フレイルと社会参加
公開日:2021年10月29日 10時00分
更新日:2023年7月14日 10時29分
近年、65歳で定年退職をしてもまだまだ元気な高齢者が増えています。高齢者の方からも「働けるだけ働きたい」という声が聞かれますし、地域のボランティア活動などの社会参加をする高齢者もいます。
では、高齢者が社会参加をすることで、健康長寿にはどのような影響があるのでしょうか。
高齢者の社会参加とは何か
「高齢者の社会参加」に定義は研究者によってとらえ方が多様であり統一されていません。また、「社会」の範囲をどのようにとらえるかによって違いがあります。
例えば、「現代社会福祉事典」において、社会活動を「個人の行動のうち、家庭内部の私的領域で行われる私的活動に対して、職場・地域社会その他の社会諸領域で行われ、社会に対して何らかの影響を与える活動」(仲村ら 1992:223)としています。また、「現代エイジング辞典」においては社会的活動を「地域社会を基盤とするインフォーマルな関係のもと、同一の目的に対して集まった人々の自発的な活動一般をさす場合が多い」(浜口晴彦編集代表 1996:190)と述べています。また、奥山は、社会参加(社会参加活動)を「インフォーマルな部門において、家族生活をこえた地域社会を基盤にして、同一の目的を有する人々が自主的に参加し、集団で行っている活動」(奥山 1986:67)1)と定義しています。
社会参加についてとらえ方は多様ですが、人が社会に出て自分以外の人や集団と関わりをもつこととするならば、社会参加は以下のことが考えられます(リンク1参照)。
就労
学生時代から始めて就職することを「社会人になる」と表現することから、就労は社会参加として考えられます。
ボランティア活動
地域における自治会の活動や、地域の子供たちとのふれあい、幼稚園や小学校での読み語りなども、ボランティア活動に含まれます。
自己啓発(趣味・学習・保健)活動
趣味や学習は、他者との関わりを持たないことも有り得ますが、趣味のサークル活動や地域内での勉強会など他の人との交流があるものは、社会参加として考えられます。
リンク6:人生100年時代の働き方、自己啓発や学び直しについて
友人・隣人などとの交流
友人や知人、近隣の住人らとのプライベートでの交流も、自分以外の人との関わりに含まれます。
しかし、これらの社会参加の活動は、受動的に行うのではなく、自らの意思で希望して主体的かつ能動的に行うことに、その意義があります。
高齢者の社会参加の状況
高齢者の就労の状況
内閣府が公表している「平成30年(2018年)版 高齢社会白書」によると、平成29年(2017年)時点において、60歳以上の人が就労している割合は、男性の場合60~64歳の79.1%、65~69歳の54.8%となっており、60歳を過ぎても多くの人が就労していることが分かります。女性についても、60~64歳で53.6%、65~69歳で34.4%が就労しているとなっています。女性は男性と比較すると少ないのですが、それでも60~64歳は2人に1人が、65~69歳は3人に1人が就労していることになります2)(リンク7参照)。
高齢者のボランティア活動の状況
前出の白書によると、全国の60歳以上の男女のうち、およそ30%の人が何らかの形で社会的活動(貢献活動)に参加しています。もっとも参加している人が多いのは「自治会、町内会などの自治組織の活動」で、これに「趣味やスポーツを通じたボランティア・社会奉仕などの活動」が続きます3)(リンク8参照)。
高齢者の自己啓発活動の状況
前出の白書によると、60歳以上の人のうち、およそ40%は何らかの生涯学習(自己啓発活動)に参加しています。内容としては、「趣味的なもの」が最も多く、60歳代、70歳代ともにおよそ25%です。これに「健康・スポーツ」が続きます3)(リンク8参照)。
高齢者が社会参加をする意義
高齢になっても社会参加をすることは、高齢者自身にどのような影響があるのでしょうか。
前出の白書によると、「社会的な活動をしていてよかったこと」には、「新しい友人を得ることができた」「地域に安心して生活するためのつながりができた」と回答した人が、50%を超えています(図1)。
高齢者の社会参加が健康に与える影響
