的に充実している」が10.6%にとどまったが、②「整備されつつあるが一体的な充実はまだ」という過渡期の自治体も29.4%であり、あわせて4割の自治体が見守りとSOS体制づくりの一体的な整備を進めていることが明らかになった。

 また、③「見守り体制」あるいは④「SOS体制」のいずれかの整備は進めているという市区町村が合わせて46%を占めており、今後、一体的な整備にむけた展開が期待されている。

 一方で、まだ取組めておらず「未整備」が15.3%、行政担当者が見守り・SOS体制づくりに関して「未把握」という自治体も7.9%見られていた。

 体制整備の進捗状況によらず各市区町村がそれぞれの地域特性や進捗状況に応じて、見守り・SOS体制を着実に整備・拡充していくために、単年度ではなく中期的な計画をたてながら継続的に推進をしていく必要性が示唆された。

 なお、行方不明者は市区町村の圏域を越えて移動する場合も少なくなく、市区町村の体制整備の遅れは広域のSOS体制整備の遅れの一因ともなっている。体制整備を各市区町村だけで進めるのではなく、都道府県が管内の市区町村の進捗状況を把握しながら、管内の先行地域の情報を各市区町村に共有を図ったり、近隣市区町村が広域的に体制整備を進めていくためのバックアップ等、今後は各都道府県の立場を活かした推進も一層必要となっている。

3.見守り・SOS体制を着実に築いていくために

1.見守り・SOS体制づくり基本パッケージ・ガイド6)

 認知症の人の見守り・SOS体制づくりは、早い地域では1990年代から取組みが始まり、これまで30年近い年月をかけて、各地域での試行錯誤が積み重ねられてきており7)、様々なアプローチや方策が生み出されてきている。体制づくりにこれから着手する自治体/地域の関係者から、そして、これまで整備しつつある体制をさらに拡充を図ろうとしている関係者からも、体制づくりに関する多種多様な情報があふれる中で、見守り・SOS体制づくりを着実かつ持続発展的に進めていけるための「手引き」を求める声が多く、「SOS体制づくり基本パッケージ・ガイド(以下、ガイドとする)」6)が作られた。

 このガイドは、体制づくりの先行地域の取組情報に関する調査結果をもとに、様々なアプローチや方策を体系的に整理し、見守り・SOS体制づくりの基本指針と全体構造を示すとともに、体制づくりに必要な構成要素ごとに実例も交えて取組みのステップやポイントを解説したものである。詳細は、ダウンロードして参考にしていただきたい6)

自治体や地域包括支援センター、認知症地域支援推進員、医療・介護・福祉関係者等がこのガイドを活用しながら、体制づくりをより体系的に進める動きが始まっている5)

2.見守り・SOS体制づくりの基本指針(図4)

 体制づくりは、多種多様な関係者と共に進める息の長い取組であり、経年的に体制づくりが進展している先行地域では、関係者間で認識や価値観を繰り返し話し合い合意形成を図ることで、関係者が同じ方向に向けて協働しながら持続的に体制づくりを進めている特徴が確認された。先行地域が体制づくりを進めるために大切にしていること(基本指針)の共通点として、図4の5点がみられた。

 基本指針の第1点目の「本人視点・実効性」は、新オレンジプランでもこれからの認知症施策のあらゆる取組の根幹として示されている点であり、先行地域においても、体制づくりが形骸化したり先細りしないための特に重要な点として強調されている。

