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過疎地域における高齢者の遠隔共食─スマホ食事クラブの試みから

 

公開月:2024年10月

木村 友美(きむら ゆみ)

津田塾大学学芸学部多文化・国際協力学科准教授

はじめに

 一人で食事をとる「孤食」※1が、高齢者の健康問題の背景のひとつとして注目されるようになって久しい。筆者らは2009年より、地域在住高齢者を対象とした疫学調査において、孤食に関する調査を実施してきた。高知県の山間地域に位置する土佐郡土佐町の調査からは、65歳以上の高齢者856人の調査対象者のうち約33%が孤食(1週間の半分以上の食事を一人で食べる状況)であり、家族と同居している高齢者でも約20%が一人で食事をしていたことが明らかになった1)。孤食の高齢者は、弧食でない高齢者に比べて食品摂取の多様性に乏しく、低栄養(やせ)の頻度が高く、心理的健康度(QOL)が低く、うつ傾向の頻度が有意に高いことを明らかにし、孤食への介入の重要性を示した。その後、高齢者の孤食の実態は、都市部も含めた日本各地からの研究で報告されるようになり、心理的健康度や死亡率との関連等においてエビデンスが蓄積されている2)

※1 一人で食べることには、「孤食」のほかに、「個食」とも表現される状況もある。「個食」は主として、おのおのが個別に異なる食事をとることをさし、惣菜や加工品、外食などにより食が簡易に準備できるようになったことが背景としてあげられる。本稿では、健康との関連において研究の蓄積がなされている「孤食」を用いる。

 筆者らは食のもつ社会的側面に着目し、2019年からは「フィールド栄養学」のアプローチによって文化的要素もふまえた「共食」(食を共にする)の行動について考察してきた3)。高齢者自身が孤食をどのように捉えているかについて、質的調査の結果、疾患や食の嗜好の違いによる共食の困難や、口腔機能の低下から人前で食べることをためらう状況等が明らかになっている4)。さらに、一人で食べることによって「マナーを気にしなくなった」、「好きなものしか食べない」、「食文化が伝承されない」といった高齢者の語りから、食のもつ社交としての意義が示唆された。

 一方で、日本の人口構造の推移をみると、高齢者の共食はますます困難になると考えられる。将来的な人口予測として、2040年には高齢者の男性約356万人(20.8%)、女性約540万人(24.5%)が独居になるとされている。特に、人口減少・過疎化の進む農村地域における状況は深刻である。筆者らが調査地としている高知県土佐町では、かつては家族を超えた「地域での共食」が頻繁にみられていたという。冠婚葬祭や年中行事、祭りや地域の運動会など、近所で集まって食べる機会がたびたびあり、それは一人暮らし世帯にとってのセーフティネットとなる側面をもっていた。過疎化の進行によって、そのような地域の行事等の機会は減少した。山間地域では、住居が離れた地域に点在しており、高齢者が日常的に集うことが地理的に困難なケースもみられる(図1)。

図1、過疎集落に暮らす高齢者の写真。
図1 過疎集落に暮らす高齢者

過疎地域でのスマホ食事クラブの試み

 近年、スマートフォンを用いたSNSなどのデジタル技術が、高齢者に社会的つながりの機会を提供し、QOLを向上させ孤独感を減少させるという研究報告がみられるようになった。筆者らは2018年より、ロンドン大学の文化人類学者らとの共同研究で、日本の農村地域に暮らす高齢者らのスマートフォンの使用に関する民族誌的調査を実施してきた※2。その結果、高齢者のスマートフォン使用に関する特徴として、SNSのような不特定多数に開かれたネットワークに戸惑いがある一方で、一対一または少人数での会話アプリケーション(LINEなど)利用に対する心理的なハードルの低さが観察されていた。

※2 University College Londonを中心としたプロジェクト「The Anthropology of Smartphones and Smart Ageing(ASSA)」の一環として実施された調査である。プロジェクトの詳細と成果はオンラインで発刊されている。(https://www.uclpress.co.uk/collections/series-ageing-with-smartphones(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

 そこで、日本の高齢者にとって身近な会話アプリケーションといえるLINEのグループチャット機能を用いて、日常の食に関する話題を共有する「バーチャル共食」の介入を試みた。研究としては、その介入が食事摂取の状況や心理的健康度にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。本稿では、予備的調査として実施した5名の介入プログラムへの参加状況と、その経験が参加者自身にどのように捉えられたかという質的インタビューによる分析を中心として紹介する。

プログラムの内容と調査方法

 本プログラムで実施した「遠隔共食」は、高齢者らが同じタイミングでビデオ通話等をつないで食事をライブ中継するというものではない。会話アプリケーションである「LINE」のグループチャット機能を用いて、食べた料理や食事の様子などの写真を複数人のメンバーと共有することによって仮想的に食事内容を共有することを、遠隔共食と定義した。また、この遠隔共食の介入プログラムは、参加する高齢者にとって親しみやすいものであることを目指し、「スマホ食事クラブ」と名付けて参加者のリクルートを行った。高齢者らが使い慣れているLINEを利用すること、また、食べる内容を投稿する時間や内容に制限をつけないことで、自由な会話型参加を促した。これには、研究としての介入後も、高齢者自身が日常で簡易に実践できるようにという意図もあった。

