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派遣報告書(林慧茹)

派遣者氏名

林 慧茹(りん ほぇいるー)

所属機関・職名

京都大学大学院医学研究科・研究員

専門分野

医療経済学

参加した国際学会等名称

35th International Conference in Healthcare Quality & Safety

学会主催団体名

International Society for Quality in Health Care (ISQua)

開催地

マレーシア クアラルンプール

開催期間

2018年9月23日から2018年9月26日まで(4日間)

発表役割

ポスター発表

発表題目

Predicting mortality based on the database combining health and long-term care: An indicator of quality in community integrated care systems

医療と介護のデータベースを用いた死亡予測:地域包括ケアシステムにおける評価指標に向けて

発表の概要

目的

 本研究は、介護サービス受けた地域在住高齢者を対象とし、介護と医療データベースを用いて死亡予測モデルを作成し、アウトカム指標を作成することを目的とする。

方法

 2010年10月から2011年9月の間に、介護サービスを利用した65歳以上の利用者を対象とした。2011年10月から2014年9月末までを追跡期間とした。まずは対象者の医療レセプトを用いて、2010年10月から2011年9月までの既往症と、2011年10月に新たに診断された疾患を拾い、死亡を予測目的としたRandomForestを行った。その際、死亡に関して重要性が高い疾患を同定した。さらにKaplan-Meier生存分析で死亡日数の分析を行った。そして、対象者の死亡有無を目的変数とし、性、年齢、ベースライン要介護度、登録期間中入院日数と、登録月前一年間既往症、追跡期間中に新たに診断された疾患、介護サービス利用状況などを説明変数とするCox回帰分析を行った。

結果

 本研究の全体平均追跡期間は959日、2011年10月に新たに疾患を診断された対象者は696日であった。男性、高齢、高い要介護度、2011年10月以降に3週間以上介護施設を利用した、登録月前の一年間入院日数が長いことは、死亡と有意に関連していたことが分かった。一人暮らしであることは、死亡に対して統計的有意にはならなかった。急性心筋梗塞および大腿骨折以外、登録月前の一年間既往症はすべて死亡に正の関連を示した。その中で、死亡との関連はがんが最も大きく、順に腎不全、糖尿病、肺炎、心疾患、誤嚥性肺炎、認知症と続いた。登録月前の一年間で手術を受けたことは、死亡とマイナスの関連を示した。

 登録月に新たに診断された疾患について、肺がんのハザード比が最も高く、次に肝臓がん、胃・S状結腸・直腸がん、誤嚥性肺炎、脳梗塞と続いた。既往症の場合も、新たに診断された場合も、がんは死亡に最も強い関連を示した。モデルのC統計量は0.7より高値であった。

 男性、高齢、高い要介護度、2011年10月以降に3週間以上施設サービスを利用した、登録月前の1年間入院日数が長い、がんについての既往歴と新たに診断された疾患があるということが、死亡に関連が高いことが分かった。

考察

 この研究により、介護利用者における高精度の死亡予測モデルが作成された。この予測モデルを活用することにより、各地域のリスク調整死亡率の計算ができるようになる。これは地域包括ケアシステムの評価に有用なアウトカム指標の一つとなる可能性がある。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 学会開催の初日に、マレーシアのSultan Dr. Nazrin Muizzuddin Shahが現場にいらっしゃっり、スピーチを発表しました。

 今回第35回国際医療の質学会は80ヶ国、千人以上が参加しました。国際医療の質学会には私が今まで参加しました他の学会より、もっと臨床現場に近づいている発表が多く提示されました。発表者も学術研究者以外、病院や関連組織の人間が多いと感じます。現場に実際に直面する問題から生まれた問題解決の研究は普段あまり見られる機会がありませんので、大変興味深い知見を得ることができました。

 各国参加者と意見交換をすることができ、また、実際に各国の医療現場や研究の現状を知ることができた、大変楽しく有意義な時間であった。

平成30年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:林慧茹1

平成30年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:林慧茹2平成30年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:林慧茹3

質疑応答内容

  1. 実際に病院などでの応用はありますか?
    • 現時点また実際に応用まだありませんが、データ数が多いので、一般化可能性が高いと思っております。
  2. どうやってどの病気をモデルに投入するのかを決めましたか?
    • データベースの中に存在した全部の診断を拾って、そしてRandomForestで各変数と死亡予測の重要度をランキングして、上位の病気だけモデルに投入しました。
  3. この研究の続き(Future Research)は何でしょうか?
    • 今回の研究は一都道府県だけの資料でモデルを作成しました。これからこのモデルを基づく、全国に拡大版の死亡予測結果を算出する予定です。そして全国地域ごと(都道府県、二次医療圏別)の死亡予測率を算出し、地域格差を可視化でき、政策に提言できるように行う予定です。
  4. 違うデータベースを連結するときの困難点は?
    • 日本の保険制度(介護保険、国民健康保険、後期高齢者保険)から得られるレセプトデータには、個人を特定するいわゆるセキュリティーナンバーが適応されないため、個人を経年的に、完全には追ったり、データベース間で完全に一致させることはできません。さらに提供されたデータは番号等も匿名化されているため、この制限の中でできる限りの追跡的に結合させた解析を行いました。 このように日本でのデータ解析は難しく、多少のずれが生じることは否定できませんが、今回の研究の枠組みでは大きな影響はないと考えています。

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか

 この一都道府県のモデルを基づいて、全国レベルのデータを分析し、全国市町村および二次医療圏レベルで介護利用者死亡率の要因構造を明らかにする。それらを地域ごとの調整した死亡率を算出できるため、地域ごとの介護サービス利用者の死亡率格差を可視化できる。政策的には、死亡予防のための実行計画を立てることが可能となり、施策の効果を具体的に検討できるようになる。