第5章 認知症のケア 2. ケアの立場からみた薬物療法の選択
公開月:2019年10月
香川大学医学部精神神経医学講座 教授
中村 祐
1.はじめに
認知症において薬物療法は有効な手段であるが、これのみに頼ることは好ましくはなく、ケアを中心とする非薬物的なアプローチが常に優先されるべきである。本稿においては、認知症の多くの部分を占めるアルツハイマー型認知症を中心に薬物療法について述べる。尚、前頭側頭型認知症に関しては有効な薬物療法はなく、非薬物的なアプローチを行うことが重要である。
2.アルツハイマー型認知症の病態と認知症治療薬のメカニズム
アルツハイマー型認知症(AD)の病態(病期のしくみ)は、アセチルコリンを作り出す神経細胞に変化や死が生じる為に脳内のアセチルコリンの減少が生じていることである。アセチルコリンを作り出す神経細胞の変化や死は、ADの症状の発現に最も密接に関係している(図1)。この病態に対して、脳内のアセチルコリンの分解を抑制するドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬が開発され、ADの治療薬として現在使用可能なものの大部分を占めている(図2)。
また、ADの病態にグルタミン酸による神経細胞傷害が関与しているのではないかと考えられている。グルタミン酸の受容体のひとつであるNMDA受容体はシナプス内、シナプス外に存在することが知られているが、近年AD病態時においてはシナプス外受容体が活性化し、学習障害や神経細胞障害が生じていると報告されている。メマンチンは、シナプス内受容体よりもシナプス外受容体により強く作用することで、学習改善と神経保護作用を発揮すると考えられている1)。
3.レビー小体型認知症の薬物治療
レビー小体型認知症の病態としては、ADよりもアセチルコリンを作り出す神経細胞に変化と死が強く生じていると考えられている。この病態に対して、脳内のアセチルコリンの分解を抑制するドネペジル(コリンエステラーゼ阻害薬)のみが適応を有している(図2)。また、2018年7月、レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズム(レボドパ含有製剤を使用してもパーキンソニズムが残存する場合)に対してゾニサミド(トレリーフ®、1日1回25mg)が適応を取得した。
4.抗認知症薬の使い分けの基本(ADの場合)
1.重症度を評価する
各抗認知症薬の適応には、重症度の診断が必要となるので、まず、重症度の簡単な評価の目安について述べる。尚、抗認知症薬の適応における重症度は、BPSD(認知症に伴う心理行動症状、興奮、焦燥、暴言、暴力、徘徊など)の有無や程度に依らない。
1)軽度:主に記憶障害(物忘れ)による生活や社会活動の障害
例:頻回の置き忘れ、約束忘れ、大切なものの仕舞い忘れ、仕事上の失敗、複雑な料理ができない、複雑な道具・電化製品(リモコン)が使えない、など。
2)中等度:認知機能障害による基本的な生活や社会活動の障害
例:天候や状況に合わせた服装や挨拶ができないことがある、簡単な料理で失敗、簡単な道具を使う際に失敗あり、最近の大きな出来事(災害など)の忘却、身の周りで起こっていることへの関心の低下(テレビ、新聞、雑誌を見る頻度が低下する)など。
3)高度:認知機能障害による基本的な生活活動の著しい障害
例:ブラウスやシャツのボタンが留められない、風呂に入るのを嫌がる、待合などでじっとしていられない、家事や日課を殆どしなくなる、など。
2.重症度に応じた薬物治療を行う(図3)2)
できる限り早期に治療を始めることにより、薬剤の効果が発揮されやすい。また、副作用などの問題が無い限り、薬物治療を継続することが原則である。従来は、ドネペジルのみがADに対して適応を有していたが、複数の薬剤を用いることが可能となった。これらの薬剤の使い分けや、切り替え、併用することにより、より有用な治療の提供が可能になる。
1)軽度
コリンエステラーゼ阻害薬の投与を行う。できる限り早期に治療を始めることが肝要である。コリンエステラーゼ阻害薬には、ドネペジル(アリセプト®、ジェネリック有)、ガランタミン(レミニール®)、及びリバスチグミン貼付剤(イクセロンパッチ®、リバスタッチパッチ®)である(図3)。各コリンエステラーゼ阻害薬には、吐気、嘔吐、下痢などの消化器系副作用があり、漸増することが基本である。房室ブロック(Ⅱ度以上)や心房細動が見られる場合は、倦怠感や失神を生じることがある。このような場合は速やかに中止、または、減量することが必要である。尚、コリンエステラーゼ阻害剤を複数同時に投与することは添付文書上認められていない。
