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第5章 認知症のケア 7.ケアマネジメントの視点から

 

公開月:2019年10月

桜美林大学大学院老年学研究科 教授
白澤 政和

1.問題提起

 介護保険制度での要介護認定者や介護サービス利用者の半数以上を認知症のある人が占めており、同時に認知症のある人が益々増加することが予想されており、認知症のある人へのケアマネジメントは極めて重要である。本小稿では、一般的なケアマネジメントそのものについての説明は除外し、認知症のある人へのケアマネジメントのあるべき視点を提示することを目的にする。

 在宅における認知症高齢者に対するケアプランの内容を見ると、デイサービスやショートステイの利用といったステレオタイプのケアプランにとどまっている場合が多い。在宅の場合は、家族の介護負担の軽減のみに目を向けたケアプランの作成に終始してしまっている状況にある。そのため、認知症高齢者本人の意向やニーズに基づいたケアプランの作成には至っていない状況にあると言える。確かに認知症のある人を抱える家族の介護負担は大きく、レスパイトとしてデイサービスショートステイを活用することは決して問題ではなく、望ましい支援であるが、認知症のある人本人にも焦点を当てたケアプランの作成が求められる。

 ここでは、認知症のある人へのケアマネジメントで課題となる6点を提示し、それらへの対処方法について言及する。

課題1 認知症のある人の意思決定の支援

 ケアマネジメントの目的の一つである自立支援は利用者が意思決定することを支援することでもあるが、認知症のある人の場合には、利用者が意思表示を十分にできない場合もあり、いかに支援をしていくのかの課題がある。厚生労働省は、「認知症の人の日常生活・社会における意思決定支援ガイドラン」1)や「障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン」2)を出しているが、後者では、以下を意思決定支援の基本原則としている。

  • ①本人への支援は、自己決定の尊重に基づき行うこと。
  • ②職員等の価値観においては不合理と思われる決定でも、他者への権利を侵害しないのであれば、その選択を尊重する姿勢が求められる。
  • ③本人の自己決定や意思確認がどうしても困難な場合は、本人をよく知る関係者が集まり、本人の行動に関する記録やこれまでの生活史、人間関係等の様々な情報を把握し、根拠を明確にしながら、本人の意思および選考を推定する。
  • ④本人の意思の推定が困難な場合には、最後の手段として、関係者が協議し、本人にとっての最善の利益を判断する。

 認知症のある人のケアマネジメントにおいても、上記の障害者のガイドラインに示された意思決定支援の基本原則が求められる。

 具体的には、利用者側のフェルト(体感的)・ニーズとケアマネジャー側のノーマティブ(規範的)・ニーズをすりあわせることが必要になってくる。このことは、認知症のある人に限らず、一部の知的障害者や精神障害者に対するケアプランの作成においても同様であるが、その際には利用者側の自己決定の尊重に基づき、利用者自らのリアル(真なる)ニーズを明らかにしていくことが大きな課題である。

 特に、基本原則の③や④に示された認知症のある人が自己決定や意思確認がどうしてもできない場合には、ケアマネジャーには、認知症のある人の生活の主体的な立場から全体像をとらえることに、研ぎ澄まされた感性や能力が求められる。認知症のある人が有する生活ニーズについて、利用者自身の主体的な立場からとらえるためには、ケアマネジャーが利用者の精神心理的世界に入ることにより、感じたり気づいたりする事実の間で意味づけをしていくことが必要となる。その過程で、生活ニーズや解決方法が浮かび上がってくる。ケアプランの作成にあたって、利用者の主体的立場に立つことの重要性を主張してきたが、認知症のある人に対してケアプランを作成する場合には、ケアマネジャーが利用者と同じ目線に立ち、いかに寄り添っていくのかという専門的態度が重要となる。

 それゆえ、ケアマネジャーには、利用者の思いに敏感になる感受性が求められる。つまり、身体的な理由で生活の範囲を狭められている利用者の場合には、相対的にレスポンスが得やすく、そのためにケアプランの作成も比較的容易であるが、認知症のある人の場合には、言語面での意思表示によりレスポンスできない部分をケアマネジャーが持つ専門性によって補っていくことが求められる。そこでは、利用者側の表情や行動といった対応から、気づいたり感じたり気になったりするといった感受性が特に重要となる。

