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通いの場×移動販売でこころと体の健康増進!(静岡県袋井市 とれたて食楽部、Honey!ハニー‼)

 

公開月:2024年10月

健康体操のあとの楽しみは移動販売車でのお買い物

 介護予防を目的とした通いの場で行われる健康体操のあとの楽しみは、移動販売車による直売所でのお買い物。新鮮な野菜や肉に魚、パン、生花、日用品などの品々が一台のトラックにギュッとつめ込まれ運ばれてくる(写真1)。「次はお花がほしい」「この間のお総菜が美味しかった」など、お客さんと販売スタッフの話に花が咲く。

写真1、とれたて食楽部の移動販売車の写真。移動販売車は移動式の直売所だ。
写真1  とれたて食楽部の移動販売車は移動式の直売所だ

 これは静岡県西部にある袋井市の風景。この移動販売の取り組みは、「とれたて食楽部(くらぶ)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」(株式会社プランエコ)と「Honey!ハニー!!」(一般社団法人ペイフォワード静岡)によるもので、2020年に「第9回健康寿命をのばそう!アワード(介護予防・高齢者生活支援分野)厚生労働大臣優秀賞企業部門(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」を受賞し、高い評価を得ている。

 とれたて食楽部はJR袋井駅から徒歩5分の場所に、地元の新鮮野菜を提供する農産物直売所として2007年にオープンした(写真2)。2015年には「憩いの場」としてフードコートが併設され、ここにテナントとして出店したのがレストランHoney!ハニー!!である。

写真2、とれたて食楽部の店内の写真。地元の新鮮な農産物が並ぶ。
写真2  とれたて食楽部の店内。地元の新鮮な農産物が並ぶ

地域課題を解決して地元に貢献したい

 とれたて食楽部(株式会社プランエコ)の親会社は、創業110年の歴史ある農業用機器メーカー・静岡製機株式会社。本社を移転することになり、現在のとれたて食楽部の土地に空きが出た。駅近の好立地のためマンション用地にするという声もあったが、四代目社長の鈴木直二郎氏の「農家の方から受けてきた恩を返したい」という思いから農産物直売所をつくることに。こうして農業用機器メーカーが農産物直売所という異分野の事業に取り組むことになった。

 移動販売を始めたのは、とれたて食楽部の元店長で現在シニアアドバイザーの村松英明さん(写真3)とHoney!ハニー!!店長の鈴木功三さん(写真3)の「地域の高齢者が抱える問題を解決したい」という思いが一致したことによる。袋井市は南北に長い地形で、車なしでは移動が困難な地域が多い。路線バスの廃止、高齢者の免許返納などで、移動手段の確保が地域課題となっていた。

写真3、とれたて食楽部の村松英明さんとHoney!ハニー!!の鈴木功三さんの写真。
写真3  とれたて食楽部の村松英明さん(左)とHoney!ハニー!!の鈴木功三さん(右)

 「高齢者はなかなか自分では運転ができません。そんな中、生鮮食品店の閉店が続き、買い物に困っているという声がありました。市からも高齢者の安否確認につながる取り組みはないかという話があり、地域課題を解決して地元に貢献できないかと考えていました」(村松さん)

 「当時から2025年問題が懸念されていた中、周りでは明らかに買い物困難者が増えていました。とれたて食楽部には地元の生産者がつくる農産物がある。売りたい人と買いたい人を移動販売でマッチングさせれば、経済効果と見守りにつなげられると考えました」(鈴木さん)

 村松さんは最初、高齢者への御用聞きや配達を検討したが、それでは支援の範囲が限られる。そこに鈴木さんの移動販売の提案を受け、二人の思いが合致。こうして2017年、とれたて食楽部の農産物を載せたトラックを、Honey!ハニー!!が委託を受ける形で移動販売がスタートした。

地道な販路開拓から、通いの場×移動販売のルート確保へ

 一番の課題は販売ルートの開拓だった。移動販売担当の鈴木さんは、まずは近所を訪問してニーズを探りにいくことから始めた。高齢者の見守りを想定していたことから、民生委員や地域包括支援センター、連合自治会に相談を持ち掛け、協力が得られた地域では回覧板で情報を回してもらうなどして、コミュニティセンター(公会堂)や個人宅へと販売ルートが広がっていった。

