長寿社会を支える年金・社会保障について
公開日:2019年8月 9日 09時55分
更新日:2023年11月22日 11時05分
日本は世界でも類を見ない早さで少子高齢化が進み、長寿大国となりました。日本人の長寿化の要因の一つに国民皆保険、国民皆年金という公的社会保障制度に支えられてきました。しかし近年は長寿大国ゆえ、現在は2025年問題や2040年問題といった、社会保障制度上の大きな課題を抱えています。
公的年金とは何か1)
公的年金制度とは、加齢・障害・死亡により稼得能力を失ったときに本人または遺族の生活を保障するための社会保険制度です。1961年から始まりました。
公的年金の種類
公的年金は、「老齢基礎年金」「障害基礎年金」「遺族基礎年金」の3種類あります。
老年基礎年金
65歳から亡くなるまで給付が受けられる「終身給付」を受けることができる年金です。
障害基礎年金
加入中、病気やけがなどで一定の障害を負った場合に支給されます。また、20歳前の障害にも対応しています。
遺族基礎年金
年金受給者や被保険者が亡くなったとき、配偶者か原則18歳以下の子が給付を受けられます。
公的年金制度の仕組み
公的年金制度は働くことのできない人を社会全体で支えるという社会的扶養という考えの下で運営されています。そのため公的年金制度の仕組みは、今現在働いている世代(現役世代)が保険料を支払い、それを高齢者などの年金受給者に仕送りのように給付される「賦課(ふか)方式」を採用しています。年金給付金の財源には現役世代が支払う保険料のほかに、年金積立金や税金などがあります。
日本の年金制度は、「国民皆年金」、つまり日本国民であれば全員が対象となる制度です。20歳以上のすべての人が加入する「国民年金」と、会社員などが加入する「厚生年金」があります。「国民年金」の上に「厚生年金」が乗る形になっているため、「2階建て構造」と呼ばれます(図1)。
日本国民は20歳をすぎたらすべてが国民年金の加入者です。国民年金のみに加入している人を第一号被保険者といい、会社員など厚生年金や共済年金に加入している人は、第二号被保険者といいます。専業主婦など「被扶養者」となる人第三号被保険者といいます。
第一号被保険者の人は、自身の保険料(毎月定額)を自分で納めます。第二号被保険者の人は、保険料(毎月定額)を勤務先が保険料の半額を負担して納めます。第三号被保険者は保険料を第二号被保険者全体で負担するため自身で負担することはありません。
保険料を払い続けていれば老後、すべての人が「老年基礎年金」を、厚生年金に加入している人は所得に比例した分を追加して、給付金として受け取ることができます。
なぜ年金制度が必要なのか2)
なぜ年金制度が必要なのでしょうか?
それは「将来、何が起こるか分からない」からです。老後や障害、死亡などのリスクの備えとして個人で貯金などをしていても、その備えが「いつ」「どれだけ」「いつまで」必要なのかはわかりません。すべての人があらゆる事態を想定して十分に備えることは困難です。また、自分だけでなく、加齢や障害により働けなくなった家族を自分の収入だけで支えていくことになります。
年金制度がなかった時代は私的扶養形式が一般的でした。私的扶養とは、高齢者や障害など働くことのできない人を、その子や家族・親族で支えることです。私的扶養は、扶養される親の寿命や健康状態、支える側の子や親族の人数などが世帯によってさまざまであるため、世帯ごとの負担にばらつきがありました。また、私的扶養形式は支える側と支えられる側が近居もしくは同居することで成り立っていましたが、ひとつの世帯に住む人数が多くなるため、広い住宅の少ない都市部やマンションなどでは、実現が難しいという性質もありました。また、産業構造の変化に伴い都市部に若い人が増え、ライフスタイルの変化や核家族化したことも私的扶養形式をさらに難しくしました。
そこで、予測することができない将来のリスクに備え、扶養する人もされる人も安心して自分の生活を送ることができるよう、社会的扶養の考え方をもとに国が制度化したものが公的年金制度なのです。
社会保障制度の概要と将来の見通し
公的年金制度がスタートした頃は、まだ少子高齢化が始まっておらず、1人あたりの社会保障費(年金、医療保険、その他の福祉に必要とされるものの合計)も今とは比べ物にならないほど少ない状態でした。しかし、戦後の高度経済成長期を経て1970年代頃からは、社会保障費が上がり始めます。1970年には1人あたり3.5万円だった社会保障費は、1980年には24.8万円まで上がっています(図2)。
社会保障費が高くなったのには、少子高齢化が影響しています。高齢化が進み高齢者人口が増えると、社会保障費のうちの「年金」が高くなります。また、高齢になるほど医療費も高くなる傾向がありますので、年金は社会保障費全体のなかでも、高い伸び率で推移しています。今後も少子高齢化はさらに進行する見込みですので、社会保障費はさらに高くなると予測されます。このままでは、現在の現役世代もさることながら、私たちの子供世代に多大な負担をかけることになります。
そういった中で日本が抱える問題として、「2025年問題」があります。いわゆる昭和22年(1947年)から昭和24年(1949年)の3年間に生まれた「団塊の世代」が一斉に後期高齢者(75歳)になるという問題です。しかしその先には「2040年問題」があることが分かってきました。
2040年問題とは、高齢者人口がピークを迎え、現役世代1.5人で高齢者1人を支える人口構造になるという問題です。また、就職氷河期と重なった「団塊ジュニア世代」が安定した職を得ることなく高齢となり、団塊ジュニア世代の貧困化が進むとともに、当然ながら社会保障費は現在よりも高くなり、それら支える現役世代の負担もさらに大きくなります。
そこで、我が国では団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年を見据え、今後、国民誰もがより長く元気に活躍できるよう、厚生労働大臣を本部長とする「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」を2018年10月に設置し、以下の取組を進めることになりました(リンク1)。
- 多様な就労・社会参加の環境整備
- 健康寿命の延伸
- 医療・福祉サービスの改革による生産性の向上
- 給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保