 このことは、利用者の行為に対して、行為そのものに対応するのではなく、行為の背景にあるものに対応しようとすることである。これは、「現象学的アプローチ」と呼ばれるものであり、そうした視点での研修や訓練が重要となる。現象学的アプローチとは、自らの体験から出発することをもとにして、人間の経験をそのままの形で記述する方法である。このアプローチについて広瀬寛子は、利用者について"わかる"ことを三つに整理している。「第一の"解る"は、利用者について理解を得ることで全体を分解してわかることであり、第二の"判る"とは、判断するわかり方で評価やタイプ分けをすることである。これらの"わかる"も大切であるが、第三の"分かる"は、分かち合うという意味であり、その人をあるがままに受け入れ(受容)、その人の心のあり様に添う(共感)ことであり、その人の体験世界や気持ちをわかろうとすることが重要である」3)としている。これこそが、現象学的アプローチの本質である、認知症のある人に対するケアマネジメントでは、こうした視点が求められている。

 また、ケアマネジャーがそうしたサインを敏感に感じとるためには、利用者についてのさまざまな情報を得ておくことが求められる。その際には、現在の身体機能的状態・精神心理的状態・社会環境的状態だけでなく、「どのような仕事をしていたのか」「どのような思いで生活を送ってきたのか」「どのような環境のなかで生活をしてきたのか」といった利用者の生活史も、ケアプランにつなげていくためのアセスメント資料として大切になる。これは利用者の過去の生活史を理解し、それを活かしたケアプランの作成を行うことが基本であるが、別の視点としては、認知症のある人が生活史を自ら語ることにより、人生を振り返り、自己の人生を再評価することで、自尊心を向上させることにもつながることができる。さらに、生活史を活用することで認知症のある人とのコミュニケーションが可能になるだけではなく、自己効力感や自尊感情を高めることができるとされている。また、認知症のある人の行動・心理症状(BPSD)の背景を理解するうえで、生活史が役立ち、ケアプランの作成にも有効に寄与することができる。

 こうした際に第一に考えるべきことは、作成したケアプランについての意思確認を利用者から可能な限り得ることである。認知症のある人であっても、時間帯によっては本人から理解を得られる場合がある。それゆえ、理解を得やすい時間帯をねらって話しあいをするといった工夫が必要である。これが難しい場合には、職場の上司のスーパービジョンを受けて、本人にとって身近な理解者、成年後見人制度での後見人や日常生活自立支援事業における生活支援員、他職種の専門職とのケアカンファレンスのなかで、相互のディスカッションによる複合的な視点から、利用者の最善の利益をもとに、より的確にニーズを把握し解決の方法を推定していくことである。その際には、利用者の過去や現在での発言する言葉や表情、さらには生活史といったアセスメント資料が重要となる。

課題2 認知症のある人のストレングスを引き出す支援

 特に認知症のある人に対するケアマネジメントにおいては、本人の「できること」「好きなこと」「したいこと」に着目し、本人の有している能力、意欲、嗜好といったストレングスを増大させる支援が大切である。従来のケアマネジメントでは、利用者の「できないこと」を解決していく問題解決指向が強いが、認知症のある人自身の有している能力、嗜好、意欲を引き出すことをニーズとして把握し、それ自体を支援していく目標指向的なケアプランづくりが有効である。これは、「できること」「したいこと」「好きなこと」を直接強化していくことであり、目標指向型のニーズ把握方法であり、支援方法である4)

 具体的には、認知症のある人で、生活史でお花の先生であったので「生け花に関心がある」、主婦として「料理や片付けができる」、「散歩が好きであった」といった場合に、ストレングス自体をニーズとして捉え、生け花をしてもらう、料理の準備や片付けをしてもらう、一緒に散歩をするといったケアプランを作成することである。

 この目標指向型のニーズも、一般的なケアマネジメントのニーズ把握同様に、人と環境との関係での逆機能といった観点から説明可能である。例えば、「料理や後片付けをしたい」というニーズは、認知機能面では「料理を作ったり片付けることができる」が、社会環境面で「料理や後片づけの機会が与えられていない」ことから生じているといえる(図1)。一般に認知症のある人は今まで覚えていたことやできていたことができなくなっていくことで、不安が高まり、自信を失っている。そうした人に対して、不安を解消したり、もう一度自信を取り戻してもらうためには、本人のストレングスを活用したり、高めていく支援も有効である。こうした支援により、認知症のある人が自信を取り戻し、不安を解消していくことができ、社会心理的支援が可能になる。