 「販売ルートが定着してくると信用も高まってきます。老舗企業の静岡製機が親会社であることも信用度をアップさせていると思います。袋井市の地域包括ケア推進課から、住民主体の通いの場で行っている健康体操(しぞ~かでん伝体操)の開催に合わせて回ってみてはどうかと提案を受け、開催日に合わせてルートを組み立てていきました」(鈴木さん)

 通いの場や地域の居場所などは午前を中心にルートを組み、午後は個人宅やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などに訪問。現在の訪問先は、通いの場32か所、個人宅18か所、サ高住3か所(2024年8月現在)などに及ぶ。

 袋井市のホームページに掲載している「地域支え合いふれあい活動マップ」を見ると、通いの場(健康体操)や地域の居場所の開催日時と一緒に、「移動販売・とれたて食楽部×Honey!ハニー!!」の訪問日時が公開されている(移動販売は他2社も掲載)。市が推薦する移動販売事業ということで、市民は安心して買い物ができる。

経済に役立っている、社会に参加している喜び

 移動販売でどのような効果が見られるのか。「通いの場で運動して、コミュニケーションを取って、買い物を楽しんで帰るという楽しみがひとつプラスされ、それによって参加者も増えるという好循環につながっているようです。外出が難しい高齢者の個人宅へ伺った際、こちらから『買ってくれてありがとう』と気持ちを伝えると、とても喜んでくださいます。経済に役立っている、社会に参加しているという喜びにつながっているようです」と鈴木さんは言う。

 村松さんは、「高齢になると、自分で買い物をする機会が少なくなりますが、本当は自分の目で見て商品を選んで、お金を使って、買い物を楽しみたいものです。そして買い物と同じくらい、販売スタッフとの会話を楽しみにしているようです」と話す(写真4、5)。移動販売は現在、主に女性スタッフが担当しており、鈴木さんも「女性のコミュニケーション力の高さに脱帽です」と共感する。

写真4、移動販売車で買い物を楽しむ地域の皆さんの写真。
写真4 移動販売車で買い物を楽しむ地域の皆さん
写真5、移動販売スタッフと地域の皆さんが会話している写真。販売スタッフとの会話がもうひとつの楽しみ。
写真5 販売スタッフとの会話がもうひとつの楽しみ

 見守りにつながったケースもある。約束の時間に個人宅を訪問した際、呼び鈴を鳴らしても応答がなく、玄関の鍵が開いた状態で、買い物カゴも用意してある。すぐに市の地域包括ケア推進課に連絡を取り、自宅で倒れている高齢者を発見し、大事に至ることがなかったという。

恩返しと恩送りの気持ちを移動販売車に載せて

 とれたて食楽部の移動販売は、市の委託や補助はない民間企業の取り組みであるところにも注目したい。「移動販売で大きな利益を上げようとは思っていません。宣伝効果になり、社会貢献になればいいと思っています。生産者、消費者、従業員、みんなを幸せにするという大きなポリシーがあります。今は収支トントンでやっていますが、三者が幸せになるために、収支をきちんと合わせて持続可能な事業にしていく必要があります」(村松さん)

 そこで、売上を伸ばす試みとして取り入れたのが、移動販売車にGPSを付けること。トラックのルート周辺にスマホを使える高齢者がいれば、トラックの現在地が簡単にわかる仕組み。

 「移動販売をすることで、地域の高齢者、生産者、地域包括支援センター、民生委員、自治体、そして私たち企業もみなウィンウィンの関係になる。さらに、高齢者の経済参加、見守り、コミュニケーションづくりにつながる、非常に価値のある事業だと思っています。静岡製機の『人のため、地域のために役立つ』という社風が、移動販売を行う際の大きなモチベーションになっています」(鈴木さん)

 Honey!ハニー‼の法人名「ペイフォワード静岡」の"ペイフォワード"には、受けた恩を他の誰かに渡すことで、恩を未来へつないでいくという"恩送り"の意味がある。農家の方への恩返しと、その受けた恩を地域へ送る。恩返しと恩送りの気持ちを載せて、とれたて食楽部の移動販売車は今日も市内を循環する。

●写真提供/とれたて食楽部(写真3を除く)


公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第3号(PDF:5.8MB)(新しいウィンドウが開きます)

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