フレイルが重症化しないための生活習慣
公開日:2021年10月29日 10時00分
更新日:2023年7月14日 10時25分
フレイルの予防にはバランスの良い食事と適度な運動が基本となりますが、食事の摂り方、運動の行い方を工夫することでフレイルが重症化することを防ぐできます。
孤食よりも共食
日本の65歳以上の家族形態はグラフおよび表1が示すとおり、平成27年(2015年)時点、65歳以上の高齢者は3465万8千人であり、そのうち、一人暮らし世帯は624万3千世帯となっており、年々増加傾向にあります1)。
65歳以上の者 | 単独世帯 | |
---|---|---|
昭和61年 (1986年) |
12,626 | 1,281 |
平成元年 (1989年) |
14,239 | 1,592 |
平成4年 (1992年) |
15,986 | 1,865 |
平成7年 (1995年) |
17,449 | 2,199 |
平成10年 (1998年) |
20,620 | 2,724 |
平成13年 (2001年) |
23,073 | 3,179 |
平成16年 (2004年) |
25,424 | 3,730 |
平成19年 (2007年) |
27,584 | 4,326 |
平成22年 (2010年) |
29,768 | 5,018 |
平成25年 (2013年) |
32,394 | 5,730 |
平成26年 (2014年) |
34,326 | 5,959 |
平成27年 (2015年) |
34,658 | 6,243 |
一人暮らしの高齢者は、一人で食事を摂る孤食となりがちです。孤食では食事の品数も減り、食べる食材も偏りがちとなります。食欲が低下すると食べる量も減り、低栄養状態に陥りやすくなります。
一方、家族や友人と一緒に食事を摂る(共食)と、コミュニケーションをとりながら食事ができ、「楽しく食べられて食欲が高まる」、「品数も増えて多様な食材を食べられる」ことにつながり、低栄養(リンク1、2参照)になることを避けることができます2)。
積極的に友人や家族、地域の人などと共食の機会をつくり、低栄養を防いで心身の健康維持を保ちましょう。
口腔機能のケア
加齢とともに噛むことや飲み込むことなど、口腔機能が低下すると、硬い食材が食べられなくなったり、むせたりすることがみられます。
歯や歯茎が弱くなり、噛む機能が低下すると、肉や繊維質の野菜など、硬めの食材が食べにくくなります。柔らかいものばかりを選んで食べていると、ますます噛む機能が低下して食事の質が低下してしまいます。
定期的に歯科検診を受けて口腔機能の低下を予防すること、噛みごたえのある食材を選んで良く噛んで食べることを意識し、食事の質を維持するようにしましょう。
飲み込みに関する筋肉の筋力低下が起こると、飲み込む機能が低下して食べたものや飲んだものが気管に入り、ムセたり、詰まったりする誤嚥を起こすこともあります。特にお餅やこんにゃくゼリーなどを喉に詰まらせると、死亡原因ともなり大変危険です。
オーラルフレイル
噛む機能や飲み込む機能、そして滑舌が低下してきたり、食べこぼしが増えてくるなど、口腔機能がささいなレベルで色々と低下してきた状態を「オーラルフレイル」という概念で報告されております3)。オーラルフレイルは東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授らによって提唱され、より早期から口腔機能の機能を維持向上させることが重要とされております。
定期的に歯科検診を受けて口腔機能の低下を予防すること、噛みごたえのある食材を選んで良く噛んで食べることを意識し、食事の質を維持するようにしましょう。
口腔機能維持のためのケア方法
ムセがみられたら、口腔機能の維持のために「口腔の体操」(図1)や「唾液を出しやすくするマッサージ」(図2)、「歌を歌う」、「早口言葉を言う」、「友人や家族とおしゃべりする」、「姿勢を正して顎を引き、良く噛んで食べる」ことを行って、口腔機能をケアしましょう。2)
唾液腺マッサージ
唾液腺マッサージは唾液を出しやすくマッサージです。
耳下腺マッサージ
親指以外の4本を耳の下に当てて、後ろから前へと押さえながら回します。
舌下腺マッサージ
両手の手の平を合わせるような形にして、両手の親指で顎の下を突き上げるように押します。
顎下腺マッサージ
親指以外の4本の指の腹で、耳の下から顎にかけて、押さえながら移動していきます。
日常生活に運動の要素を取入れる
厚生労働省は「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」(リンク3参照)として、今より10分多く体を動かすプラス・テンの呼びかけを行っています5)。
日常生活にプラス運動となると、運動習慣のない人にとってはなかなか実行することが難しく、実行したとしても長続きしないこともあるでしょう。しかし、日常生活そのものに運動の要素を取り入れることでプラス10分の運動も達成することができます。
例えば、「出かける時はなるべく徒歩で出かける」、「階段を積極的に上り下りしてみる」ことや、「テレビを見ながら足の運動をしてみる」、「家族や友人に会いに行ったり、催し物に行ったりなど、外に出掛けるきっかけをつくる」ことなどを行い、運動する時間を増やしていきましょう。
歩く時は、お尻と背筋を伸ばして腕を振り、歩幅を大きくして少し速く歩いてみましょう。身体をしっかり伸ばして大きく足を動かすと、全身の筋肉を効率よく使うことができます。
社会活動に参加する
高齢者は加齢による身体的な衰えに加えて、定年退職、収入の低下、子供の独立、親しい人との死別など、社会的な役割の変化が訪れます。社会的地位や親としての役割、家族や友人を喪失する経験は、気力や活気を失うきっかけともなります。
社会とのつながりを持つことが億劫となり、家に閉じこもりがちとなると、生活面や精神面など他の側面までもが低下をきたし、図の3のようにドミノ倒しのようにフレイルが進行、重症化していきます2)。
自分が得意なこと、できることを見つけて地域のボランティアなどに社会参加することは、生きがい、やりがいを見出すことや社会的な役割を再び取り戻して自信をつけることにもつながります。社会的な活動は活気や気力も湧き、いきいきと生活することで心も体も元気になります(リンク4参照)。
参考文献
フレイルとは何?サルコペニアとは何?
フレイルとサルコペニアの概要、原因、評価方法、予防方法などについて国立長寿医療研究センター理事長 荒井 秀典 先生に解説いただきました。本動画は第32回日本老年学会総会「成熟社会への課題~高齢者は幸せになったか~」の市民公開講座にて公開された動画です。
長寿科学研究業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」について
長寿科学研究業績集は学術的研究成果の中で、社会のニーズにあったテーマを医療等従事者向けに編集した研究マニュアルです。各関係機関に活用いただくことで研究成果の普及啓発を図かっております。
令和2年度長寿科学研究業績集は「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(令和3年3月発刊)と題し、著名な先生方にご解説いただきました。
公益財団法人長寿科学振興財団のホームページで長寿科学研究業績集をご覧いただけます。