 対象者は、土佐町の社会福祉協議会が月1回の頻度で実施している「高齢者のためのスマホ教室」の参加者(22人)のうち、LINEの利用ができる者の中から、自由意志で参加を希望した5名とした。参加者には、食事に関すること――食材、調理行程、食事内容、料理の紹介、食事の様子(一緒に食べている人)など――をグループチャット内で自由に発信してもらうように依頼した。

 「スマホ食事クラブ」のグループチャットには、参加者の高齢者に加え、筆者を含む研究者3名(うち1名はロンドン大学所属、イギリスから参加)、および社会福祉協議会の職員2名がスタッフとして参加した。また、本プログラムの趣旨は高齢者らが食を共有する交流に重点をおくため、スタッフらによる食事指導は行わないこととした。これによって、「よい食事内容でなければ報告しづらい」という心理的プレッシャーを回避し、共食の交流としての側面を楽しんで継続してもらえるように配慮した。介入の観察期間は2020年1月29日からの1か月とし、その介入期間の直前と直後に同じ質問票を用いた調査、およびインタビュー調査を実施した5)。質問票は自記式で合計30問あり、基本的属性、日常の食行動や食態度および食多様性などの食事関連項目、心理的健康度に関する項目を含む※3

※3 研究デザインや調査項目等の詳細は、文献5(Sasaki R, et al. 2020)を参照。

スマホ共食からみえた高齢者の食の日常

 グループチャットの中でみられた会話は、その日に食べたものの内容や写真の共有だけでなく、庭の畑で収穫した作物、外食の際の写真、つくった料理のレシピなど多岐にわたり、1か月の介入期間内に様々な内容の会話に発展していく様子がみられた(図2)。ある参加者の夕食の写真をみると、煮魚を主菜として汁物や野菜が彩りよく盛り付けられ、写真を撮ることを意識して張り切ってつくった様子がうかがえるケースもあった。それをみた別の参加者から「おいしそう!」という声があがると、「さっぱりしていて食欲がわきます」などの、味の感想についてのコメントがやりとりされることもあった。そこから、調理やレシピの共有といった話題へと展開することもあった。このように、食事の最中にオンラインでつながなくても、写真やコメントのやりとりによって、まるで食事を共にしているような雰囲気を感じられていた。

図2、LINEのグルーチャットにおけるスマホ食事クラブの会話の様子を表す図。
図2 スマホ食事クラブの会話の様子

 特徴的であったのは、参加高齢者らと若い世代のスタッフらとのやり取りである。食材の加工に関する話題は、筆者を含め20〜30歳代の研究者らにとってはなじみのないものも多く、高齢者らの食加工の知恵を若者が教えてもらうという構図が自然とできあがっていた。山間部でよく食べられるズイキをキンピラにした様子や、タケノコの塩漬け、手摘みで加工した自家製の茶など、食加工の知恵や工夫が伝えられた。

 さらに、バーチャルでの食の共有から、その食材を通じて実際に会うという交流につながったケースもみられた。これは、山間部に住む参加者の1人が、罠でイノシシを捕獲したことを報告した会話から始まった。彼女は一頭のイノシシが横たわった写真を共有しながら、「何をつくったらよいか」と調理方法に関するアドバイスを求めた。参加者たちは次々と会話に参加し、そのうちの一人からの「カレーはどう?」というコメントを受けて、数日後にはイノシシ肉を使ったカレーの写真が投稿された。さらにその後、このイノシシ肉が隣人へのおすそわけを経て、別の参加者がそれを口にするという交流がうまれていたことも確認された。

遠隔共食の効果

 スマホ食事クラブの実践によって、参加者らの精神的健康度や食態度にどのような変化がみられただろうか。1か月の介入期間の前後で、精神的健康度(QOLなど)や食態度に関する自記式アンケートと個別インタビューを実施したところ、次のような特徴が明らかになった5)

1.社会とのつながりの促進

 スマートフォンなどのデジタル技術やSNSなどのツールは、利用者を対面でのつながりから遠ざけるという懸念もあった。しかし、この取り組みからは、イノシシ肉の共有のように、オンラインでの会話から実際の「食のおすそわけ」につながった例もみられた。さらに、スマホ食事クラブをきっかけに別の友人とのLINEグループに参加したという声も聞かれた。

2.料理意欲の向上

 一人暮らしの高齢者にとっては、自分のためだけにつくって食べるだけだった料理を、人にみせることで張り合いが出たという意見があった。例えば、「自分のレパートリーが増え、食生活が豊かになる」などである。実際に会話の中で、ある参加者が投稿したレシピをアレンジして自分もつくってみたという投稿もみられた。