 このケアプラン作成過程は従来のケアプラン作成の発想過程とは根本的な違いがある。それは、生活上で直面している問題を解決するということではなく、生活をより豊かにしていくことを目指すことにある。入居者のニーズ把握には、問題解決指向型のニーズでもってケアプランを進めていくことと、他方、目標指向型のニーズを捉えてケアプランを進めていく方法がある。

 以上、問題解決指向のケアプランは、生活上の課題を解決し、最低限生活を続けていく上では必要であるが、さらに質の高い生活(QOL)を得ていくためには、ストレングスや目標指向の視点をもって、ケアプランを作成していくことが重要である。

図1:認知症のある人に対し、できる事、したい事を直接強化する目標志向型ケアプラン作りをする上で有効なニーズ把握方法を示す図。料理や後片付けをしたいというニーズに対し、環境面で機会が与えられていない為、本人のストレングスを活用し、心理社会的支援を行うことで自信を取り戻す、不安を解消することにつなげる。
図1 ストレングスを活用したニーズ把握

課題3 認知症のある人のBPSDに対する支援

 認知症のある人の6割から8割があるステージで呈する行動・心理症状(BPSD)に対して、どのようにケアプランを作成していくかである。これについては、国際老年精神医学会が、BPSDは認知症のある人の遺伝面・身体生理面・精神心理面・社会環境面を背景にして生じるとしている5)。このような視点から、BPSDに関連するニーズを把握し、ケアプランを作成することが重要である。特に、「徘徊」「暴力・暴言」「介護拒否」といったBPSDは、認知症のある人の「したいこと」「好きなこと」が変形して生じるとされているが、こうした視点でBPSDを捉え、支援することも必要である6)

 BPSDに対応するアセスメントは、事実として認識したアセスメント項目だけでなく、家族介護者を含めて関わっている全職種がどうしてそうしたBPSDを呈するのかを気づくアセスメントが大切である。また、BPSDに対する適切な支援方法を気づくことも重要である。それらの気づいたことをアセスメントとして捉え、ケアプラン計画を作成していくことが大切である。

 例えば、精神心理的な気づきでは、会話の途中で暴力をふるう人は、本当は話をしたいニーズがあるが、理解できなくなると暴力になることに気づき、「ゆっくりと会話をする」、「クローズドクェッションでの会話に心掛ける」等のケアプランを作成・実施していくことになる。また、支援方法の気づきであれば、レビー小体型の認知症で悪魔が出るという幻視があった場合に、家族が本人の背中をさすり、「大丈夫ですよ」と声掛けすると、「悪魔が逃げていった」との本人の発言をもとに、幻視を呈した場合には、安心してもらうためのタッチングと声掛けといった支援をしていくケアプランを作成し、実施していくことである。

 以上のことから、ケアマネジャーは気づきをアススメントし、それをニーズに取り込んでいくことの重要性を示してきた。これは、図2のように説明できる。この図が示していることは、大部分のBPSDは生理身体面、精神心理面、社会環境面から生じるが、そこからいくつかのBPSDは「したい」や「好きである」ができないために「不安」「不満」「焦燥」「怒り」「恐怖」「絶望」といったことから生じる行為や心理症状として捉えることが出来る。それらについて、どのような対応をすれば、認知症のある人が安心するかの視点から、ケアプランを検討していくことになる。その結果、ケアマネジャーはBPSDに対応したケアプランを作成することになる。

 こうしたケアマネジャーに求められる認知症のある人のBPSDといった症状や行動を意味づけるという役割は、個々のケアマネジャーにとっては、自信を持って「そうに違いない」と言い切れない部分も多い。それゆえ、こうした意味づけは、ときには試行錯誤が繰り返されることになり、最終的には、利用者の状態が変化することで、その正当性が評価されることになる。

図2:BPSDが生じるメカニズムと認知症ケアの段階を示す図。生理身体面、精神心理面、社会環境面から生じるしたいのにできないことに対する不安や絶望といった心理症状に対し、ニーズを把握しケアプランを作成することが大切である。
図2 BPSDが生じるメカニズムと認知症ケアのステップ