  1. 本人視点・実効性:日々切に暮らす本人の視点で、役に立つ活きた体制をつくる
    • 誰のために何を目指すか、ビジョンと目的を大切に(見失わない)。
      • ※本人が希望をもって、地域の中でより良い日々を過ごしていけるように。
    • 「本人はどうか」。本人の視点にたちながら、本人につながり、役立つ取組を。
  2. 共創と協働:行政と地域の多様な人が方向性と力を合わせて、⼀緒につくりだす
    • 行政と地域の多様な立場や職種の人たちが、一緒に話し合いながら。
      • ※行政だけで進めない。
    • 本人と一緒に話し合いながら(をあたりまえに)。
    • 方針を一つにしながら、一緒につくる、一緒に動く。
  3. 全体性と連動性:取組の全体像に視野を広げ、関連する取組と連動させながら
    • 体制の全体をみながら。
      • ※全体の⼀部だけみて進めない。そこをこなすことを目的にしない。
    • 他の取組や施策、事業とつなげて、相互に発展させていく。
  4. 小さく始めて、息長く育てる:できることから、即動き、持続発展を
    • 今できることから、とにかく⼀歩を踏み出す。
    • 動きながら糸口を見つけて、先へ進む。
      • ※先送りしない(今、切実に暮らしている人がいる)。
    • とにかく、続ける。改善を続けながら、年々、少しでもよりよく。
      • ※形骸化させない、途絶えさせない。
  5. よそをみて、よそとつながり、お互いが活かし合う:他地域との交流、相互に発展
    • 都道府県内、そして全国の他市町村の動きにアンテナをはる。つながって交流を。
      • ※自地域内だけで、よしとしないで。
    • 役立つモノは、どんどん真似る(無駄な苦労をしないで、楽をする)。応用していく。
    • 他地域を知ることで、自分の地域の良さにも気づく。
    • 互いの工夫・成果、苦労や失敗を分かち合い、⼀緒に体制作りを加速させる。

図4 基本指針:体制づくりを進める上で大切にしたいこと
(認知症介護研究・研修東京センター,2017 6)より引用)

3.見守り・SOS体制づくりの全体構造

 各地で体制づくりのためには、実に様々な取組が行われているが、それらの中から体制づくりを着実・効果的に進めるために重要とされた要素を体系的に整理した全体構造が図5である。

図5:見守り・SOS体制づくりの全体構造を表す図。体制づくりのための直積的な取組である8項目からなるアクションとアクションを円滑・効果的に進めるための7項目で構成された基礎づくりの2つから成り立っている。
図5 見守り・SOS体制づくりの全体構造
(認知症介護研究・研修東京センター, 20176)より引用)

 構造全体は、大きく以下の2つから成っている。

A.アクション:体制づくりのための直接的な取組
「A1.広報・啓発」から「A8.アフターサポートシステム」までの一連のアクション
B.基盤づくり:アクションを円滑・効果的に進める礎
「B1.地元の本人・家族の声を聴く」~「B7.仲間を増やす:領域や世代を超えて」の7項目で構成され、アクションを生み出し効果的に展開していくための基礎的部分

 従来の自治体/地域の取組では、Aのアクションの部分、特に「A6.SOSネットワーク」(図6)や「A7.模擬訓練」、近年では「A2.事前登録システム」や「A4.支援者登録システム」に着目し、それらに部分的に取組む傾向が強い。一方、ふだんの見守り体制や行方不明発生時の有効な体制を拡充してきている先行地域では、「A.アクション」の前に(あるいはアクションと並行しながら)、「B.基盤づくり」を一つ一つ固めることに力を注いでいる共通点が見られた。

図6:SOSネットワークの全体像と必要とされる機能・体制を表す図。
図6 SOSネットワークの全体像と必要な機能・体制(認知症介護研究・研修東京センター,20176)より引用)

 「B.基盤づくり」の各項目は、ごく基礎的な取組である。特に、自治体関係者や地域見守り・SOS体制の整備・推進に関わりのある医療・介護・福祉関係者は、自地域の中でこれらがどの程度取組まれているかに関心を払い、まだなされていない場合はアクションの前にまず自地域で必要と思われる基盤づくりから取り組んでみることが、その後のよりよいアクションの展開のために重要である5)

4.見守り・SOS体制づくりの進め方

1)自地域の取組全体の確認

 部分的な取組のみを急がずに、まずは、自地域でこれまでどんな方針で、どの部分の取組がなされてきているか、基本指針(図4)や全体構造(図5)をもとに確認することが必要である。