2)中等度
中等度では、最も多くの選択肢がある。軽度で述べたコリンエステラーゼ阻害薬に加え、メマンチン(メマリー®)の選択が可能となる(図3)。また、各薬剤の単独投与のみならず、両剤を併用することが可能である。
イライラ、焦燥感などの感情が不安定な状態や易刺激性が高まっている場合(所謂、「虫の居所が悪い」という状態)には、メマンチンの投与を考慮する。状態が安定したところで、軽度で述べたコリンエステラーゼ阻害薬を併用する。自発性の低下が前景に立っている場合には、軽度で述べたコリンエステラーゼ阻害薬を投与し、維持用量に達した以降にメマンチンの併用投与を考慮する。また、軽度からコリンエステラーゼ阻害薬を使用し、中等度に進行した場合にはメマンチンの併用投与を考慮する。
3)高度
高度ADに適応を持つ薬剤は、ドネペジルとメマンチンのみである。メマンチンは中等度と同一用量であるが、ドネペジルは高度では10mg/dayが添付文書上の維持用量である。ドネペジルは5mg/dayで4週間経過した後、10mg/dayに増量する。しかし、実際には10mg/dayに増量後1~2週程度の間、食欲不振、吐気、嘔吐、下痢などの副作用がみられることが多い。各地域での保険上の考え方は異なるが、7.5mg/day(5mgを1.5錠)または、8mg/day(3mg錠+5mg錠)を1ヶ月程度投与した後、10mg/dayに増量することにより先に述べた副作用を回避することが可能である。
高度から初めて治療を開始する場合には、中等度と同様にイライラ、焦燥感などの感情が不安定な状態や易刺激性が高まっている場合には、メマンチンを優先して使用する。そのような状態が安定したところでドネペジルを併用する。自発性の低下が前景に立っている場合にはドネペジルを優先して投与する。ドネペジル5mg/dayまで増量した時点で、イライラ、焦燥感などが見られた場合にはメマンチンを追加する。そのような状態が安定したところでドネペジルを10mg/dayに増量する。最終的には、メマンチン20mg/day及びドネペジル10mg/dayを併用投与する。
5.合併症や患者背景に応じた使い分け(表1)
製品名 | メマリー® | アリセプト® | レミニール® | イクセロンパッチ® リバスタッチパッチ® |
---|---|---|---|---|
一般名 | メマンチン塩酸塩 | ドネペジル塩酸塩 | ガランタミン臭化水素塩 | リバスチグミン |
主な作用機序 | NMDA 受容体阻害薬 | コリンエステラーゼ阻害薬 | コリンエステラーゼ阻害薬 | コリンエステラーゼ阻害薬 |
主な副作用 | 浮動性めまい、 傾眠、頭痛、便秘 |
悪心、嘔吐、下痢 | 悪心、嘔吐 | 適応部位、皮膚症状 |
適応重症度 | 中等度~高度 | 軽度~高度 | 軽度~中等度 | 軽度~中等度 |
剤形 | 錠剤、口腔内崩壊錠、 ドライシロップ |
錠剤、口腔内崩壊錠、細粒、 ゼリー、ドライシロップ |
錠剤、口腔内崩壊錠 | 貼付剤 |
用法用量 | 1日1回 1週ごとに5mgずつ漸増 維持量:20mg 高度腎機能障害がある場合は10mg |
軽~中等度:1日1回mgより開始 |
1日2回 1ヶごとに8mgずつ漸増 維持量:16又は24mg |
1日1回経皮 1ヶ月ごとに4.5mgずつ漸増 維持量:18mg 維持量に達するまでは適宜増減可能 |
Cmax(ng/㎖) | 28.98±3.65(20mg) | 9.97±2.08(5mg) | 47.3±8.3(8mg) | 8.27±2.31(18mg) |
Tmax(hr) | 6.0±3.8(20mg) | 3.00±1.10(5mg) | 約1.0(8mg) | 約8(18mg) |
T1/2(hr) | 71.3±12.6(20mg) | 89.3±36.0(5mg) | 9.4±7.0(8mg) | 除去後約3.3(18mg) |
代謝経路 | 腎排泄 | 肝代謝 | 肝・腎代謝 | エステラーゼにより分解(肝代謝) |
血漿蛋白結合率 | 41.9%~45.3% | 92.6% | 17.8% | 約40% |
CYP 代謝酵素 | CYPで代謝されにくい | 3A4, 2D6 | 3A4, 2D6 | CYPによる代謝はわずか |
1. 投与方法・投与経路・剤形による各薬剤の使い分け
