第19回国際シンポジウム「デジタルヘルス:健康・医療・福祉をつなぐ」開催報告
公開月:2025年3月
1.長寿医療研究センター国際シンポジウム
長寿医療研究センター国際シンポジウム(International Symposium on Geriatrics and Gerontology, ISGG)は、2004年に我が国における6番目のナショナルセンタ一としてあらたな活動を開始した国立長寿医療研究センター(National Center for Geriatrics and Gerontology,NCGG)において、長寿医療の発展と普及を促進し、老化のメカニズムならびに老化関係疾患の病態解明と治療薬開発に関する新しい情報を発信することを目的に開催されている。毎年NCGGが主催し、公益財団法人長寿科学振興財団(The Japan Foundation for Aging and Health)が共催、多くの企業、団体のご後援を得て、センター内からの発表に加え、当該領域を代表する国内外の著名な研究者ならびに医療関係者を招聘し、広く参加者を求め、定例開催を継続している。2024年11月30日に開催した今回のシンポジウムで、開催は19回を重ね、その評価も定着しつつあるが、今後ますます国際的にも関心の高まる超高齢社会における健康長寿の延伸に向けたさらなる発展をめざすものである。
2.第19回国際シンポジウム開催のねらい
日本は2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり4人に1人が後期高齢者となる。高齢化する社会での医療・介護・福祉は、従来の資源や提供体制だけでは対応できない喫緊の課題である。これらは日本のみならず、今後世界が直面していく全世界的な課題である。近年はデジタルヘルスツールの進歩がめざましく、遠隔医療からAIを活用した診断に至るまで、高齢者ケアへのアプローチに革命をもたらしている。第19回国際シンポジウムでは、これらのデジタルヘルスケアが、高齢者のケアと生活向上のあり方をどのように再構築できるかを探るべく、この領域の世界の英知を結集して、その最新情報を国内外に広く発信することを目的として企画した(タイトル:Digital Healthcare:Bridging Health,Medicine and Welfare.)。
セッション1では、政府や自治体が目指しているヘルスケア政策や取組みの紹介を2名の演者にご登壇いただきご発表いただいた。
セッション2は、Googleの慈善事業部門であるGoogle.orgの支援を受け、長寿科学振興財団が研究助成する、高齢者のデジタルデバイド解消、多世代型地域コミュニティーの強化等の実現に取り組む「高齢社会課題解決研究および社会実装活動への助成」における3つの研究プロジェクトを3名の演者にご発表いただいた。
ランチョンセミナーでは、大学病院と政府のデータ作成・活用推進に関する取組みを概観し、医療ビッグデータ管理成功のための困難と実践的な解決策についてご発表いただいた。
セッション3では、デジタルヘルスケアとビッグデータに関する社会制度と臨床への展開を諸外国での事例を中心に、4名の演者にご発表いただいた。
セッション4では、デジタルヘルスを用いた医療・介護・福祉に関する先進的な研究・取組みについて、3名の研究者に登壇して頂いた。
基調講演では、日本における医療デジタル技術開発の現状と今後の展望についてご講演いただいた。
全体で14人の演者(海外からは4名)にご発表をいただいた。
3.開催概要
催事名
第19回長寿医療研究センター国際シンポジウム
The 19th International Symposium on Geriatrics and Gerontology
テーマ
Digital Healthcare:Bridging Health,Medicine and Welfare
「デジタルヘルス:健康・医療・福祉をつなぐ」
開催日時
2024年11月30日(土)10:00~17:15
開催場所
名古屋コンベンションホール
(愛知県名古屋市中村区平池町4-60-12グローバルゲート)
主催
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
共催
公益財団法人長寿科学振興財団
後援
一般社団法人日本老年医学会、一般社団法人日本認知症学会、一般社団法人日本神経学会、一般社団法人日本神経科学学会、一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学病院、愛知医科大学、三重大学、国立大学法人浜松医科大学、国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター、厚生労働省、経済産業省、愛知県、名古屋市、大府市、東浦町、朝日新聞社、毎日新聞社、読売新聞社、東海テレビ放送、中京テレビ放送(株)、CBCテレビ、メ~テレ、テレビ愛知、中日新聞社、知多メディアスネットワーク株式会社
