第4章 栄養 3.骨粗鬆症と栄養
公開月:2020年5月
女子栄養大学 栄養生理学研究室 教授
上西 一弘
1:はじめに
骨粗鬆症は骨強度の低下を特徴として、骨折のリスクが高まった状態と定義されている。ここで、骨強度とは骨密度と骨質からなり、骨密度が70%程度、骨質が30%程度寄与していると想定されている。骨粗鬆症には、遺伝、体格などの要因とともに、食事、運動などの生活習慣が大きく影響する。ここでは、骨粗鬆症と食事・栄養の関係について考えてみたい。
2:一般的な栄養指導
1.適切な体重の維持
骨粗鬆症では、他の疾患の合併症などがない限りは、特に制限する栄養素などはなく、一般的な栄養指導が基本となる。低体重は骨粗鬆症のリスクになることから、特に体重減少がないかを確認することは重要である。日本人の食事摂取基準でも、エネルギー摂取量が適切かどうかを評価するために、食事調査からのエネルギー摂取量(どれだけ食べていると考えられるか)よりも、エネルギー摂取量とエネルギー消費量のバランスの結果としての体重変化を用いるようになってきている。現在の日本人の食事摂取基準2020年版1)では、望ましいBMIの範囲として、65歳以上では21.5-24.9kg/m2という値が示されている(表1)。したがって、BMIが21.5を下回らないようにすること、すでに下回っている場合には、それ以上減少させないこと、できれば21.5に近づく、あるいはそれ以上に体重を増やすことが望まれる。
年齢階級(歳) | BMI(kg/m2) |
---|---|
18―49 | 18.5―24.9 |
50―64 | 20.0―24.9 |
65―74 | 21.5―24.9 |
75以上 | 21.5―24.9 |
2.バランスの良い食事
前述した「日本人の食事摂取基準」は、健康寿命の延伸を目指して、健康の保持・増進、生活習慣病の発症予防、重症化予防を目標に、エネルギーや各種の栄養素をどれだけ摂取すれば良いかを示したガイドラインであり、最新の2020年版では、高齢者の低栄養、フレイル予防も視野に入れている。ここで重要になるのは、いわゆるバランスの良い食事である。
「バランスの良い食事」という言葉はよく用いられるが、その捉え方は様々である。厚生労働省と農林水産省からは、「食事バランスガイド」が発表されている(図1)2)。これは主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物を摂取する目安を1日単位で示したものである。特に外食の多い人では利用しやすい。
自分で調理を行う人にとっては、食品単位でのバランスを示した食品群別摂取の指針、例えば「四群点数法」なども利用できる(表2)3)。四群点数法は食品をその特徴から4つの群に分けて、それぞれの群から、どれくらい摂取すればよいかの目安を示したものである。
目標点数 | 食品 | 食品 | |
---|---|---|---|
第1群 | 3点 | 卵 | 1点 |
第1群 | 3点 | 乳・乳製品 | 2点 |
第2群 | 3点 | 魚介・肉・その他加工品 | 2点 |
第2群 | 3点 | 豆・豆製品 | 1点 |
第3群 | 3点 | 野菜※ | 1点 |
第3群 | 3点 | 芋 | 1点 |
第3群 | 3点 | くだもの | 1点 |
第4群 | 11点 | 穀類 | 9点 |
第4群 | 11点 | 油脂 | 1.5点 |
第4群 | 11点 | 砂糖 | 0.5点 |
1点=80㎉、1日20点、1600㎉の場合
※緑黄色野菜120g以上と淡色野菜を合わせて350g以上
最近は、「食品の多様性スコア」もよく用いられる。これは特に高齢者を対象に、10の食品、食品群を示し、これらをできるだけ毎日摂取するように勧めるものであり、その得点(摂取した食品群の合計、0から10点の間となる)と各種の健康度との関係について多くの報告がある4)。この食品群を覚えるための言葉が、「さあ、にぎやかにいただく」というもので、東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取の多様性スコアを構成する10の食品群の頭文字をとったもので、ロコモチャレンジ!推進協議会が考案した合言葉である。
- 『さあ にぎやかにいただく』
- さ 魚
あ 油
に 肉
ぎ 牛乳・乳製品
や 野菜
か 海藻
(に)
い 芋
た 卵
だ 大豆・大豆製品
く 果物
10の食品群を毎日摂るように心がける
図2 さあ、にぎやかにいただく
「さあ、にぎやかにいただく」は、東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取の多様性スコアを構成する10の食品群の頭文字をとったもので、ロコモ チャレンジ! 推進協議会が考案した合言葉です。
四群点数法、食品の多様性スコアのいずれにしろ、毎回、毎日の食事をすべてバランス良くしなければならないということではなく、1週間単位くらいを目安に、できるだけ多くの種類の食品を摂取するように心がけることが、習慣的に継続していくために重要である。
3.たんぱく質