ドネペジルの最大の特徴は、1日1回経口投与であることにある。また、血中半減期が長いことから、短期間の服薬中断で効果が落ちにくい。逆に、血中半減期が長いことから、副作用が生じた場合には留意が必要である。したがって、コンプライアンス(きちんと薬剤を服用すること)があまり良くない場合に使用しやすい。また、剤形が最も豊富である。ゼリー剤は、嚥下に時間がかかる場合や固形物の服用を嫌がる場合に有用である。
一方、ガランタミンは、血中半減期が短いことから、1日2回の服用が必要になる。逆に、副作用が生じた場合には投与中止により速やかに軽減が図れる。逆に、1日2回の服用が患者に対する接点が増え、水分摂取を促すチャンスが増えることから、必ずしも1日2回の服用が悪いわけではないとも考えられる。また、ガランタミンは唯一液剤(分包)を有していることが特徴である。ある程度の甘味も有しており、分包製剤であることから、固形物の服用を嫌がる場合に有用である。
リバスチグミン貼付剤は抗認知症薬の中では、唯一の貼付剤である。まず、血中濃度が安定することにより、嘔気、嘔吐、下痢などの副作用が軽減され、また、効果も安定する。薬物投与の有無が視認できる(他に内服薬がある場合でも服薬完了時に貼付すれば服薬確認に利用できる)。外面に油性マジックなどで日付などが記載できる。薬剤の投与が短時間で済む。スキンケアを含めたスキンシップの促進(グルーミング効果)がある。内服を嫌がる、飲み込むのに時間がかかるなど経口剤で治療が困難な場合に投与しやすい。貼付剤という剤形の安心感(口から入れる薬剤よりも「薬」というイメージがソフトになる)がある。副作用が出現した場合に剥がすことにより、速やかにリバスチグミンの血中濃度を低下させ、副作用を軽減することが可能である(リバスチグミン自体の血中半減期は短い)。誤嚥性肺炎の治療中など、経口服薬が困難な場合も治療継続が可能である。また、1包化ができない。「薬」というイメージが湧かないなど、貼付剤に独特なデメリットがある。
メマンチンの特徴は、ドネペジルと同様に血中半減期が長く、1日1回経口投与であることである。メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬と併用が可能であり、ドネペジルと併用する場合には、1日1回同時に経口投与できるメリットがある。また、血中半減期が長いことから、ドネペジルと同様に短期間の服薬中断で効果が落ちにくいことが特徴であり、コンプライアンスがあまり良くない場合にも使い易い薬剤である。
2. BPSDによる各薬剤の使い分け
国内治験の結果からは、メマンチンのみが行動障害(徘徊、無目的な行動、常同行為など)、攻撃性(焦燥、暴言、暴力)に対して効果があることが示されており、これらの症状が前景に立っている場合(介護に困難を来す場合)には、メマンチンを考慮する。一方、自発性や意欲の低下(無関心)が前景に立っている場合(ADLの低下が問題な場合)には、基本的にはコリンエステラーゼ阻害薬を考慮する(図3)。また、消化器に異常のない食欲低下に対してはリバスチグミン貼付剤が有用であると考えられる。
3. 代謝異常や代謝経路による各薬剤の使い分け
4剤とも肝臓に障害がある場合は、かなり重度なものでない限り比較的使いやすい薬剤である。ドネペジルとガランタミンは、肝臓にある薬物分解酵素であるCYP3A4とCYP2D6で分解されることから、CYP3A4とCYP2D6に影響がある薬剤との併用下では多少の影響を受ける恐れがある。しかし、ドネペジルの場合は血液中の蛋白とほとんどが結合している為、徐々に分解され、影響はそれほど大きくない。また、ガランタミンは一部腎臓から排泄されるために影響はそれほど大きくない。リバスチグミンは殆ど全て肝臓のエステラーゼという酵素で速やかに分解され、多くの薬剤の分解に関与するCYPの影響をほとんど受けないことが特徴である。メマンチンについても同様に、CYPの影響をほとんど受けないことが報告されている。但し、メマンチンは腎臓から排泄されることから、腎機能の影響を大きく受けることに注意が必要であり、高度に腎機能が障害されている場合には投与量を減量しなければならない。また、透析中の患者に対しての使用であるが、何れの薬剤も添付文書には明確に示されていない。ドネペジルは血液中の蛋白とほとんどが結合している為、透析中により除去することが難しい。
4. 循環器系異常による使い分け
心房細動や重度の徐脈がある場合は、基本的にはコリンエステラーゼ阻害薬は使用しない。また、高度な心不全やその他の心疾患を合併している場合も同様であり、これらの場合、循環器専門医と相談の上、慎重に少量から投与する。メマンチンは心機能に影響がなく投与可能であるが、腎機能が低下しているか否かに注意が必要である。