使用言語
午前/日本語、午後/英語(同時通訳あり)
座長・講演者
海外4名、国内はNCGGの3名を含めた10名、合計14名
参加人数
- 会場 104名
- オンライン視聴人数 日本語LIVE:364名、英語LIVE:64名(延人数)
総括
第19回国際シンポジウムはオンサイトとYoutube Live配信のハイブリッドで行い、会場参加者は104名、Youtube Live配信視聴者は日本語配信364名、英語配信64名、総合計は532名であり、過去の開催と比較し、より多くの方にご参加いただき、デジタルヘルスケアに対する多くの関心があることが伺えた。
セッション1では「日本のヘルスケア政策」について、産業政策的観点からの健康増進に資する施策を経済産業省ヘルスケア産業課 橋本泰輔課長に、当センターも参加しているあいちデジタルヘルスプロジェクトの取組みについて、愛知県経済産業局 柴山政明顧問にご紹介いただいた。健康寿命の延伸と生活の質の維持・向上は産官学連携が必要不可欠であり、今後も連携を図りながら、貢献していきたい。
セッション2ではセッション名を「ICTドリブンの健康長寿社会」と称して、Googleの慈善事業部門であるGoogle.orgの支援を受け、長寿科学振興財団が研究助成する、高齢者のデジタルデバイド解消プロジェクトの中間報告会をいただいた。急速に進む高齢化と社会のデジタル化に伴い、デジタルソリューションの恩恵を受けられる層と受けられない層の情報格差は問題視されている。特に高齢者のデジタルデバイトは、長年にわたり議論されてきた課題である。このような課題を解決するための、本プロジェクトは、高齢者の社会参加や生活の質を向上させための社会的な重要な研究であり、今後の研究の更なる進展と展開が期待された。
ランチョンセミナーでは、京都大学医学部附属病院 黒田知宏先生に医療ビッグデータの収集と活用の方法を実践的にご講義いただいた。医療ビッグデータは、医療AIを始めとしたデジタルヘルス技術の開発や疫学研究に不可欠であるが、現場の医療従事者や患者からの反発は多い現状である。ご講義いただいた手法を各機関が実践することで、今後更なる医療ビッグデータの収集を利活用が進められるよう期待したい。
セッション3では、デジタルヘルスケアとビッグデータに関する社会制度と臨床・福祉・介護への展開を、諸外国での事例を中心にご紹介いただいた。
Jarmo Reponen先生からご紹介いただいたフィンランドの全国的な医療情報交換・データリポジトリシステム「KANTA」や日本の科学的介護情報システム「LIFE」、ビッグデータ解析とAIを活用した臨床・予防への展開、シンガポールにおけるプライマリーケアから3次医療まで、単一の電子カルテシステムを用いた慢性疾患管理とリスク予測のため仕組みなど、デジタルヘルスケアとビッグデータの統合、社会システムへの展開など、各国の先進的な取組みが活発に議論された。
セッション4では、ウェアラブルデバイスで収集した生活ログデータを用いたフレイルの判別や、仮想空間や触覚デバイスを用いた主観的な健康感の指標を探索する研究、アプリケーションを用いたパーソナライズされた転倒予防プログラムの研究などがご報告された。デジタルソリューションの発展により従来の老年学研究が拡張され、予防医療の充実、健康寿命延伸に繋がることに期待したい。
基調講演では、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム」で統合型ヘルスケアの事業のプログラムディレクターをされている自治医科大学学長 永井良三先生に、健康寿命を延伸するために、我々がどのようにデジタル技術を活用するか、統合型ヘルスケアの事業にて日本が今後目指す医療提供についてご講演いただいた。ビッグデータと医療AIの発達により、生活習慣病や高齢者の治療やケアが大きく変化しつつある中、AIを使う我々もデータ科学に通じる必要があり、医療者は若い世代を教育する務めがあるが、これからはその仲間にAIが含まれるようになり、我々にとってAIの教育も重要な時代になったことを考えなければならない。
以上のように、第19回国際シンポジウムでは、世界の老年医学の研究者、デジタルヘルス、医療ビッグデータの研究者との交流が可能となり、NCGGの研究・臨床活動の活性化に貢献することができた。
さいごに、公益財団法人長寿科学振興財団(The Japan Foundation for Aging and Health)様のご共催、Google合同会社様の多大なるご支援をいただき、多くの企業、団体のご後援、また、センター内外からのご発表者、ご参加の皆様に深く御礼申し上げます。
(国立長寿医療研究センター研究所長 櫻井 孝)
シンポジウムの詳細な内容については以下のPDFをご確認ください。
長寿科学研究普及事業 国際シンポジウムについて
本事業の詳細については以下のページをご覧ください。