第18回国際シンポジウム「高齢者の嚥下と排泄の障害」開催報告
公開月:2023年9月
1.長寿医療研究センター国際シンポジウム
長寿医療研究センター国際シンポジウム(International Symposium on Geriatrics and Gerontology, ISGG)は、2004年に我が国における6番目のナショナルセンタ一としてあらたな活動を開始した国立長寿医療研究センター(National Center for Geriatrics and Gerontology, NCGG)において、長寿医療の発展と普及を促進し、老化のメカニズムならびに老化関係疾患の病態解明と治療薬開発に関する新しい情報を発信することを目的に開催されている。毎年NCGGが主催し、公益財団法人長寿科学振興財団(The Japan Foundation for Aging and Health)が共催、多くの企業、団体のご後援を得て、センター内からの発表に加え、当該領域を代表する国内外の著名な研究者ならびに医療関係者を招聘し、広く参加者を求め、定例開催を継続している。2023年6月13日に開催した今回のシンポジウムで、開催は18回を重ね、その評価も定着しつつあるが、今後ますます国際的にも関心の高まる超高齢社会における健康長寿の延伸に向けたさらなる発展をめざすものである。
2.第18回国際シンポジウム開催のねらい
第18回国際シンポジウムでは、国立長寿医療研究センターが高齢者の生活上喫緊の課題である食事・栄養・排泄の問題を扱うべく、2022年度に摂食嚥下・排泄センター設立したことを受け、この領域の世界の英知を結集して、その最新情報を国内外に広く発信することを目的として企画した(タイトル:Dysphagia and Excretory Disorder of Older Adults)。
75歳以上の高齢者人口の20~30%がフレイルであると言われており、年齢が上がるにつれてその割合は増加する。フレイルは、高齢者特有の病気のリスクの増加、他者への依存、長期入院、死亡率の増加など、一般に高齢者の生活に影響を及ぼす深刻な結果につながる。フレイルを引き起こす要因は完全には解明されていないが、最も可能性が高いのはサルコペニアと栄養障害であるとされている。高齢者の嚥下障害の観点から見ると、これら2つの要因は原因と結果の両方である可能性があり、オーラルフレイルはこの集団における嚥下障害の性質を理解する上で最も重要な側面となるため、セッション1では、オーラルフレイルに関わる5名の研究者、セッション2では、栄養障害と食思不振に関する3名の研究者に登壇して頂いた。
一方で、人間は社会的動物であり、周囲から喜びをもたらす活動、家庭内での役割の確保、社会への参加がサルコペニア予防の前提となるが、ICFにおける環境的要因と個人的要因のポジティブな方向性による活動の量と多様性の増加が必須であり、WHOが提唱するintrinsic factorの向上により、それが期待される。WHOは、さらに高齢者のintrinsic factorの6つの側面の低下を管理することを推奨しているが、尿失禁などの排泄障害もその一つであり、社会活動に重大な影響を及ぼすと考えられる。このためセッション3では、主に排尿障害について、4題の発表がなされた。全体で女性5名を含む12人の演者(海外からは5名)に発表をお願いした。
第18回国際シンポジウムはInternational Association of Gerontology and Geriatrics , Asia Oceania Regional Congress(IAGG-AOR)と併催させていただいた。COVID-19の蔓延により、多くの国際学会がweb開催になっていたが、今回はオンサイトでの参加となったため、face to faceでの情報交換が可能となり、またIAGG-AORとの併催により、多数の海外からの聴衆があったため、真の意味での国際的なシンポジウムとった。
以上のように、第18回国際シンポジウムでは、世界の最先端の摂食嚥下、栄養および排泄に関わる研究者との交流が可能となり、国立長寿医療研究センターの研究・臨床活動の活性化に貢献した。
3.開催概要
催事名
第18回長寿医療研究センター国際シンポジウム
The 18th International Symposium on Geriatrics and Gerontology
テーマ
Dysphagia and Excretory Disorder of Older Adults
「高齢者の嚥下と排泄の障害」
開催日時
2023年6月13日(火)9:50~17:45
開催場所
パシフィコ横浜 ノース
(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
主催
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
共催
公益財団法人長寿科学振興財団
協賛
日本老年学会
後援
一般社団法人日本認知症学会、一般社団法人日本神経学会、一般社団法人日本神経科学学会、一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会、一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会、一般社団法人日本排尿機能学会、日本老年泌尿器科学会、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学病院、愛知医科大学、三重大学、国立大学法人浜松医科大学、国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学、厚生労働省、愛知県、名古屋市、大府市、東浦町、神奈川県、横浜市健康福祉局、朝日新聞社、株式会社毎日新聞社 中部本社、読売新聞社、東海テレビ放送株式会社、中京テレビ放送株式会社、株式会社CBCテレビ、テレビ愛知株式会社、中日新聞社
使用言語
英語
座長・講演者
海外6名、国内はNCGGの4名を含めた10名、合計16名
参加人数
220名(会場における対面式)
総括
第18回国際シンポジウムはオンサイトで行なわれ、参加者の合計は220名であった。その内訳は、当センターからの参加者が33名、当センター以外の国内参加者が71名、国外からの参加者が116人と非常に盛況であった。特に国外からの参加者は、IAGG-AORとの併催を行ったためと考えられ、今後も国際学会との併催の可能性を探っても良いのではないかと考えられた。
セッション1は「嚥下障害とオーラルフレイル」について、栄養管理、苦痛の少ない筋強化はオーラルフレイルに止まらずフレイル全般でも検討して行かなければならない課題であり、オーラルフレイルの疫学、またコミュニティアプローチは、両者の病態に取り組んで行くため必須であり、今後の研究およびその結果の社会実装に非常に有益であると考えられた。老食症(presbyphagia)の概念は、非常に新鮮であり、今後の研究の展開が期待された。
セッション2では、栄養障害と摂食障害の知見が報告された。オーラルフレイルの領域のパイオニアである前田圭介先生の非常に整理されたこの概念の総括、高齢者の栄養障害の特徴とその帰結に関する葛谷雅文のお話、さらにWen-Yuan, Lin先生からサルコペニアと肥満はいずれも高齢者の大きな健康に影響を与えることが示されましたが、ただまだサルコペニア肥満(SO)には統一された定義がないため、アジアでの診断基準が必要であるとされた。
セッション3では、認知症予防を研究にとどめるのではなく社会実装する試みについて、豪州、日本から4題の発表がなされた。NCGGでは多くの実証研究が進行しているが、得られた知見を研究コホートだけではなく社会実装することはNCGGの重要なミッションである。社会実装は単に参加者の人数を増やすことではない。実装科学のマナーを学び実践することで、持続性のある社会貢献が進められるよう期待したい。
以上のように、第18回国際シンポジウムでは、世界の老年医学の研究者との交流が可能となり、NCGGの研究・臨床活動の活性化に貢献することができた。さいごに、公益財団法人長寿科学振興財団(The Japan Foundation for Aging and Health)様のご共催、多くの企業、団体のご後援、また、センター内外からのご発表者、ご参加の皆様に深く御礼申し上げます。
(国立長寿医療研究センター 病院長 近藤 和泉)
シンポジウムの詳細な内容については以下のPDFをご確認ください。
長寿科学研究普及事業 国際シンポジウムについて
本事業の詳細については以下のページをご覧ください。