課題4 認知症のある人の権利擁護への支援

 認知症のある人の場合、自分の意志を必ずしも十分に表示できないために、ケアマネジャーとしては、利用者の意向を確認しながら支援していくことが必要となってくる。これについては、課題1で示した通りで、認知症のある人の人権を守り、それを遂行するケアプランの作成・実施が求められる。

 しかしながら、在宅におけるケアマネジャーの対応は、介護保険サービスの利用への対応に限られがちであり、認知症のある人の権利擁護にかかわるニーズを把握し、必要なサービスに結びつけることの意識が十分ではない。同時に、利用者が必ずしも自らの意向を言語化できないことから、その権利が十分に守られた支援がなされているとは限らない可能性もある。こうしたことから、ケアマネジャーには認知症のある人の権利を擁護するといった視点が必要不可欠である。

 そうしたなか、ケアマネジャーが認知症のある人の権利を擁護する際には、次の二つの方法が考えられる。ひとつは、権利擁護に関わる制度に結び付けたケアプランの作成である。もうひとつは、認知症のある人の権利が侵害されないようサービス事業者や地域の人々への対応である。

 前者については、具体的には、権利擁護サービスとしての主に以下のような4つのサービスと結び付けることになる。

  • ①利用者に財産管理や身上監護が必要な場合には、成年後見制度を活用し、家庭裁判所から"後見""保佐""補助"という三類型の法定後見人を選任してもらうことで、財産の管理と身上の監護を依頼する。
  • ②利用者が介護保険サービスの利用契約や利用料金の支払いに支障を来している場合や、そのおそれがある場合には、社会福祉協議会などが実施している日常生活自立支援事業を活用して、日々の生活費を高齢者に手渡したりといった形で、日常の金銭管理について生活支援員を介して支援してもらう。
  • ③利用者が虐待されていたり、あるいはそのおそれのある場合には、高齢者虐待防止法に基づき、市町村に通報し、被虐待の高齢者や介護者に対して適切な対応をする。
  • ④不必要な買い物をした場合には、消費者保護のために特別に認められた制度であるクーリングオフを活用し、商品の返却を支援する。

 以上に挙げた4点が権利擁護に関する主なサービスであるが、こうしたサービスの活用によって、認知症のある人の在宅生活や施設生活への支援が可能となってくる。

 現実のケアマネジャーの権利擁護への関与の成果をみると、まずは、成年後見の2017年の総申立件数35,737件の内で市町村長申立件数は7,037件で、19.7%を占めており、この申立にはケアマネジャーが大きく関与している可能性が高いが、この比率が急激に増加している(「成年後見関係事件の概況 平成29年1月~12月」最高裁判所事務総局家庭局)。

 一方、日常生活自立支援事業については、2013年7月分の新規利用者の申請件数は全国で958件であるが、その内で初回の相談者はケアマネジャーが25.4%で最も多い。なお、この事業は認知症のある人に限らず、知的障害者や精神障害者も活用しており、両者の604件を除外した場合には、40.0%がケアマネジャーからの初回相談に相当する(「平成25年7月分利用状況調査における新規利用契約者の集計結果」全国社会福祉協議会地域福祉部)。

 高齢者の虐待事例については、これは必ずしも要介護・支援者には限らないが、2016年度の在宅の虐待事例は16,384件であったが、その内でケアマネジャーからの通報ケースは8,995件で、29.5%と、最も多くなっている(『平成28年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果』厚生労働省)。

 ケアマネジャーが高齢者の権利擁護に大きく貢献していることを示してみたが、ケアマネジャーは認知症のある人を中心に高齢者の人権を守る砦であると言える。但し、課題1で示したように、こうした権利擁護支援の前提として、認知症のある人の意思決定支援があり、この過程を支援することに後見人や生活支援員が位置づいていることを認識しておくことが重要である。

 さまざまな制度を活用した権利擁護について述べてきたが、利用者の権利擁護にかかわる場合には、制度を活用することなく、ケアマネジャー自らが認知症のある人本人を弁護していくことも重要なポイントとなる。たとえば、地域のなかのひとり暮らしの認知症のある人に対して、火事を起こしたら恐いということで、近隣から施設入所を求められることもあるだろう。そうした場合、ケアマネジャーは利用者に代わって、安全に在宅生活ができきるようにリスク管理をしながら、近隣に対しても、在宅生活が可能であることを弁護していく役割が求められる。

