フレイルの原因
公開日:2021年10月29日 10時00分
更新日:2023年7月14日 10時12分
フレイルと低栄養
高齢化が進む日本で、75歳以上の後期高齢者が要介護状態となる原因に、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)や転倒、サルコペニア※1、尿失禁らと並んでフレイルがあげられます。フレイルとフレイルの原因でもあるサルコペニアは低栄養との関連が強く1)、厚生労働省は平成28年7月20日、「平成28年度のモデル事業について 高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進(フレイル対策)」の中で、高齢期の疾病予防・介護予防等の推進として、フレイルに対するモデル事業の概要を示しています。
具体的な事業内容としては、低栄養、過体重に対する栄養相談や指導、摂食等の口腔機能低下に関する相談や指導、外出困難者への訪問歯科健診、服用する薬が多い場合の服薬相談や指導など、高齢者の課題に応じ、地域包括支援センター、保健センター、訪問看護ステーション、診療所・病院、歯科医院、薬局などから管理栄養士や歯科衛生士、薬剤師、保健師等が相談や訪問指導を実施します(図1)。
フレイル対策が重視されるのは、フレイルが要介護状態になる危険が高い状態であると同時に、適切な介入や支援を行うことで健康を維持して、自立した生活を送れる状態でもあるからです。
- ※1 サルコペニア:
- サルコペニアとは、加齢に伴う筋力の減少、又は老化に伴う筋肉量の減少のことを指します
フレイルの原因
フレイルは、以下のような加齢に伴う心身の変化と社会的、環境的な要因が合わさることにより起こります。
- 加齢に伴う活動量の低下と社会交流機会の減少
- 身体機能の低下(歩行スピードの低下)
- 筋力の低下
- 認知機能の低下
- 易疲労性※2や活力の低下
- 慢性的な管理が必要な疾患(呼吸器病、心血管疾患、抑うつ症状、貧血)にかかっていること
- 体重減少
- 低栄養
- 収入・教育歴・家族構成など
- ※2 易疲労性:
- 易疲労性とは、すぐに疲れてしまうこと、疲れやすいこと
フレイルの進行
加齢に伴う変化や慢性的な疾患によってサルコペニアとなり、筋肉量・筋力の減少によって基礎代謝量が低下すると、1日のエネルギー消費量が減って、食欲が低下し、食事の摂取量が減少して低栄養となります。
また、サルコペニアは、筋力の低下、易疲労性や活力の低下を引き起こし、身体機能の低下につながります。認知機能の低下など精神的な面の低下も加わると、活動量が低下し、社会的な側面も障害され、日常生活に支障をきたすようになります。
日常生活に介護が必要な状態となるとますますエネルギー消費量は低下し、食事量が低下して低栄養となる悪循環を繰り返しながら、フレイルは進行していきます(図2)。
フレイルは、低栄養、転倒を繰り返すこと、嚥下・摂食機能の低下などの身体的側面と、認知機能の低下や意欲や判断力の低下、抑うつなどの精神的側面、家に閉じこもりがちとなって他者との交流の機会が減少する社会的側面とが相互に影響し合っており、身体的・精神的・社会的な多側面に総合的に働きかける必要があります(図3)。
中高年者では過栄養、肥満からなるメタボリックシンドロームが糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を引き起こし、死亡リスクを高くするため、生活習慣病の予防が大切となりますが、後期高齢者ではフレイルの原因となる身体機能や認知機能の低下に関連する低栄養への対策が重要となってきます。
厚生労働省は、メタボ対策からフレイル対応への円滑な移行が必要3)としており、生活習慣病の予防よりも生活習慣病の重症化の予防とフレイルの進行の予防が重要視されています。
参考文献
フレイルとは何?サルコペニアとは何?
フレイルとサルコペニアの概要、原因、評価方法、予防方法などについて国立長寿医療研究センター理事長 荒井 秀典 先生に解説いただきました。本動画は第32回日本老年学会総会「成熟社会への課題~高齢者は幸せになったか~」の市民公開講座にて公開された動画です。
長寿科学研究業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」について
長寿科学研究業績集は学術的研究成果の中で、社会のニーズにあったテーマを医療等従事者向けに編集した研究マニュアルです。各関係機関に活用いただくことで研究成果の普及啓発を図かっております。
令和2年度長寿科学研究業績集は「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(令和3年3月発刊)と題し、著名な先生方にご解説いただきました。
公益財団法人長寿科学振興財団のホームページで長寿科学研究業績集をご覧いただけます。