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いつも元気、いまも現役(喜劇役者 大村 崑さん)

公開日:2024年7月19日 09時00分
更新日:2024年7月19日 09時00分

おおむらこん氏の写真。

生きているのが不思議です

 ダークブラウンの三つ揃いスーツを着込んだダンディーな"崑ちゃん"の姿を見るのは初めてだ。おなじみの「元気ハツラツ、オロナミンC!」のバッジを胸につけ、ハンカチーフを胸ポケットからのぞかせて、とってもオシャレ。

 張りのある声でしゃべり出したら止まらない。約2時間、身振り手振りで30秒ごとに笑いをとる。昭和30年代から人気者の崑ちゃんは今も元気ハツラツだ。

 「90歳になるとね、生きているのが不思議ですよね。周囲にはそんなにいないんですよ、同世代の人」

日本中のあちこちにあった「オロナミンC」のホーロー看板の写真。今でも昭和レトロを再現した場所でよく見られる.(画像提供:大塚製薬株式会社)。
日本中のあちこちにあった「オロナミンC」のホーロー看板。今でも昭和レトロを再現した場所でよく見られる(画像提供:大塚製薬株式会社)

86歳から始めた筋トレで体を大改造

 大村さんは86歳から体の大改造をした。週2回スポーツジムに6年通っている。「何歳からでも体は変えられるし、体が変われば気持ちまで明るくなる。筋肉は嘘をつかない」

 筋トレはまず40キロのバーベルを背負って10回の「スクワット」を繰り返すのが1セット。これを3セット行う。次に寝たままお腹を膨らませたり引っ込めたりする「ドローイン」。これを15~20回。3つ目が「肩甲骨引き寄せ」。これを15~20回。4つ目が腸腰筋を鍛える「もも上げ」。これは左右それぞれ30回というメニュー。

 筋トレを始めたきっかけは、奥さんの瑤子さんとデパートにジーンズを買いに行ったところ、腹部まわり100センチ近い大村さんに履けるものがなかったこと。

 奥さんの勧めでお試しのつもりで筋トレに臨んだところ、インストラクターから「大村さん、覚えが早いですよ」と誉め言葉をもらい、すっかりはまってしまった。

父の死で一家離散に

 神戸・新開地で生まれ育った。父親は写真館、母親は電気店を営む裕福な家庭の長男だった。しかし、大村さんが9歳のとき、42歳の父親は腸チフスで突然亡くなり、一家はバラバラになった。大村さんは父親の1番上の兄が引き取り、すぐ下の弟は近所の方の養子に、4歳の妹は母親の妹に、乳飲み子の妹は母親が育てることになり、まさに一家離散となった。

 育ての親である伯母は大変厳しい人で、「おばちゃん」と呼ぶと「お母さんやろ!」と平手打ちが飛んできた。その結果、左耳の鼓膜が損傷してしまい、今でもよく聞こえない。もともと大村さんは虚弱児で、弱視で小学2年からメガネをかけていた。

 そして19歳のとき結核となり、左肺を取ってしまった。その時の医師が「おまえ、40歳で死ぬ」と言った。当時の平均寿命は60歳。「肺が2つあって、はじめて60歳まで生きられるんや。1つしかなければマイナス20歳。おまえは40歳までしか生きられへんのや。だから結婚もするな、子どももつくるな」

 「それなら好きな喜劇役者になって大暴れしてやろうやないか」と逆にふっきれた。

人気に火がつくが体はボロボロ

 神戸のキャバレー「新世紀」にボーイとして入り、やがて司会をするようになった。美空ひばりや雪村いづみの司会が縁で当時ラジオで人気の司会者だった大久保怜を紹介されて一番弟子となり、やがて大阪の「北野劇場」の専属コメディアンとなった。

 1958年スタートのテレビ番組『やりくりアパート』が大ヒット。当時はコマーシャルもナマで、「便利な車ミゼット、スマートな車ミゼット、一番小さい車ミゼット......」というのがウケて、子どもたちがまねをした。『番頭はんと丁稚どん』も大人気。大村さんの人気を決定づけたのが1959年から始まる『鞍馬(くらま)天狗』ならぬ『頓馬(とんま)天狗』の主役だ。

 人気が爆発してから11本のレギュラー番組を抱え、1日の睡眠時間は2〜3時間。"片肺飛行"で息切れに悩まされて体はボロボロだった。

喜劇役者は若死にする

 「喜劇役者は若死にするんですよ。藤山寛美は60歳、榎本健一先生は65歳、三波伸介は52歳で亡くなりました。なぜ若死にしたのかというと"怒る"から。僕は35年間、東京にいるマネージャーの足立さんのおかげで怒らなくなりました。一方、尊敬する森繁久彌先生は96歳まで長生きしました。あれだけの役者はもう出ないでしょう」