 さらに、この弁護的な役割は、地域住民に対してだけでなく、認知症のある人の家族や介護サービス事業者に対しても果たしていかなければならない場合がある。たとえば、利用者本人はできる限り長く在宅生活を続けたいという思いを持っていても、認知症のある人が自らの意思を十分に表現できないことを考えると、利用者本人に代わってケアマネジャーは弁護的役割を果たすことが求められてくる。また、介護サービスについても、認知症のある人のニーズに合致してサービス提供がなされているかを点検し、必要な場合には、介護サービス事業者に対して、利用者に代わって弁護的役割を果たすことが必要となる。それゆえ、認知症高齢者の支援にかかわる場合には、権利擁護サービスと結びつけるという支援だけでなく、ケアマネジャーが自ら弁護的役割を果たすことも認知症のある人を擁護する上で重要であるという認識が求められる。

 以上のような個々の認知症のある人の権利を擁護することをケース・アドボケートというが、個々の権利擁護を介して、認知症のある人を支える地域づくりに結びつく地域の課題に遭遇する。例えば、認知症のある人の徘徊について安全に見守れる地域づくりが目的になり、徘徊模擬訓練を行ったり、地域の機関や団体での徘徊があった場合の連絡網の整備を図っていくといった活動につながっていく。こうした地域の認知症のある人全体をターゲットにした活動はコース・アドボケートと呼ばれ、ケアマネジャーは地域包括支援センターや生活支援コーディネーターと協力して実施していく必要がある。

課題5 若年性認知症のある人への支援

 全国で若年性認知症者の人は約37,800人いるとされるが、家族介護者の約6割が抑うつ状態にあるとされ、約7割が発症後に収入が減ったとしている。多くの家族介護者が経済的に困難となり、若年性認知症のある人に特化した福祉サービスや専門職を充実することの必要性があげられている6)

 介護保険制度での介護サービスは高齢者を想定して設計されており、また個々のサービスの利用者も高齢者が圧倒的多数であるため、若年性認知症のある人にとってはサービスが利用しづらい側面が多くある。都市部のごく一部では、若年性認知症のある人に特化した通所介護や通所リハビリテーション(デイケア)もみられるが、対象者の数に比べれば少なく、遠方からの利用者もおり、身近に利用できる実態にはなっていない。

 若年性認知症のある人のニーズとしては、多くが就労中に発症することから、経済的なニーズが大きい。また、発症後、離職することが多く、就労や社会参加のニーズに応える社会資源が求められる。

 経済的なニーズに対しては、①自立支援医療(精神通院医療)、②傷病手当金、③雇用保険、④障害者手帳、⑤障害年金、⑥住宅ローン支払い免除等のサービスがあり、そうしたサービスと結び付けていくのもケアマネジャーの業務である。

 一方、就労ニーズに対しては、ハローワーク(公共職業安定所)や障害者就労センターなどでの相談に結びつけることで、職業相談・職業評価、就職に向けた職業準備支援、職場適応のためのジョブコーチの派遣、休職中の人に対する職場復帰支援(リワーク)などを提供することが可能になる。さらに、障害者総合支援法による就労支援事業を利用することができ、これは市町村に申請し、相談支援事業所の相談支援専門員にサービス利用計画を作成してもらい、就労能力のレベルにより、「就労移行支援」「就労継続支援(A型)」「就労継続支援(B型)」のサービスを受けることができる。

 若年性認知症のある人の社会参加ニーズについては、介護保険での通所系のサービス(通所介護、通所リハビリテーション、認知症対応型通所介護)で対応できる部分があるが、これらは主に高齢者を想定したサービスであり、ほかの利用者との年齢差が大きいことから利用しにくい側面がある。そうした中で、地域で「認知症カフェ」がつくられ、認知症のある人やその家族、地域の人々や専門職も参加してさまざまな活動を行っており、多様な世代が参加していることもあり、若年性認知症のある人も参加しやすくなっている。また、時には若年性認知症のある人に特化した認知症カフェもみられる。

