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第1回 年を取るのは許せることがふえること

 

公開月:2023年4月

名取 芳彦
元結(もっとい)不動 密蔵院住職


 中国古典の『菜根譚』に、人徳ある人の行いが3つあげられています。

 1、小さな過失はとがめない。2、隠しごとはあばかない。3、古傷は忘れてあげる(『中国古典 名著のすべてがわかる本』守屋洋著・三笠書房)。

 これを実行するのはむずかしいかもしれませんが、2つの視点から考えればいいでしょう。

 1つは、もし自分なら、小さな過失をとがめられたいか、隠しごとをあばかれたいか、古傷を覚えておいてほしいかという視点です。だれもそんなことは望まないでしょう。

 もう1つは、他人の小さな過失をとがめて、隠しごとをあばいて、古傷を覚えておいて、どうするつもりかという視点です。答えを知れば、心の闇が垣間見えそうです。

 私が30代で目標としてつくった言葉に「年を取るのは許せることがふえること」があります。近所に、許容力、包容力のあるお年寄りがいたのです。もちろん彼女は、小さな過失をとがめることも、隠しごとをあばくことも、人の古傷にふれることもしませんでした。まるで人徳が服を着ているような人でした。

 ご自分でもさまざまな失敗をし、他人の過ちも多く見てきたのでしょう。その経験から他人を許す大きな心を育てることができたのだと思います。

図、「年を取るのは許せることがふえること」。お地蔵さんのイラスト(なとりほうげん氏作)

 こうした大きな心は、チンギス・カンが言ったとされる「後から来る者のために、泉を清く保て」にも通じる気がします。

 自分の物を整理する人の中に、家族から「こんなものを後生大事にためこんで、片づける人の身になってほしかった......」と悪く言われたくなくて、「飛ぶ鳥跡を濁さず、ですからね」とおっしゃる人がいます。

 しかし、チンギス・カンは「(自分が悪く言われないためではなく)後から来る旅人のために泉を清く保て」と言ったのです。賢明なリーダーだったと思います。

 人徳は経験の積み重ねによって磨かれていきます。そして賢さは、未来に対する責任感から生じるのでしょう。

著者

名取 芳彦(なとり ほうげん)
 1958年東京都江戸川区生まれ。大正大学を卒業後、英語教師を経て、江戸川区鹿骨の元結(もっとい)不動密蔵院(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。『ぶれない心をつくる ポケット空海 道を照らす言葉』(河出書房新社)、『人生をもっと"快適"にする 急がない練習』(大和書房)など著書多数。

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2023年 第32巻第1号(PDF:7.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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