スマートシティとは
公開日:2019年8月 9日 09時45分
更新日:2020年2月20日 11時18分
ここ数年、メディアに時々登場する「スマートシティ」という言葉。これは、わたしたちが住むまちを新しい技術を駆使して再開発を行い、われわれの生活を便利にする、国をあげての一大次世代まちづくりプロジェクトを示す言葉です。
スマートシティの定義1)2)
スマートシティとは、ICT※1の先端技術を用いて都市や地方が抱える固有の課題(人口減、高齢化、観光、農林水産業、教育、医療、雇用、防災、財政等)に対し、データを利活用し解決するため国の取り組みとして行われているまちづくり構想です。
日本は現在、「Society 5.0(ソサエティ5.0)」の実現に向け、さまざまな取り組みを始めています。2018年6月、国会において「未来投資戦略 2018-「Society 5.0(ソサエティ5.0)」「データ駆動型社会」への変革-」という国の施策が閣議決定されました。
「Society 5.0(ソサエティ5.0)」とはそもそも、日本が目指す未来社会のコンセプトです。その中の一つに、次世代のまちづくりの構想があります。これがスマートシティです。
スマートシティの実現に向け、2018年8月に国土交通省が公表した「スマートシティの実現に向けて(中間とりまとめ)」によると、スマートシティは『都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区』と定義されています。具体的には以下の5つの分野において、スマートシティが目指すところが明示されています。
交通(Mobility)
公共交通を中心に、あらゆる市民が快適に移動可能な街
自然との共生(Nature)
水や緑と調和した都市空間
省エネルギー(Energy)
- パッシブ・アクティブ両面から建物・街区レベルにおける省エネを実現
- 太陽光、風力など再生可能エネルギーの活用
安全安心(Safety&Security)
- 災害に強い街づくり・地域コミュニティの育成
- 都市開発において、非常用発電機、備蓄倉庫、避難場所等を確保
資源循環(Recycle)
- 雨水等の貯留・活用
- 排水処理による中水を植栽散水等に利用
- ※1 ICT:
- ICTはInformation and Communication Technologyの頭文字をとった略字。情報通信技術のこと。
スマートシティを巡るこれまでの取組み
スマートシティという言葉は、バラク・オバマ前米国大統領の政策で注目されるようになりました。2015年9月14日にバラク・オバマ大統領は「スマートシティ・イニシアティブ」を発表し、スマートシティを「住民の生活を向上するデータ収集・集積・活用を継続的に改善するインフラを構築するコミュニティ」と定義しました3)。この発表ではスマートシティをデータ革命、安価なセンサ、共同研究の成果を安全とプライバシーを保護した上で取り込むことで実現するとし、スマートシティ実現に必要な要素技術の研究開発に対し、2016年度の連邦予算において1億6000万ドル(192億円)の政府助成を行いました。その後は、民間企業が中心となり米国政府や自治体と連携しデータに基づくスマートシティ環境の構築が進んでいます。
日本では、近年のICTの技術の進展により、データの利活用という構想の下、「環境」「エネルギー」「交通」「通信」「教育」「医療・健康」など、複数の分野に幅広く取り組む「分野横断型」での対策が求められています。
そのため、各省庁がそれぞれが管轄する分野で、スマートシティの実現に向けさまざまな取り組みをしています。データ利活用分野や通信分野では総務省が、エネルギー分野では経済産業省と環境省が、交通や省エネ住宅などの分野では国土交通省がそれぞれ、多くの事業を展開しています。これに対し、旧来の分野や府・省の枠をこえたマネジメントを行っているのが、内閣府です。いわば、国を挙げての新しいまちづくりが進められているのです。
日本のスマートシティの推進事例
福島県会津若松市では、2014年からスマートシティの構築に向けた取り組みが始まりました。会津若松市には日本初のICT専門大学である会津大学があり、観光産業と、農業や酒、漆器等の地場産業があります。しかし生産人口は減少傾向が続いており、ICTを活用した産業の創出、人材育成を目標として「スマートシティ会津若松」がスタートしました4)。
このプロジェクトの中では、会津若松市および会津大学、国、ICT関連企業が三位一体となり、さまざまな事業を展開しています。具体的には次のような事業です。
地域情報ポータル「会津若松プラス」(市民向け総合窓口)
地域情報ポータルサイト「会津若松プラス」にアクセスすると、「あなたが一番見たいであろう情報」に、簡単に素早くアクセスできるような工夫がなされています(リンク1)。
データを活用して、健康寿命を伸ばす
人口に対してベッド数の多い総合病院が複数あるメリットを活かし、「治療から予防医療」への移行による医療費削減を狙います。自治体や医療機関からのデータを集約し、このビッグデータを利活用することで、「データに基づく健康アドバイス」なども可能にします。
市内バス路線及びダイヤの最適化
市内の公共交通の空白地域を洗い出すとともに、バスの乗降データや高齢者数や高齢者密度などのデータをあわせて分析し、路線バスの潜在需要が最も高い地域を抽出。データに基づきコミュニティバスの路線およびダイヤを地域住民と協働して最適化したことでバスの利用率が向上しました。
そのほかに、実際に住んでいる土地と空き家の土地を明確にする、交通事故発生可能箇所の抽出などの事業も展開されています。
スマートシティがもたらす生活の変化
会津若松市のようなスマートシティが他の地域にも広がると、私たちの生活はどう変化するのでしょうか。
スマートシティ構想の根底にあるのは「物理的な距離の問題の多くが解消され、生活者はそれにより削減・短縮された余剰の時間を自らの生活の質を高めるための活動や、自己実現欲求を満たす活動や、付加価値の高い活動などに対し、充てることができるようになる」と考えられています。つまり、通勤や通学、買い物、通院などにかけていた時間を削減し、その分の時間で社会貢献をしたり、再教育を受けたり、より多くの人との交流をする時間に充てられる、ということです(図1)。
今はまだ、いくつかの地域でスマートシティの実現に向けて動き始めた段階ですが、医療・健康の分野でも、健康長寿の実現に向けたさまざまな事業が展開されています。近い将来、今までとは違う新しいまちづくりが、より一層進むのかもしれません。