第3回 自慢話のコツと恩返し
公開月:2023年10月
名取 芳彦
もっとい不動 密蔵院住職
「自慢話の中でも故郷自慢と親自慢は、聞いていて気持ちがいいものです」―ニッポン放送の村上正行アナウンサー(故人)から聞いた言葉です。
この2つが聞いていて気持ちがいい理由は、土台に感謝の気持ちがあるからです。
生まれ育った土地の自然や人情にふれた故郷自慢は、そのおかげで今の自分があるという気持ちが伝わってきます。親自慢も、親への感謝の気持ちが聞き手に自然に伝わります。
ところが、単に"昔はよかった"的な自慢話を聞くと、私は「この人は過去に生きている」と思い、「で、今は何をしているのですか」という意地悪な言葉が口から出そうになります。
こうした経験から、自分が自慢話をするときは、最後に「でも、私が頑張った間、ずっと妻(檀家、友達)が支えてくれていたんです」と感謝の思いをつけたすようになりました。
その延長で、単なる自慢話を聞いたときも、「すごいですね。でもその陰であなたを支えてくれた人がいるんですよね。ありがたいですね」と言うようになりました。相手はつられて「そうなんですけどね」とニッコリしてくれます。
私の父(師僧)は、70歳を迎えるころ「万恩に生かさるる身の百恩を知る。せめて一恩を報ぜん」と色紙に書くようになりました。
自分を生かしてくれている恩を数えれば百くらいは思いつきます。親、友達、先生、同僚、家族、食べ物の生産者や漁師、電気を安定供給してくれている人、果ては水や空気などにもお世話になっています。細かく分類すれば恩の数は万に及ぶでしょう。
それだけの恩に支えられてきたし、支えられているのだから、せめてそのうち1つでも恩返しをしても罰は当たらないというのです。
恩返しの方法はたくさんあります。笑顔で挨拶する、1日に1回くらい人が喜びそうなことを言う、元気でいるなども立派な恩返しでしょう。
自慢話は感謝を忘れず、感謝をしたら恩返しもしたいものです。
著者
- 名取 芳彦(なとり ほうげん)
- 1958年東京都江戸川区生まれ。大正大学を卒業後、英語教師を経て、江戸川区鹿骨の 住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。『ぶれない心をつくる ポケット空海 道を照らす言葉』(河出書房新社)、『人生をもっと"快適"にする 急がない練習』(大和書房)など著書多数。
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