健康で長生きするためには、若い頃からの生活習慣を改善し、生活習慣病を予防することが重要です。また、病気や障害などによる健康の喪失、配偶者や友人など親しい人々との死別による喪失などをきっかけとして、社会とのつながりを失うと、生活不活発になり、食欲低下、栄養の偏り、筋肉量減少・筋力低下などの多様な症状がみられるようになります。このように、加齢により心身が老い衰えた状態をフレイルと言います。フレイルは、社会とのつながりを失うことが最初の入口となり、生活の質を落とすだけでなく、生活範囲やこころの健康、口腔機能、栄養状態、身体機能までもが低下をきたし、ドミノ倒しのように進行、重症化していきます。しかし、早く介入して対策を行うことで元の健常な状態に戻る可能性があります。
フレイル予防には、「運動」「栄養・口腔機能」「社会参加・こころの健康」の3つをバランスよく実践することが大切で、フレイルと社会参加との関連は極めて強く、早期からの予防が求められます。
また、より良い生活習慣のためには、栄養バランスの良い食事と適度な運動が重要であることが知られています。生活習慣病予防のために社会参加は高齢者の健康に寄与するのでしょうか。
高齢者の社会参加が健康に与える影響についての研究が静岡県で行われました。平成24年(2012年)に報告された「静岡県高齢者コホート調査に基づく運動・栄養・社会参加の死亡に対する影響について」という研究です。この研究結果からは、高齢者の死亡率の低下に、社会参加(地域のボランティア活動などを週に2日以上)を行うことが、運動習慣と同じくらい影響していることが分かりました4)。
もちろん、社会参加の内容にもよりますし、地域性もあるのかもしれません。しかし、これまでに行われた国の各省庁による高齢者のさまざまな調査などからも、自らの意思で社会参加をすることで、新しい友人に出会えたり、地域とのつながりができたり、社会貢献によるこころの充実感を得られ生きがいを感じられるなど、心身に良い影響を及ぼすことが考えられます(リンク9参照)。
健康長寿を目指して社会参加
日本は今後も、高齢化がさらに進行してきます。高齢になっても毎日を充実した健康長寿生活を過ごすためにも、就労やボランティア活動、自己啓発(生涯学習)などの社会活動に参加してみてはいかがでしょうか。
リンク10:地域カフェ・コミュニティカフェ・シニアサロンとは
高齢者の活動性を高めるための取組と各種相談窓口について
高齢者の活動性を高めて健康長寿を促すためには、家に閉じこもりがちな高齢者の活動性を上げるための支援や、会話や外出の機会を設ける支援が必要となってきます。会話の頻度では、ひとり暮らしの高齢者で会話する割合が低いことも見受けられ、ひとり暮らしの高齢者が会話の機会を持てるような地域の環境づくりも考えていく必要があるでしょう5)。
国や厚生労働省では生涯現役社会の実現に向けて、高齢者の雇用促進対策を実施しております。その取り組みの中で、全国240カ所のハローワークに「生涯現役支援窓口」を設け、高齢者の再就職などを支援しています(リンク16参照)。
また、ボランティアについての相談窓口は、各都道府県・市町村の社会福祉協議会にあります(リンク17参照)。
また、自己啓発(生涯学習)については都道府県や指定都市に、「生涯学習推進センターまたは社会教育センターがあり、生涯学習に関するさまざまな情報が入手できます(リンク18参照)。
参考文献
- 奥山正司(1986)「高齢者の社会参加とコミュニティづくり」『社会老年学』24、67-82.
- 平山朋ら:静岡県高齢者コホート調査に基づく,運動・栄養・社会参加の死亡に対する影響について.東海公衆衛生学会学術大会講演集(東海公衆衛生学会講演集)2012年;58:50
- 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット 1人暮らしによる健康リスクは人のつながりにより緩和される
フレイルとは何?サルコペニアとは何?
フレイルとサルコペニアの概要、原因、評価方法、予防方法などについて国立長寿医療研究センター理事長 荒井 秀典 先生に解説いただきました。本動画は第32回日本老年学会総会「成熟社会への課題~高齢者は幸せになったか~」の市民公開講座にて公開された動画です。
長寿科学研究業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」について
長寿科学研究業績集は学術的研究成果の中で、社会のニーズにあったテーマを医療等従事者向けに編集した研究マニュアルです。各関係機関に活用いただくことで研究成果の普及啓発を図かっております。
令和2年度長寿科学研究業績集は「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(令和3年3月発刊)と題し、著名な先生方にご解説いただきました。
公益財団法人長寿科学振興財団のホームページで長寿科学研究業績集をご覧いただけます。