認知症の人の意思決定支援
公開月:2023年10月
櫻井 孝 (さくらい たかし)
国立長寿医療研究センター研究所長
わが国では認知症の有病率は増加しており、2025年には、高齢者の約20%を占める約700万人に達することが指摘されている。高齢者のうち5人に1人が認知症を有すると推計される。近年、認知症者の医療サービス・介護サービスの提供体制が整備され、認知症の生命予後も改善しているとの報告もあり、認知症有病率の上昇に寄与していると考えられる。認知症でも本人の意思を満足できる療養、日常生活を達成することは当然であるが、認知症の進行とともに、より高齢となった当事者の意思をくみ取ることはしばしば困難である。
厚生労働省は平成30(2018)年6月に「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」を公表した。本ガイドラインは、認知症の人を支える周囲の人において行われる意思決定支援の基本的な考え方や姿勢、方法、配慮すべき事柄を整理している。これにより認知症の人が自らの意思に基づいた日常生活・社会生活を送れることをめざしている。
本特集号では、「意思決定支援ガイドライン」策定に中心的役割を果たされた稲葉一人先生に、ガイドラインの概要を解説していただくとともに、今後の課題について整理していただいた。また、認知症高齢者の意思決定が求められる場面として、「医療ケアにおける意思決定」を井藤佳恵先生に、「社会生活における意思決定支援」を高梨早苗先生・三浦久幸先生の共著で執筆いただいた。また、駒村康平先生には「主観的認知機能と認知機能の乖離がもたらす社会問題」を取り上げていただき、認知機能が低下した人の経済活動や金融資産の管理の課題について解説いただいた。
本特集号が、認知機能低下を懸念する高齢者の生活上の意思決定に関連する問題に対処するための有用な情報を提供すること、また読者にとっては、認知機能の低下に直面しても自身の幸福追求のため個性や尊厳を尊重した決定を下せるようなヒントを提供できれば幸いである。
筆者
- 櫻井 孝 (さくらい たかし)
- 国立長寿医療研究センター研究所長
- 略歴
- 1985年:神戸大学医学部医学科卒業、1992年:神戸大学大学院医学系研究科修了(医学博士)、岡崎国立共同研究機構生理学研究所研究員、1993年:米国ワシントン大学薬理学教室研究員、2001年:神戸大学大学院医学系研究科老年内科助手、2007年:神戸大学付属病院老年内科講師、2010年:国立長寿医療研究センターもの忘れセンター部長、2014年:同センター長、2016年:名古屋大学大学院医学系研究科認知機能科学分野連携教授(現職)、2021年:国立長寿医療研究センター副院長、国立長寿医療研究センター認知症先進医療開発センター長(現職)、2022年:国立長寿医療研究センター研究所長(現職)、2023年:国立長寿医療研究センター理事(現職)
- 専門分野
- 老年医学、認知症、糖尿病
- 過去の掲載記事
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