 「あーりませんか」のギャグで知られる弟子のチャーリー浜は78歳まで生きた。チャーリー浜に大村さんが教えたのが、「下品なネタはするな。シモネタはするな。舞台で弱者をいじめて笑いを取るな」ということ。

 ずり落ちたメガネが大村さんとよく似ていると言われた三木のり平は74歳まで生きた。「東京の兄貴」と慕っていた渥美清は68歳で亡くなった。渥美清は同じく片肺を切除していて、大村さんと一緒にいると、すぐに横に寝そべりながら上手に紅茶を飲み、大阪土産のロールケーキを食べていたという。

 1965年から始まったテレビ番組「日清ちびっこのどじまん」の司会では、ちびっこと崑ちゃんのやり取りが絶妙で人気を博した。ここから後に歌手になったのが天童よしみ、野口五郎、小林幸子、山口百恵などだ。

 長い芸能生活で交友範囲が広く、エピソードそのものが戦後の日本の芸能史にもなっている。

相撲の四股のポーズのスクワットをするおおむら氏の写真。軽そうに見えて実際はなかなかきつい。
相撲の四股のポーズのスクワット。軽そうに見えて実際はなかなかきつい

現役の喜劇役者として今も活躍

 2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』では西郷龍右衛門役で出演し、2023年の映画『SPELL~第一章 呪われたら、終わり/~第二章 呪いは、終わらない』では90歳でダブル主演を果たした。90歳で主演は日本映画で最高齢だという。2023年まで30年続いた『山村美沙サスペンス 赤い霊柩車』では葬儀社の専務役として出演し、山村紅葉とのコミカルな掛け合いが人気を博し、長年愛されたシリーズだった。

 趣味の1つに眼鏡収集がある。福井県鯖江市にあるめがねミュージアムに大村崑コーナーがあり、ここには大村さんが寄贈した美空ひばりや石原裕次郎のメガネが展示してある。どれも本人から直接もらったものばかりだ。

 もう1つに相撲観戦がある。土俵前の席に派手な衣装を着て観戦する崑ちゃんの姿がテレビ中継で映されることはよく知られている。

両耳を引っ張るおおむら氏の写真。育ての親によく耳を引っ張られ出血することもあった。「おかげで耳が福相になったけど」と笑う。
育ての親によく耳を引っ張られ出血することもあった。「おかげで耳が福相になったけど」

満身創痍からよみがえり元気ハツラツ!

 小学2年生で左目が弱視、育ての親にどつかれて耳は難聴、19歳で肺結核になり片肺切除、58歳で大腸がんを患って内視鏡手術、喜劇役者の多忙さと「老い」も加わって不調続きの満身創痍の体になってしまった。それが86歳から始めた筋トレで見事によみがえり、「元気ハツラツ!」を取り戻した。

 もともとお酒は飲まないが、タバコは山本陽子にやめさせられ、好きだった賭け事も結婚を機にぴたりと止めた。

 現在、大阪のマンションに奥さんと一緒に暮らし、2人の息子さんは東京と大阪に住んでいる。喜劇役者の仕事は途切れることなく続けており、体づくりや健康に関する講演などで全国から呼ばれることも多い。

 食事は1日に和食2食で、ブロッコリーや鶏むね肉を好んで食べている。この2つは筋トレをしている人には大人気という。

 「僕は入れ歯が1本もないんです。虫歯も歯槽膿漏もありません」。日本歯科医師会が進めている「8020運動」で表彰されたこともあった。歯磨き1日5回は欠かさず、歯石取りに2か月に1回歯科医に通い続けている。

 「100歳は区切りがよすぎるので、人に聞かれたら102歳まで生きるということにしています。100歳まで喜劇役者を続けて、筋トレしながら102歳で旅立つ予定」という。「筋トレで体の中で時間が逆行している僕には、102歳は現実味のある数字です」

撮影:丹羽 諭

プロフィール

おおむらこん氏の写真。
大村 崑(おおむら こん)
PROFILE
 1931年(昭和6年)11月1日、兵庫県神戸市長田区出身。4人きょうだいの長男として生まれる。神戸市立第一機械工業学校(現・神戸市立科学技術高校)卒業後、神戸のキャバレー「新世紀」のボーイ、司会などを経て、大阪・梅田の「北野劇場」の専属コメディアンとしてデビュー。テレビでは『やりくりアパート』『番頭はんと丁稚どん』『頓馬天狗』で人気役者に。86歳から始めた筋トレで体の大改造を果たし、すっかり若返った。最近も映画『SPELL 第一章 呪われたら、終わり/第二章 呪いは、終わらない』、『お終活 再春!人生ラプソディ』に出演するなど、現役役者を続けている。著書に『崑ちゃん ボクの昭和青春譜』(文藝春秋)、『崑ちゃん90歳 今が一番、健康です!』(青春出版社)など。

※役職・肩書きは取材当時(令和6年4月3日)のもの

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第2号(PDF:3.7MB)(新しいウィンドウが開きます)

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