6.抗認知症薬を投薬中に留意するポイント
1. 投与初期:副作用に注意する
投与初期は、副作用が見られやすいので、それらに注意する。コリンエステラーゼ阻害薬の場合、嘔気・嘔吐・食欲不振が見られやすい。また、脈拍の低下や心房細動などの不整脈が出現していないかに注意を払う。リバスチグミン貼付剤の場合は、紅斑、痒みなどが無いかを聞くと同時に目視にて貼付した部位を確認することが必要である。メマンチンの場合は、眠気、ふらつきがみられやすい。その場合は、まず、腎機能のチェックを行う。
2. 効果を判定する
患者毎に同じ内容を聞くようにすることが、効果の判定の上で役立つ。電子カルテなどの電子媒体であれば、決まった質問をコピーペーストすることにより定点観測が容易である。聞く内容については、重症度により異なるが、「機嫌」、「料理や掃除の様子」、「買い物」、「外出」、「金銭管理」、決まった質問(「昨日の夕食の内容は?」、「最近の大きなニュースは?」など)が考えらえる。また、頻回の認知機能検査は、学習効果や忌避される可能性もあり、勧められない。HDS-RやMMSEは、6ヵ月は間隔を空けた方が良いと考えられる。また、最近開発されたABC認知症スケールは、挿絵がついた観察式のスケールであり、ADL、BPSD、認知機能を同時に簡便に評価可能であり、介護の現場においても使いやすい3)。
3. BPSDの出現状況をチェックする
易怒性(怒りっぽい)、多動(落ち着きがない)、不眠や夜間不穏などが薬剤の開始以降に新しく見られたり、悪化してはいないかに気を配る。
4. コリンエステラーゼ阻害薬の切り替えとメマンチンの併用を考慮する
コリンエステラーゼ阻害薬同士の切り替えについては、小規模な臨床試験はある程度行われているが公平な目線で行われた大規模な二重盲検比較試験はない。したがって、コリンエステラーゼ阻害薬同士の切り替え基準は存在せず、多くは経験によるものである。コリンエステラーゼ阻害薬は、化学物質としては大きく異なることから、異なる薬理活性、薬物動態(分布も含む)をもつ。その為、切り替えることにより様々な臨床症状が変化することは少なくない。あるコリンエステラーゼ阻害薬の服用中に、焦燥や攻撃性が認められた場合、コリンエステラーゼ阻害薬の種類を変更するとそれらの症状が改善することが少なくない。したがって、認知症の諸症状に悪化が見られる場合、メマンチンを併用する以外に、コリンエステラーゼ阻害薬を変更することも有力な手段となりえる。
コリンエステラーゼ阻害薬同士の切り替え法については確立した方法はないが、欧米のガイドラインではwashout期間(薬を体内から洗い出すため薬を中止してから一定の期間をおくこと)をおかずに切り替えることとなっている4、5)。これは、コリンエステラーゼ阻害薬が共通して持つ消化器系副作用の切り替え時の発現を抑える為である。しかし、切り替え期間中にコリンエステラーゼ阻害作用が減弱するために、一過性に症状が悪化する恐れのあることに留意する。
また、コリンエステラーゼ阻害薬の切り替えとメマンチンの併用のどちらを優先させるかについても公平な目線で行われた大規模な二重盲検比較試験はない。したがって、これについての基準は存在せず、多くは経験によるものである。先に述べた使い分けの部分を参考に、どちらを優先させるかを考慮する。最終的には、最も合ったコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの併用が進行抑制の上で望ましいと考えられる6~9)。
7.抗認知症薬の投与中に生じる副作用対応
1. コリンエステラーゼ阻害薬の消化器系副作用対策
コリンエステラーゼ阻害薬では、しばしば、嘔気・嘔吐、食欲不振がみられるが、これらの副作用に対しては、PPI(プロトンポンプ阻害薬)やPPI類薬(タケキャブ®)が有効である。これらの薬剤でコントロール困難な場合は、ドンペリドン(ナウゼリン®)の処方を考慮する。メトクロプラミド(プリンペラン®)は、パーキンソン症状を惹起する恐れがある為、処方しない。
また、ドネペジルでは下痢がみられることがあるが、この場合は減量もしくは、他のコリンエステラーゼ阻害薬に変更する。
2. リバスチグミンパッチ適用部位の副作用対策
実臨床では以下の対策が有用であると考えられる。
- 貼付部位は毎日変えること(傷のある場所には貼付しない)
- 貼付部位の糊を綺麗に拭き取ること(濡れタオルを使う、強く擦らない)
