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派遣報告書(原田万祐子)

派遣者氏名

原田 万祐子(はらだ まゆこ)

所属機関・職名

新潟大学大学院医歯学総合研究科・大学院生

専門分野

内分泌代謝学分野

参加した国際学会等名称

54th Annual Meeting of the European Association for the Study of Diabetes

学会主催団体名

European Association for the Study of Diabetes

開催地

ドイツ ベルリン

開催期間

2018年10月1日から2018年10月5日まで(5日間)

発表役割

口頭発表

発表題目

Effects of Treatment-Achieved HbA1c on the Incidence of Micro-/Macrovascular Complications in Patients with Diabetes Mellitus

糖尿病治療薬別にみたHbA1cと細小血管合併症/大血管合併症発症リスクとの関連

発表の概要

目的

 薬物療法なし、インスリン、スルホニル尿素薬、インスリン・スルホニル尿素薬・グリニド以外の糖尿病治療薬別に、HbA1c値と冠動脈疾患発症の関連を検討した。

方法

 健康保険レセプトデータベースの分析より、2008年から2013年に健診を受け、心疾患の既往のない18-72歳の糖尿病患者14,237名を抽出し、その後の重症虚血性心疾患、糖尿病関連重症視力障害の発症への影響を検討した。糖尿病治療内容から、非薬物治療群、インスリン治療群、スルホニル尿素薬治療群、インスリン・スルホニル尿素薬・グリニド以外の薬物治療群に分類し、各群をHbA1c値で3群(≤7.0%、7.1-8.0、>8.0)に分け、各群のHbA1c≤7.0%群、非糖尿病治療群に対する冠動脈疾患発症のハザード比を多変量Cox回帰分析で検討した。

結果

 追跡期間(中央値)5.2年に248人が虚血性心疾患を発症し、366人が重症視力障害を発症した。非薬物治療群では、HbA1c値の上昇に伴い冠動脈疾患発症リスクが上昇する傾向がみられたが、スルホニル尿素薬治療群、グリニド・スルホニル尿素薬・インスリン以外の薬物治療群ではその傾向はなかった。スルホニル尿素薬群やインスリン群では、7.1-8.0%群の冠動脈疾患発症リスクが最も低く、7%以下の群において、リスクがより低下する傾向はなかった。大血管合併症とは異なり、重症視力障害発症リスクは治療法に関わらず、HbA1c値と強く関連していた。しかしながら、スルホニル尿素薬群やインスリン群では、7%以下と7.1-8.0%の重症視力障害発症リスクは変わらなかった。

考察

 細小症血管合併症予防の観点において、治療によって至適のHbA1c値が異なる可能性が示唆された。さらに細小血管合併症/大血管合併症発症において、スルホニル尿素薬やインスリンといった低血糖を来たしうる治療方法では、治療によるHbA1c値の下限にも注意を払う必要があることが示唆された。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 臨床研究においてRCTと比較した観察研究の注意点として、注意点と可能性について活発に議論されており、今後の研究の参考となった。当発表に対して、細小血管合併症におけるUKPDSの結果との比較、グリニド・スルホニル尿素薬・インスリン以外の薬物治療群において、薬剤別の評価について質疑を受けた。前者については、HbA1c値の上昇に伴い、重症視力障害の合併症が増加する点については、UKPDSと結果は同じであるが、あくまで観察研究の結果であることを説明し、後者については、今回グリニド・スルホニル尿素薬・インスリン以外の薬物治療群において、詳細な薬剤別の検討はしておらず、今後の課題とすると応えた。

平成30年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:原田万祐子

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか

 本研究で、糖尿病患者において、予防したい合併症や受けている治療によって至適のHbA1c値が異なる可能性が示唆された。日常診療に還元させるエビデンスになる可能性があり、オーダーメイド治療の重要性を確認できた。また、今後、長寿科学分野における、医療ビッグデータの活用の一例として有用性が期待できる。