健康長寿ネット

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フレイルの治療

公開日:2021年10月29日 10時00分
更新日:2023年7月28日 14時29分

フレイルの治療法

 フレイルの主な原因にサルコペニアと低栄養があげられます。サルコペニア対策には骨格筋の形成・維持に必要なタンパク質を十分に摂取する必要があります。特に骨格筋の基となり、タンパク質の合成を促し、分解を抑制して筋肉の形成を促す必須アミノ酸のロイシンが注目されています。

 レジスタンス運動も筋肉でのタンパク合成を促します。筋肉をつくるために最も効果的なのはレジスタンス運動の約1時間後にアミノ酸を摂取することであると言われています1)

 レジスタンス運動とアミノ酸摂取とを組み合わせた治療効果の有効性を検証する研究は日本や海外でも多く行われており、アミノ酸を経口補給することで歩行能力や筋力の向上に有効という報告2)や、ロイシンが多く含まれたアミノ酸サプリメントと運動を組み合わせた介入試験で筋力増強、筋肉量や歩行速度の強化に有効3)であることが示されています。

 筋肉をつくるためにタンパク質の合成を促すには十分なエネルギー摂取も必要です。フレイル対策には筋肉の他に骨の維持も重要であり、カルシウムやビタミンDも積極に摂りたい栄養素です。

 フレイル対策は、筋肉や骨をつくるための栄養素を食事から摂取することと、レジスタンス運動を行って筋肉の合成や骨密度の維持を図ることが重要です。

※ レジスタンス運動:
筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動1)

フレイルの進行を改善する方法

 フレイルは多面的な要因が絡み合っているため、目立って表に見えている一つの症状だけで判断するのでは、全体に起こっている問題を捉えきれない恐れがあります。身体機能、認知機能、バランス機能、生活活動、精神面、栄養状態、周囲の環境など、色々な角度から対象者を捉え、総合的な機能評価を実施し、対象者を総合的に把握することが大切です。総合的な対象者の評価には、高齢者総合機能評価(CGA)が推奨されます。

 CGAの実施で、現状の判断と今後の方針が立てられると、疾患の管理や具体的な生活での支援・介助を行うことができます。必要に応じて、専門医による診察、栄養士による栄養指導、理学療法士・作業療法士によるリハビリテーション、薬剤師による服薬指導、看護師による訪問看護、ヘルパーによる訪問介護など、他職種との連携によって予防を意識した包括的なケアを行うことが大切です。

高齢者自身で改善できる方法

バランスの良い食事

 フレイル対策には、規則正しく、バランスの良い食事を摂ることを心掛けましょう。

  • 1日の適切なエネルギー量の食事を1日3回に分けて摂ること
  • 主食、主菜(肉・魚・卵・大豆製品)、副菜(野菜・キノコ・海藻類)、牛乳・乳製品、果物をバランスよく摂ること
  • 筋肉の素となるタンパク質(肉・魚・大豆製品)と骨を強くするカルシウム(牛乳・乳製品・小魚)を含む食品を積極的に摂ること
  • 十分な水分を摂ること
表1-1:推定エネルギー必要量(男性)(kcal/日)3)
身体活動レベルⅠ(低い)Ⅱ(普通)Ⅲ(高い)
50~64歳 2,200 2,600 2,950
65~74歳 2,050 2,400 2,750
75歳以上 1,800 2,100
表1-2:推定エネルギー必要量(女性)(kcal/日)3)
身体活動レベルⅠ(低い)Ⅱ(普通)Ⅲ(高い)
50~64歳 1,650 1,950 2,250
65~74歳 1,550 1,850 2,100
75歳以上 1,400 1,650
※身体活動レベル:
  • Ⅰ(低い):生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合。(75歳以上は、自宅にいてほとんど外出しない者、また、高齢者施設で自立に近い状態で過ごしている者にも適用できる値である。)
  • Ⅱ(普通):座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事・軽いスポーツ等のいずれかを含む場合。(75歳以上は、自立している者に相当する。)
  • Ⅲ(高い):移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣をもっている場合
表2-1:身体活動レベル別たんぱく質の目標摂取量(男性)(g/日)3)
身体活動レベルⅠ(低い)Ⅱ(普通)Ⅲ(高い)
50~64(歳) 77~110 91~130 103~148
65~74(歳) 77~103 90~120 103~138
75以上(歳) 68~90 79~105
表2-2:身体活動レベル別たんぱく質の目標摂取量(女性)(g/日)3)
身体活動レベルⅠ(低い)Ⅱ(普通)Ⅲ(高い)
50~64(歳) 58~83 68~98 79~113
65~74(歳) 58~78 69~93 79~105
75以上(歳) 53~70 62~83

おすすめのレジスタンス運動

 自分の体重を抵抗として行えるレジスタンス運動は自宅で簡単に行うことができます。

スクワット4)(図1)

図1:おすすめのレジスタンス運動のスクワットの仕方を説明するイラスト
図1:スクワット
  1. 両足を肩幅に開いて立ち、椅子の背や机などを持ちます。
  2. 背中が丸くなったり、踵が浮いたりしないように、お尻を下にまっすぐ落とします。
  3. 太腿の前に力が入っていることを意識しながらゆっくり10回行います。

上体起こし4)(図2)

図2:おすすめのレジスタンス運動の上体起こしの仕方を説明するイラスト
図2:上体起こし
  1. 両膝を立てて仰向けに寝ます。両手は頭の後ろで組みます。
  2. おへそを覗き込むように頭を持ち上げます。
  3. お腹に力が入っていることを意識しながら、ゆっくり10回繰り返します。

ランジ4)(図3)

図3:おすすめのレジスタンス運動のランジの仕方を説明するイラスト
図3:ランジ
  1. 片足を前に出し、膝を曲げて体重をかけていきます。
  2. 1の状態からゆっくり元に戻します。足を入れ替えて交互に10回行います。

文献

  1. レジスタンス運動 e-ヘルスネット情報提供(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 「「日本人の食事摂取基準(2015年度)」策定検討会審議会資料 対象特性:高齢者 3-3-5.たんぱく質並びにアミノ酸の介入研究 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 平成27年度 老人保健健康増進事業等補助金老人保健健康増進等事業 口腔機能・栄養・運動・社会参加を総合化した複合型健康増進プログラムを用いての新たな健康づくり市民サポーター養成研修マニュアルの考案(地域サロンを活用したモデル構築)を目的とした研究事業 事業実施報告書 平成28年3月東京大学 高齢社会総合研究機構主任研究者 飯島勝矢(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

フレイルとは何?サルコペニアとは何?

 フレイルとサルコペニアの概要、原因、評価方法、予防方法などについて国立長寿医療研究センター理事長 荒井 秀典 先生に解説いただきました。本動画は第32回日本老年学会総会「成熟社会への課題~高齢者は幸せになったか~」の市民公開講座にて公開された動画です。

長寿科学研究業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」について

 長寿科学研究業績集は学術的研究成果の中で、社会のニーズにあったテーマを医療等従事者向けに編集した研究マニュアルです。各関係機関に活用いただくことで研究成果の普及啓発を図かっております。

 令和2年度長寿科学研究業績集は「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(令和3年3月発刊)と題し、著名な先生方にご解説いただきました。

 公益財団法人長寿科学振興財団のホームページで長寿科学研究業績集をご覧いただけます。

業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(財団ホームページ)(新しいウインドウが開きます)

画像:令和2年度長寿科学研究業績集の表紙画像

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