 一方、特に若年性認知症のある人の場合には、受診で認知症と告知を受けてから介護保険サービスを利用する間を「空白の期間」と呼ばれ、本人だけでなく、家族に対しては介護支援専門員からのケアマネジメント支援を受けることが制度的にできないことになっている。ただ、認知症の告知を受けた時点や経済的ニーズや就労へのニーズが生じるこの空白の期間についても、ケアマネジメントが必要である。そのためには、この時点のケアマネジメントを病院や診療所の医療ソーシャルワーカーや精神科ソーシャルワーカー、また地域包括支援センターの職員が担っていくことが必要となる。一方、この時点で障害者手帳の取得や障害者サービスの利用が開始される時期であり、相談支援事業所のケアマネジャーである相談支援専門員がケアマネジメント業務を担うことも可能である。

課題6 認知症のある人の家族への支援

 以上のように、認知症のある人へのケアマネジメントにおいて、認知症のある人本人への支援の視点が弱く、それへの対応について述べてきた。一方、認知症のある人の介護者支援については、介護者の負担軽減を目的にして、デイサービスやショートステイの利用といったステレオタイプのケアプランが多い。これは、認知症のある人とのコミュニケーションが難しく、家族との関わりでもってケアプランが作成されることに起因している。確かに認知症のある人の介護者の心身の介護負担は過重であることが多くの調査結果から示されており、当然このような視点でのケアプランが必要である。

 ただ、日本の介護保険制度の目的は要介護・支援者の自立支援にあり、介護者負担の軽減は明記されていないため、家族の負担軽減を重要視しないきらいがある。イギリスでは利用者と介護者は同格であり、両者に対するアセスメントとケアプラン作成がなされることになっている。さらに、利用者と家族の両者の「栄養の管理・維持」「清潔の保持」「排泄の管理」「着衣」「家の安全な利用」「住まいの管理」「家族その他の人との人間関係の形成・維持」「仕事・訓練・教育・ボランティア活動への従事」「公共交通・レクリエーション施設等の地域サービスの利用」「子供の養育」の10のニーズを充足させることがケアマネジャー業務の基準になっており、介護者の就労や育児が充足できるようなケアプランが求められている7)。本来、訪問介護、デイサービス、ショートステイといった福祉系の介護サービスは利用者の自立支援同様に介護者支援として提供されるものである。こうしたサービスが、介護者のニーズを満たすに十分であるかどうかの吟味が必要である。

2.まとめ

 認知症のある人に対するケアマネジメントでの重要なポイントを6点指摘したが、これは突き詰めれば、認知症のある人に限らず、意思表示が十分でない人に対するケアプランの作成はいかにあるべきかを問うものでもある。同時に、そのことは、ケアマネジメントの原点を示すことになり、認知症のある人へのケアマネジメントはケアマネジメントの原点を示しているといえる。

文献

プロフィール

著者:白澤政和
白澤 政和(しらさわ まさかず)
桜美林大学大学院老年学研究科 教授
最終学歴
1974年 大阪市立大学大学院修士課程修了(社会福祉学)、博士(社会学)
主な職歴
1975年 大阪市立大学生活科学部社会福祉学科助手 1982年 大阪市立大学生活科学部社会福祉学科講師 1983年 ミシガン大学老年学研究所在外研究員 1988年 大阪市立大学生活科学部社会福祉学科助教授 1994年同・人間福祉学科教授 2000年 大阪市立大学大学院生活科学研究科教授 2003年 大阪市立大学大学院生活科学研究科研究科長(学部長兼務) 2012年大阪市立大学名誉教授、桜美林大学大学院老年学研究科教授
主要著書
「地域のネットワークづくりの方法―地域包括ケアの具体的展開―」中央法規出版(2013年)、「ケアマネジメントの本質」中央法規出版(2018年)、「認知症のある人へのケアプラン作成のポイント」ワールドプランニング(2018年)、その他介護保険、保健・医療・福祉の連携、ケアマネジメントに関する著書・論文多数
賞罰
吉村仁賞受賞(『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版により)、福武直賞受賞(『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版により)、三井住友海上福祉財団賞(『ケアマネジメントの本質』中央法規出版により) 平成30年度日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞(功労賞)
役職・社会的活動
(社)日本ケアマネジメント学会理事長、(社)日本社会福祉学会元会長、日本在宅ケア学会前理事長、(社)日本ソーシャルワーク教育学校連盟会長、日本老年社会科学会理事、日本介護福祉学会理事、大阪市社会福祉審議会会長、堺市社会福祉審議会会長

※筆者の所属・役職は執筆当時のもの

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