長寿科学研究に関する情報を提供し、明るく活力ある長寿社会の実現に貢献します。

理事長あいさつ

写真:大島伸一理事長

 理事長を務めることになり、皆様方に御挨拶を申し上げるとともに、あらためて、長寿科学振興財団に求められるもの、私の役割とは何かについて考えてみました。当財団が発足したのは平成元年で、ナショナルセンターである国立長寿医療センター(当時)の設立を想定して、それを支援するための財団として設立されたものと理解しています。

 来るべき高齢社会に向け、どのような問題・課題が生じるのか、それに対しどのように対応してゆけばよいのか、国としてすでに準備を進めていたものであり、現在の日本、世界の状況を考えると、諸先輩方の慧眼に驚かされます。六番目のナショナルセンターとして国立長寿医療センターが設立されたのは平成16年で、常陸宮殿下妃殿下、厚生労働大臣、愛知県知事らをお迎えして開設記念式典が催されました。初代の総長として選任された私が、当財団と深く関係するようになったのはこの時からです。

 国立長寿医療センターは、平成22年に独立行政法人となりましたが、今でも国立の名称が残っているように、国民のためにというセンターの使命は変わらず、政策医療への提言などを主要な使命としていることに変わりはありません。因みに、現在の正式の名称は、平成27年から国立研究開発法人国立長寿医療研究センターとなっています。ナショナルセンターの独立行政法人化とともに、財団と国立長寿医療研究センターの関係は法的には変わりましたが、両者が協力して高齢問題に取り組むという使命や目的は変わっていないと考えています。

 すさまじい勢いで高齢化の進んでいる我が国で、財団に求められていることは何か。認知症とかフレイルなど、老化とともに進展する人の肉体的、精神的変化をはじめ、高齢者が増えることにより生ずる社会の変化、生活の変化にどう対応してゆけばよいか、人類が経験したことがなく、どこにも答えのないこれらの問いにどう財団は立ち向かえばよいのか。

 東日本大震災や豪雨による水害等では、多くの高齢者が亡くなりました。高齢になれば虚弱化するといえばそれまでですが、自力で生活できないという意味では、高齢者よりも乳幼児の方がはっきりしています。乳幼児の場合は、親と共に生活していることもありますが、親が必死になって守ります。老々・独居が当たり前の居住形態では、高齢者を守るのはますます難しくなるでしょう。

 また、新型コロナウイルス感染症の流行でも死者で圧倒的に多いのは高齢者です。諸外国ではICU等での救命機器の使用の優先度を決めなくてはならないなどといった事態まで生じているようですが、そのような時に高年齢という要因がどのように評価されるのか。高齢者にとって安全で住みやすい高齢社会とはどんな社会なんだろうかと考えざるを得ません。

 私は「長生きを喜べる社会」という言葉が好きでこれまでにも何度も使わせてもらっていますが、この言葉は、小泉元首相が二期目の所信表明演説で使用された言葉です。小泉首相は「長生きを喜べる社会」とはどんな社会なのか、その時もその後も詳しく触れることなく政権を終え、私には不満でしたが、実際にはその答えは当時も今も誰も解っていないというのが正解でしょう。 

 日本に生まれ育ち、そして老い死んでゆく、より多くの方が人生を終えるときに、いろいろあったが「長生きしてよかった」と言えるような社会とはどんな社会なのか。当財団がその答えの一端でも示すことに貢献できればと思っています。よろしくお願い申し上げます。

公益財団法人長寿科学振興財団
  理事長 大島 伸一