たばこが何故健康に悪いのか
公開日:2019年8月 9日 10時00分
更新日:2023年3月16日 11時45分
日本国内では現在、飲食店では分煙が進み、路上喫煙には罰金が科せられるなど、喫煙者以外の人がたばこの煙を吸ってしまう「受動喫煙」を無くそうという動きが広がっています1)。たばこは、何故健康に悪いとされているのでしょうか。
増えてきたたばこの種類2)
日本で入手できるたばこには、大きく分けると4つの種類があります。
- 紙巻たばこ:もっともポピュラーなたばこです。
- 加熱式たばこ:たばこの葉を燃やして「煙」を吸うのではなく、加熱して発生する「蒸気」を吸い込むタイプです。
- 電子たばこ:たばこの葉を使わず、カートリッジ内の液体(リキッド)を電子的に加熱し、その「蒸気」を吸い込むタイプです。日本での販売が許可されているのは、リキッド内にニコチンを含まないものです。
- パイプ:パイプの中につめたたばこ葉を燃やすタイプです。
加熱式たばこと電子たばこは、周りの人からみればとてもよく似ていますが、この2つは加熱するものが違います。加熱式たばこは「たばこ葉」を加熱しますので、従来からの紙巻きたばこと同様、その煙にはニコチンが含まれています。電子たばこは専用のカートリッジ内の液体を加熱しますが、日本で販売が許可されている液体カートリッジは、ニコチンが含まれていません。そのため、「ニコチンが無いから安全だ」と、一般的には考えられています。しかし、個人で海外から専用カートリッジを購入した場合、ニコチンが含まれているものがあるため注意が必要です。
たばこによる体への影響3)
たばこが体に与える影響として、3つの要素が考えられています。
- 有害性:たばこ製品とたばこ煙に含まれる有害化学物質の存在
- 依存性:喫煙行為により依存性を伴う化学物質の存在
- 魅惑性:喫煙者を惹きつける化学物質及びたばこのデザイン
です。
有害性
たばこの有害性については、たばこに含まれる数々の有害物質が挙げられます。特に紙巻たばこは燃焼するだけで、多くの有害物質を含んだ煙を生じさせます。これらは、喫煙者本人だけではなく、周りの人の「受動喫煙による健康被害」を引き起こします。
依存性
たばこの依存性については、たばこに含まれる「ニコチン」が挙げられます。これはたばこへの依存性を高める物質であり、特に紙巻たばこは、ニコチンガムなどと比較するとニコチンの吸収が早いという特徴があります。喫煙後約5分で血液中のニコチン濃度が最大となります。ニコチン濃度は1~2時間経過すると半分くらいに減りるため、ニコチンに依存している人は、血液中のニコチン濃度を維持しようと断続的にたばこを吸うことになります。また、依存性を間接的に増加させる可能性がある成分として、メンソール、ココア、チョコレートが報告されています。メンソールのたばこは喫煙者の喉を刺激して爽快感を与えるため、たばこ本来の苦みやえぐみを感じにくくなり、より深く吸引することで依存につながります。
魅惑性
たばこ産業は、たばこ製品が喫煙者や将来的な喫煙者に魅力的なるよう、さまざまな添加物、製品の形状と使用法を工夫しています。現在、日本で販売されているたばこは、口当たりの良い味(フレーバー)のものや、食品や菓子にも使われている成分を添加しているものがあります。また、受動喫煙対策に対応するために、無煙たばこや電子器具と組み合わせることで視覚的に魅力的なデザインのたばこ製品を販売しています。
たばこを吸う人への影響、吸わない人への影響
現在のところ、喫煙者本人に対する健康への影響として、さまざまな病気との関連性が指摘されています(表1)。
がん | 肺がん、頭頸部がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、尿路がん(膀胱)、子宮頸がん、肺がん患者の生命予後悪化、がん患者の二次がん罹患、かぎたばこによる発がん |
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循環器 | 虚血性心疾患、脳卒中、腹部大動脈瘤、末梢動脈硬化症 |
呼吸器 | 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸機能低下、結核による死亡 |
糖尿病 | 2型糖尿病の発症 |
その他 | 歯周病、ニコチン依存症、妊婦の喫煙による乳幼児突然死症候群(SIDS)、早産、低出生体重・胎児発育遅延 |
このほか、喫煙者本人への健康影響についてまだ科学的に因果関係が十分(確実)ではありませんが、恐らく関係があるだろうとされているのは表2です。
がん | 大腸がん、腎孟尿管・腎細胞がん、乳がん、前立腺がん死亡、急性骨髄性白血病、子宮体がんのリスク減少、がん患者全体の生命予後悪化、再発リスク増加、治療効果低下および治療関連毒性(治療による副作用がでる) |
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循環器 | 胸部大動脈瘤 |
呼吸器 | 気管支喘息の発症および増悪、結核の発症および再発、特発性肺線維症 |
その他 | う蝕(虫歯)、口腔インプラント失敗、歯の喪失、閉経後女性の骨密度低下、大腿骨近位部骨折、関節リウマチ、認知症および日常生活動作、女性の生殖能力低下、妊婦の子宮外妊娠・常位胎盤早期剥離・前置胎盤、妊婦の子癇前症・妊娠高血圧症候群(PIH)のリスク減少 |
この他、未成年による喫煙(喫煙開始年齢が若い)の場合は、全死因による死亡、がん死亡、循環器の病気による死亡、がんにかかるリスクが増大することが分かっています3)。
形が変わっても、たばこには変わらない
一般的には、加熱式たばこや電子たばこは、従来の紙巻きたばことは違い、臭いや煙が少ないから安全、と考える人もいます。しかし、加熱式たばこや電子たばこの安全性についての研究や検討がなされた結果、日本禁煙学会や日本呼吸器学会などから、緊急の提言が発信されています。
これによると、非燃焼・加熱式たばこや電子たばこのいずれにも、有害物質を噴出させる可能性が指摘されています。またこれらが出す煙(電子たばこはエアゾル)にも、ニコチンを含む有害物質が含まれており、紙巻たばこよりは若干少ないものの、喫煙者本人あるいは受動喫煙者の健康に被害を及ぼす可能性が高いとされています4)5)。
たばこの影響により、がんや循環器の病気など、死につながる病気になる可能性が示されています。また、たばこを吸う本人だけではなく、周りの人の健康にも大きな影響を与える可能性があることが、たばこが健康に悪いとされる理由です。