健康長寿を支える国の取組について
公開日:2019年8月 9日 10時00分
更新日:2022年4月27日 13時53分
日本は現在、少子高齢社会における健康長寿社会の実現と、経済成長というとても大きな課題を抱えています。少子高齢化の進展に伴う課題を解決することを目的として、国はさまざまな方針や戦略を掲げています。中でも、医療や健康に関係しているのが、「高齢社会対策大綱」と「健康・医療戦略」です。
高齢社会対策大綱の策定1)
平成30年(2018年)2月16日、高齢社会対策大綱が閣議決定されました。少子高齢化が世界一の早さで進む日本では、これまでの社会モデルでは、対応できない課題も見えています。今回、新しく制定された高齢社会対策大綱は、10年、20年先を見据えた社会づくりの指針となるものです。
すでにさまざまなメディア等で報じられている通り、今後の日本は高齢化がさらに進行し、その一方で生産年齢層の減少も進行していくため、総人口の減少傾向も止まりません。かつての日本ではこうした状況を経験したことがなく、これまでの考え方、これまでの施策等をそのまま続けることは難しいと考えられています。
また、高齢化が進行しているとはいえ、いわゆる「元気な高齢者」は増えており、65歳以上を高齢者とするこれまでの高齢者の定義についての考え方が現実的ではなくなっています。70歳をすぎても本人に意欲や能力があるならば、それに応じた力を発揮してほしい、そのための環境づくりが必要とされているのです。
平成28年(2016年)には「ニッポン一億総活躍プラン」がスタートしましたが、高齢社会対策大綱は、日本一億総活躍プランを強力に推進するとしています。現在、現役として就労している人たちが介護を理由に離職することを防止し、老若男女あらゆる人たちがあらゆる場で活躍できる「一億総活躍社会」実現に向けた取り組みを推進するとしています。
さらに、平成29年(2017年)に閣議決定された「働き方改革」、同年に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」とも連動させて、新しい国づくりを目指しています(図1)。
高齢社会対策大綱は次の6つの分野について、高齢者対策の方向性が定められました。
- 就業・所得
- エイジレスに働ける社会の実現に向けた環境整備
- 公的年金制度の安定的運営
- 資産形成等の支援
- 健康・福祉
- 健康づくりの総合的推進
- 持続可能な介護保険制度の運営
- 介護サービスの充実(介護離職ゼロの実現)
- 持続可能な高齢者医療制度の運営
- 認知症高齢者支援施策の推進
- 人生の最終段階における医療の在り方
- 住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進
- 学習・社会参加
- 学習活動の促進
- 社会参加活動の促進
- 生活環境
- 豊かで安定した住生活の確保
- 高齢社会に適したまちづくりの総合的推進
- 交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護
- 成年後見制度の利用促進
- 研究開発・国際社会への貢献等
- 先進技術の活用及び高齢者向け市場の活性化
- 研究開発等の推進と基盤整備
- 諸外国との知見や課題の共有
- 全ての世代の活躍推進
- 全ての世代の活躍推進
なお、高齢社会対策大綱は、経済社会情勢などの変化を踏まえ、おおむね5年毎の見直しがなされる予定です。
これからの健康・医療戦略2)
日本の政策の1つとして「健康・医療戦略」があります。平成25年(2013年)に「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」閣議決定されたとき、日本の成長実現に向けた3つのアクションプランが掲げられました。
- 日本産業再興プラン
- 戦略市場創造プラン
- 国際展開戦略
日本再興戦略のうち、戦略市場創造プランのテーマの1つが、国民の健康寿命の延長とされました。その後、平成26年(2014年)に旧健康・医療戦略が国の戦略となり、平成29年(2017年)に一部変更がなされました。現在の「健康・医療戦略」の目指すところは「健康長寿社会の実現」です。
日本は世界に先駆けて、超高齢化社会を迎えました。これから先も、日本国民が健康で長生きできる「健康長寿社会」をつくり上げることが、急務となっています。日本には、最先端の医療技術と医療サービスがあります。これらを活用し、健康長寿社会の実現と、日本全体の経済成長も目指す、5つの取り組みがあります。
- 「健康・医療戦略」が目指す、活力ある高齢社会
- 世界最高水準の医療の提供に向けて
- 新しいヘルスケアサービスの発展
- ICTの利活用で、より効率的・効果的に
- 日本の医療サービスを海外にも
世界最高水準の医療の提供に向けて
健康・医療戦略のうち「世界最高水準の医療の提供に向けて」について例を挙げてみます。
日本の基礎研究のレベルは、世界でも高く評価されています。しかし、研究室の中での基礎研究が優れていても、それを医療分野で実用化するためには、さらに多くの研究を行い、効果や安全性を確認しながら、新しい医薬品や医療機器を開発していく必要があります。これにより、革新的な医療技術を生み出し、疾患の克服へとつなげていきます。基礎研究から医療分野での実用化まではとても長い道のりであり、研究者と医療者が双方の理解を深め、同じ目線で研究開発を進める必要があります。これをいかに円滑に、効率良く進めていけるかが国として取り組むべきポイントとなります。
基礎研究の医療分野での実用化を円滑に効率よく進めていくために、2015年に誕生したのが「国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)」です。AMEDでは、医薬品の創出、医療機器の開発、革新的な医療技術の創出、再生医療、ゲノム医療など、医療に関連するさまざまな事業を行っており、日本の医療分野における「研究開発」の中心的存在です。AMEDは、基礎研究から医薬品・医療機器開発の行程を、全面的にサポートしています3)。
日本の健康・医療戦略におけるさまざまな取り組みが健康長寿社会を実現し、日本の経済成長にも寄与することが期待されています。