3.多世代交流と食の伝承への意識

 スマホを通じた食の共有は、多世代交流がしやすいプラットフォームとして有効であったことが参加者の発言からうかがえた。

「会うというのは、いつも同じ年齢の人が集うでしょう。老人クラブだったら、老人の同年代だけが集まるし。スマホなら、若い人も入ってこれる」

 さらに、調理法等を若者に伝えたいという気持ちの高まりとして、「自分でも役に立ってることがあるんだと思ってね」という役割を意識した発言も聞かれた。

4.精神的な状況の変化

 QOLの主観的健康度、家族関係・友人関係の満足度、幸福感が介入後に高いスコアになった参加者もみられた。他の人の料理の写真をみて「食欲がわいた」という声も聞かれた。食に対する意欲の向上から、世代間の知の伝承への役割の達成感まで、スマホによる「食の共有」は、全般的な「健康度」の向上に資する可能性が高いことが、調査結果から明らかとなった。

コロナ禍にみる遠隔共食の可能性

 上述のように、スマートフォンによる遠隔共食の試みは、デジタル機器になじみのない高齢者にとっても比較的受け入れやすく、楽しく続けることのできるつながりの場として機能していた。さらに、調査開始時には予期しなかった感染症の拡大という状況下でも、このようなバーチャルな仕組みがうまく機能することがわかった。スマホ食事クラブの活動を始めた頃、新型コロナウイルス感染症の拡大が深刻化した。2020年4月からは、全国各地で外出自粛が求められるようになり、様々な活動や集いの場が休止される状況下で、社会的孤立のリスクを増大させた。スマホ食事クラブの取り組みは、予備的研究としての1か月間の介入期間後も自主的な活動として続き、コロナ禍でさらに参加者を増やして発展していった。特に一人暮らしの高齢者では、スマホ食事クラブでの会話は、「現実から目をそむけることができる居場所になっていた」との声が聞かれた。

 テレビ電話のような動画配信型の共食と異なる点として、LINEのグループチャットの中での食の共有が有効であった理由のひとつに、時間の制約やプレッシャーを感じにくいということと、一人で好きな時にその会話を見直せるという「空間」─高齢者個人の語りでは「居場所」と表現された─が存在したことである。それは、テレビ電話が「通話を切ってしまえば部屋に一人きりの自分」となる一種の寂しさを突き付けてしまう点とは、本質的に異なるものだった。

 さらに、スマホ食事クラブのようなグループチャット型の遠隔共食は、多世代が交流しやすいプラットフォームとして有用であった。本プログラムの介入時にイギリス人の研究者がいたことも、会話を盛り上げるきっかけのひとつとなった。将来的に、日本語を学んでいる留学生や技能実習生等が加わることも双方にとって効果的な交流になるのではないだろうか。

 対面での「共食」活動はもちろん重要であるが、現代的な状況下では、デジタル技術の応用もふくめた「食の共有」は、介護予防に有効であるだけでなく多世代交流の場としての可能性も秘めており、日本の今後の高齢社会のあり方を考えるうえでも有意義であろう。

謝辞

 本稿は、科学研究費・基盤B「地域に根差した介護予防プログラムの構築―日タイ比較研究から実践的介入への挑戦」(19H04352、2019〜2023年、代表・木村友美)、科学研究費・挑戦的研究(萌芽)「地域での『共食の場』を通じた介護予防の効果―住民主体の活動における実践的研究」(19K21587、2019〜2021年、代表・木村友美)、および、大阪大学とUniversity College Londonとのシードファンドに基づく研究助成「Facilitating digital health for older people in rural Japan」(2019年〜2020年度、代表・木村友美、Daniel Miller)の助成を受け実施した。

文献

  1. Kimura Y, Wada T, Okumiya K, et al.: Eating alone among community-dwelling Japanese elderly: association with depression and food diversity. Journal of Nutrition Health & Aging. 2012; 16(8): 728-731.
  2. Tani Y, Kondo N, Noma H, et al.: Eating Alone Yet Living With Others Is Associated With Mortality in Older Men: The JAGES Cohort Survey. J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci. 2018; 73(7): 1330-1334.
  3. 木村友美,野瀬光弘,松林公蔵:超高齢社会における孤食と共食―ソーシャル・インクルージョンの観点から.未来共創2020; 7: 99-117.
  4. 木村友美:食を通じた介護予防―孤食と食多様性に関する日タイ比較から. 生活協同組合研究 2024; 579: 46-54.
  5. Sasaki R, Haapio-Kirk L, Kimura Y.: Sharing virtual meals among the elderly: An ethnographic and quantitative study of the role of smartphones in distanced social eating in rural Japan. J Review of Cultural Anthropology. 2020; 21(2): 7-47.

筆者

きむらゆみ氏の写真。
木村 友美(きむら ゆみ)
津田塾大学学芸学部多文化・国際協力学科准教授
略歴
2012年:京都大学医学研究科社会健康医学系博士、2016年:大阪大学大学院人間科学研究科共生学系助教、2019年:大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター専任講師、2024年より現職
専門分野
公衆衛生学、フィールド栄養学

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第3号(PDF:5.8MB)(新しいウィンドウが開きます)

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