エイジテック:高齢者が自立して暮らすためのテクノロジー
公開月:2024年1月
阿久津 靖子 (あくつ やすこ)
一般社団法人 日本次世代型先進高齢社会研究機構(Aging Japan)代表理事
株式会社MTヘルスケアデザイン研究所 所長
パンデミック後、2022~2023年は、世界では一気に対面でのエイジテック(AgeTech)に関するイベントが開催されている。パンデミックの間、多くの高齢者が犠牲となり悲劇的な状況もあった一方、高齢者を支える技術であるAgeTechに関する議論が盛んとなっている。米国のAARP(全米退職者協会)は2023年のCES(毎年行われる最大のConsumer Electronics Show)でAgeTechの展示や関係者の講演を行った。彼らは、AgeTech産業は活況を呈しており、2050年までに50歳以上の人々が世界のGDPに貢献する額は118兆ドルに達すると予測している。
一方、日本ではAgeTechとはCareTechつまり介護テクノロジーが中心であり、高齢者が自立して暮らすためのテクノロジーとしての認識が少ない。介護保険が充実する日本においては介護保険で賄われる市場がビジネスモデルを描きやすく、高齢者市場は製品開発が見込みにくいという面から企業があまり興味を持たず、また高齢者市場は参入が難しいという思い込みもあり、AgeTechへの関心が薄いように感じる。高齢者市場のこれからの市場を世界が見据えている中で、日本の一般企業に超高齢社会である日本にAgeTech市場に関心を持ってもらいたいと思い、今回の特集「高齢者にやさしいテクノロジー・デジタル技術の開発・実装」の企画アドバイザーをお引き受けした。
高齢者はテクノロジーに弱いという烙印(スティグマ)はどの国でもその克服にどうあるべきかという課題は多くある。日本では、1.高齢者を巻き込んだ開発、2.高齢者当事者による評価、3.高齢者に向けての製品の普及活動という重要な3つのプロセスが抜け落ちていると日々感じている。
今号特集では、AgeTechの分野にて長く調査研究をされてきた方々に執筆をお願いした。安岡先生はデンマークでデジタル社会推進のため高齢者への普及事業を行っている。Bianca先生の所属するカナダのCABHIでは高齢者を巻き込んだAgeTechの共創プラットフォームを実装している。関根先生、原田先生は高齢者のUX/UI※1という視点から長くに製品評価などをしている。
※1 UX(ユーザーエクスペリエンス):ユーザーが製品やサービスを使用する際の全体的な体験。使いやすさや満足度などが含まれる。
UI(ユーザーインターフェース):ユーザーが製品やサービスをつなぐ接点のこと。ディスプレイ、マウス・キーボードなどの入力装置、Webデザインなどが含まれる。
2050年日本の高齢化率は4割近くになると予想され※2、AgeTech市場が主要市場になる可能性は高い。2050年、今30代の人々も60代となり、自分には関係がないと思っている方々にも自分ごととして考えるきっかけとなることを願う。
※2 高齢化の推移と将来推計
(2024年1月31日閲覧)
筆者
- 阿久津 靖子 (あくつ やすこ)
- 一般社団法人 日本次世代型先進高齢社会研究機構(Aging Japan)代表理事
株式会社MTヘルスケアデザイン研究所 所長 - 略歴
- 1982年:筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科修了。GKインダストリアルデザイン研究所、三栄コーポレーション、ロフテー株式会社、株式会社昭和西川に勤務、2012年:株式会社MTヘルスケアデザイン研究所創業、研究所所長、2017年:Aging2.0 Tokyo chapter Ambassador就任、2018年:一般社団法人日本次世代型先進高齢社会研究機構代表理事、2019年:千葉大学附属大学病院患者支援部特任准教授
- 専門分野
- ヘルスケアデザイン、医療・介護機器評価
- 過去の掲載記事
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