- 背中など手の届かない部位に貼付すること(掻爬しないようにする為)したがって、入浴前に剥がして、入浴後に以前貼付していた反対の背中に貼付する。但し、自ら体を洗うことができる場合は、逆に手の届く範囲で貼付を行った方が、糊などを洗浄にて落とすことができる。
- また、高齢者は皮膚が乾燥していることが多く、適応部位での副作用を避ける為には保湿剤(ヒルドイド®などのヘパリン類似物質含有軟膏など)などによる事前の保湿が有効である(貼付時には剥がれやすくなるため、貼付部位には塗布しない)。背中にこれらの軟膏・クリームを塗布することは、グルーミング効果があり、不安感を減らしたり、安心感に繋がる。このような処置をすることが困難な場合には、速乾性であるフルメタ®ローション(ローションタイプのステロイド外用剤、油分を含まない)、または、トプシム®スプレー(スプレータイプのステロイド外用剤)を、貼付する部位に前もって塗布・噴霧することにより(30秒程度で乾燥)、皮膚症状を起き難くすることが可能である。
- 適応部位で皮膚に炎症が生じた場合には、ある程度強いステロイド軟膏(アンテベート®など)を用いる(尚、リバスチグミン成分自体には感作性はみられていない)。
3. BPSDへの対応
易怒性(怒りっぽい)、多動(落ち着きがない)、不眠や夜間不穏などが薬剤の開始以降に新しく見られたり、悪化した場合には、コリンエステラーゼ阻害薬の変更、もしくは、メマンチンの併用を考慮する。これらの症状が強い場合は、一旦コリンエステラーゼ阻害薬を中止し、メマンチンの開始を考慮する。
4. メマンチンの「眠気」、「ふらつき」への対応
メマンチンでは、「眠気」、「ふらつき」が出現することが多い。この場合の対策としては、まずは腎機能をチェックする。夕方投与、緩徐な増量が有用である。
8.BPSDに対する薬物治療う10)
BPSDに対する薬物治療は、緊急性がない限り、「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」に従って行う必要がある。まず、非薬物的な介入を最優先とし、これらの介入で治療が困難な場合に薬物治療を考慮する。幻覚・妄想・焦燥・攻撃性に対しては、「抗認知症薬の副作用を否定した上で、保険適用上の最大用量以下もしくは未服用の場合には、メマンチンやコリン分解酵素阻害薬の増量もしくは投与開始も検討可能だが、逆に増悪させることもあるので注意が必要である。これらにより標的症状が改善しない場合は、その薬剤は減量・中止の上、抗精神病薬、抑肝散などの使用を検討する。」と記載されている。実際、BPSDに対して(厳密にはADのBPSDに対して)適応を有しているのは、メマンチン及びコリンエステラーゼ阻害薬3剤のみであり、その他の向精神薬を使用した場合、その全てが適応外使用となる。したがって、緊急性がない限り、幻覚・妄想・焦燥・攻撃性に対しては、まず、メマンチン及びコリンエステラーゼ阻害薬3剤を適宜(増量、減量、または、併用)投与することが必要となる。その上でも、BPSDの治療が困難な場合に抗精神病薬などをやむなく使用することとなる。
やむなく、抗精神病薬を使用する場合は、もちろん、インフォームドコンセントの取得が前提となるが、低用量から頻回に観察を行って投与していくことが必要となる。例としては、クエチアピンを投与する場合は12.5mgからの開始が勧められ、リスペリドンを投与する場合は、0.25mgまたは0.5mgからの開始が勧められる。尚、クエチアピンは糖尿病では禁忌(使用禁止)であり、リスペリドンは腎機能が悪い場合は体内に蓄積しやすいので注意が必要である。
また、睡眠障害についても同様の考えが必要であり、まずは、メマンチン及びコリンエステラーゼ阻害薬3剤を適宜(増量、減量、または、併用)投与することが必要となる。特に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は新規に投与を始めることは、転倒リスク、依存、認知機能低下の観点から避けるべきである。
文献
プロフィール
- 中村 祐(なかむら ゆう)
- 香川大学医学部精神神経医学講座 教授
- 最終学歴
- 1991年 大阪大学大学院医学研究科内科系専攻修了
- 主な職歴
- スウェーデンカロリンスカ研究所客員教授、奈良県立医科大学を経て2005年より現職。臨床心理士、日本認知症ケア学会理事、日本老年精神医学会理事、「認知症の人と家族の会」香川県支部代議員
- 専門分野
- 老年精神医学、神経薬理学、神経化学
※筆者の所属・役職は執筆当時のもの
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