Society 5.0(ソサエティ 5.0)のヘルスケア 治す医療から治し支える医療の転換
公開日:2019年8月 9日 09時35分
更新日:2021年2月24日 10時41分
医療は従来、病気やケガを「治す」ためのものでした。しかし近年は、高齢化の進行とともに患者の高齢化も目立ち、「治す」だけでなく、「治した後でも支える医療」が求められています。これを支えるのが、Society 5.0(ソサエティ5.0)の実現の基盤となるAIやIOTなどの情報技術です。
Society 5.0(ソサエティ5.0)とは何か1)2)
Societyとは、「社会」や「共同体」という意味の言葉です。今、日本や世界の国々は、5番目の新しい社会に向けて進んでいます。
私たちは、人類が誕生してから4つ目の社会の中で生きています。
- Society 1.0=狩猟社会:人類誕生の頃に形成された、狩りを生活の糧とした社会
- Society 2.0=農耕社会:人類は道具を手に入れて、農業を始めることで定住するようになった社会
- Society 3.0=工業社会:17~18世紀ごろにヨーロッパを中心として起こった第1次産業革命後に形成された社会で、「手作り」だった製造業において「大量生産」が可能になった
- Society 4.0=情報社会:20世紀後半ごろに起こった第3次産業革命とともに生まれた社会で、コンピューターやインターネットを利用した情報化、業務の自動化を実現した
そして現在、世界中で第4次産業革命が起っています。その後に形成されるであろう新しい社会が5番目の社会、Society 5.0(ソサエティ5.0)です。日本では「超スマート社会」という名称がつけられています。
ヘルスケアを支える技術
第4次産業革命におけるヘルスケア分野を支える技術として、AIやIOT、バイオテクノロジーなどが挙げられます。
AIはArtificial Intelligenceの略語で、人工知能のことです。現在、日本や世界ではさまざまな分野でのAI利用に関する研究が進んでいます。AIに関する研究の多くは、「人間が知能を使って行う処理や作業を機械に代行させる」というものです。
IOTとはInternet of Thingsの略語で、「モノのインターネット」と表現されます。現在はさまざまなセンサー技術が開発、実用化されていますが、このセンサーからの情報を集め、その情報を分析し、適切な動きを促す技術です。
バイオテクノロジーはバイオロジー(生物学)とテクノロジー(技術)が合成した分野です。最近ではiPS 細胞による再生医療、遺伝子組み換えなどのゲノム編集、ヒト共生微生物叢(マイクロバイオーム)の解析が進んでいます。
これらの技術の進歩によって人間の身体、その生理機能から行動までがデータ化され、その膨大なデータ(ビッグデータ)を活用することで必要な人が適切なタイミングで必要なケアを受けられるものになると考えられています。
大きな転換期を迎える医療の世界3)
前述のように、情報技術・バイオテクノロジーの進歩により、人からのさまざまなデータや診療に関するデータを集約し、利活用することが可能になり、私たちの生活は変わろうとしています。そのなかで医療・ヘルスケアの世界は以下の3つの転換を迎えています。
未病ケア・予防への転換
病気やケガの治療を中心とする医療から、生活習慣病予防、認知症予防といった病気の前の段階の未病段階のケアや予防に転換しつつあります。
個別化されるヘルスケア
平均的な患者、症状に対する画一的な治療から、グループ別や個別のものとなり、個人が適切なタイミングで必要な予防・未病ケア・治療・介護を受けられるようになります。
個人の主体的な健康管理
従来は医療従事者が管理していた健康管理を、個人自らがウェアラブル端末を介して蓄積された身体・生理機能のデータを活用して主体的に健康管理をおこなうようになります。例えば、身体・生理機能データをAIが分析することで、病気になる前から、病気へのリスクを想定し、それを回避するような行動を促すことが可能となります。
また、遺伝子上で特定のがんになる可能性が高い人には、がんを回避するような生活習慣の改善や、定期的な検診を促すことができます。また、実際の食事内容から、生活習慣病予防のために運動を促すような仕組みも、利用できるようになります。
「治す医療」から「治し支える医療」4)5)
現在の日本では、高齢者が増加し、疾病構造が変化・多様化しています。そのため医療・ヘルスケアは未病ケア・予防への転換を迎えている一方、「治す医療」から「治し支える医療」への転換も求められています。病気の治療を目指す急性疾患よりも慢性疾患が増え、疾患と付き合って暮らしていく人が増加する傾向にあるなか、在宅での医療や見守りを必要とする高齢者は、これからも増えると予測されています。このような病を抱えながらも住み慣れた自宅で暮らしたい高齢者を支えるのは、在宅医療や在宅介護に関わる医療者、介護者です。しかし、現在の日本は医療や介護を担う人材不足が大きな課題となっています。
そのため、医療者、介護者にもIOTが必要とされています。平成29年(2018年)4月から始まった「遠隔医療」という仕組みがあります。遠隔医療は、医師と患者がIOTなどの通信技術を通じて診療行為を行うことです。遠隔診療は「通院しなくても医師が自分を気にかけてくれる安心感」につながると考えられます。
例えば、在宅の患者の病状を遠方から容易に確認できれば、在宅での医療に役立てることができます。また、IOTを応用できれば、しばらく在宅で療養していた患者の脈拍や血圧、体温などの生体情報をリアルタイムで観察することできます。生体情報の変化から小さな病状の変化にいち早く気付くことができ、重症化を未然に防ぐことができるかもしれません。治した後でも支える医療を、在宅で提供できる可能性があるのです。