 指針が明確でない場合は、体制づくりにすでに関与している人たちや、これから関与を呼びかける人たちが、方向性があいまいのまま動き出してしまい体制づくりが形骸化したり先細りする一因になっている5)。関係者で基本指針を参考に、自地域の見守り・SOS体制のこれからに向けて、自地域ならではの指針について話し合い、地元の指針を固めていくプロセスが欠かせない。

 また、全体構造を関係者や地域の様々な人と一緒に確認してみると、自分が把握していなかったが地域内や行政の他部署等ですでに取組まれていることが見つかったり、過去にはやられていたがたち切れになっていたこと等がしばしば発見されている5)

 全体構造図を参考に、自地域ですでに取組まれていること(取組まれていたこと)やそれらのつながり(関連)、取組につながっている人(つながって欲しい人)を書きだし自地域の取組の全体図を作成する作業を地域の多様な人たちが一緒に行うと、自地域の見守り・SOS体制づくりの現状と課題を俯瞰できる。

2)今後の取組の焦点化

 今後、自地域としてどこに焦点をあてて取組みを進めていくことが効率的な見守り・SOS体制づくりとなるか、自地域の取組の全体図をもとに、関係者や地域の多様な人たちと話し合ったことで、体制づくりの改善や関係者との合意形成が図られ、取組が進展した地域も多い。

  • 予防教室や認知症サポーター養成講座、認知症カフェと模擬訓練との連動をはかる。
  • 事前登録システムに登録した人を登録したままで終わらせず、地域ケア会議につなげ、一人ひとりの個別支援ネットワークづくりに注力することを市の体制づくりの中心にする。
  • 市内の医療機関(歯科、眼科、耳鼻科等も)、薬局に、市の見守り・SOS体制の普及チラシを置いてもらう。
  • 警察に定期的に出向いて話し合いを重ね、行方不明で保護されたケースの情報を(本人・家族に同意を得て)行政・地域包括に情報提供をしてもらう流れをつくり、一人ひとりのケースのアフターサポートシステムをつくる。

3)B3.推進コアチームを結成・育てる

 多様な関係者とともに継続的に取組んでいくためには、推進のコアになるチームの重要性が先行地域から共通して指摘されている。

 推進コアチームは、自治体の規模や地域特性、それまでの取組の進展状況等によって、メンバー構成や成り立ちは様々である。行政が主導の地域もあるが、地元の医師や保健師、介護職、家族など、「認知症の人の安心・安全な地域での暮らしを守りたい」という願いを抱いている人たちが中心になって結成し、行政と協働しながら推進活動を展開している地域が多い4、6、7)。体制作りの持続発展のために、各自治体/地域で、推進コアチームが結成され、チームとしてその地域にあった体制づくりを持続発展的に進めていくことが期待される。

4)本人とともに創る見守り・SOS体制

 近年、本人が、家族らに安心してもらいつつ安全に一人での外出を続けられるために、自らヘルプカードやGPSを活用したりするケースも増えている。また、外に出て道が分からなくなってパニックになった時に落ち着いて無事に帰られるための自己対処法を本人ミーティング8)で話し合うような取組や模擬訓練に本人自身も参加する等の動きが広がってきている。

 現在、認知症の本人自身が、「よりよい地域を一緒につくろう」9)と前向きに地域で活動することを希望する人たちも全国各地で増えてきている8、9)

 これからの見守り・SOS体制づくりそして社会的支援は、本人抜きに進めるのではなく、本人の声を聴きながら、本人と共に進めることが不可欠な時代になってきている。

4.おわりに

 人が認知症とともによりよく生きられる可能性は大きい。社会的支援を、従来の事後的な問題対処から問題を予防し(備え)、本人が地域の中であたり前に暮らせる共生社会を築くあり方への刷新が急務である。

文献

プロフィール

著者:永田久美子
永田 久美子(ながた くみこ)
認知症介護研究・研修東京センター 研究部長
最終学歴
1984年 千葉大学大学院看護学研究科修了
主な職歴
1990年 東京都老人総合研究所(現、東京都健康長寿医療センター研究所) 2000年 認知症介護研究・研修東京センター研究部長現在に至る

※筆者の所属・役職は執筆当時のもの

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