エネルギー摂取量とバランスの良い食事を意識したうえで、次に考慮すべき栄養素としてたんぱく質がある。特に成長期の最適な骨量増加、最大骨量の獲得のためには、適切なたんぱく質摂取が不可欠である。また、成人期以降の加齢に伴う骨量の維持にも関与している。たんぱく質摂取が不足すると筋肉の強度が失われ、転倒のリスクが高まり、骨折した患者の回復も不十分になる。
たんぱく質の供給源は動物性の食品としては、赤身の肉類、鳥肉、魚類、卵、牛乳・乳製品がある。植物性の食品としては、豆・豆製品、大豆・大豆製品、穀物、ナッツ、種子類などがあり、特に大豆はアミノ酸組成が良く、動物性の食品に劣らない良質のたんぱく源となる。米や小麦のたんぱく質は必須アミノ酸であるリジンが少ないという特徴を持つが、他のたんぱく質源と組み合わせて摂取することで補われる。
3:骨粗鬆症に特化した栄養指導
前述した一般的な栄養指導を基本に、骨粗鬆症に特化した栄養素の摂取を考える。具体的には骨密度の観点からはカルシウム、ビタミンD、ビタミンK、骨質の観点からはB群ビタミン、ビタミンCの摂取が重要である。
1.カルシウム
日本人のカルシウム摂取量は少なく、しかも過去50年近くにわたり増加は見られず、近年はむしろ減少傾向にすらある(図3)。日本人の食事摂取基準2020年版では表3のような値が推奨量として示されている1)。一方、骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでは表4のような値が示されている5)。いずれにしろ現在の摂取量よりも高い値であり、カルシウム摂取量を増やすことが重要である。牛乳・乳製品はカルシウム含量が多く、その吸収率も高いことが報告されており、手軽に摂取できることからも摂取がすすめられる。その他、骨まで食べることのできる小魚類、緑黄色野菜、大豆・大豆製品もカルシウムの供給源として有用である。
性別 | 男性 | 男性 | 男性 | 男性 | 女性 | 女性 | 女性 | 女性 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年齢等 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 | 耐容上限量 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 | 耐容上限量 |
0~5(月) | ― | ― | 200 | ― | ― | ― | 200 | ― |
6~11(月) | ― | ― | 250 | ― | ― | ― | 250 | ― |
1~2(歳) | 350 | 450 | ― | ― | 350 | 400 | ― | ― |
3~5(歳) | 500 | 600 | ― | ― | 450 | 550 | ― | ― |
6~7(歳) | 500 | 600 | ― | ― | 450 | 550 | ― | ― |
8~9(歳) | 550 | 650 | ― | ― | 600 | 750 | ― | ― |
10~11(歳) | 600 | 700 | ― | ― | 600 | 750 | ― | ― |
12~14(歳) | 850 | 1,000 | ― | ― | 700 | 800 | ― | ― |
15~17(歳) | 650 | 800 | ― | ― | 550 | 650 | ― | ― |
18~29(歳) | 650 | 800 | ― | 2,500 | 550 | 650 | ― | 2,500 |
30~49(歳) | 600 | 750 | ― | 2,500 | 550 | 650 | ― | 2,500 |
50~64(歳) | 600 | 750 | ― | 2,500 | 550 | 650 | ― | 2,500 |
65~74(歳) | 600 | 750 | ― | 2,500 | 550 | 650 | ― | 2,500 |
75以上(歳) | 600 | 750 | ― | 2,500 | 500 | 600 | ― | 2,500 |
妊婦(付加量) | ― | ― | ― | ― | ||||
授乳婦(付加量) | ― | ― | ― | ― |
カルシウムは、骨組織の主要な構成要素であるため、骨粗鬆症の予防、治療に特に重要である。骨には、体内のカルシウムの約99%が存在している。骨のカルシウムは、健康な神経機能や筋肉の収縮などの様々な生理機能に不可欠な血液中のカルシウム濃度を維持するためのリザーバーとしても機能している。すなわち骨はカルシウムの貯蔵庫の働きをしている。
カルシウムの必要量は、ライフステージによって変化する。カルシウムの必要量は、骨格が急速に成長する10代の頃、思春期前半に多くなる。表5は日本人の食事摂取基準で示されている、性別、年齢階級別のカルシウム蓄積量である。また、年齢とともに、消化管からのカルシウムの吸収率は低下する。すなわち、高齢者では、カルシウムの平衡を維持するために、より多くの量を必要とすることになる。
年齢 | 1―2 | 3―5 | 6―7 | 8―9 | 10―11 | 12―14 | 15―17 | 18―29 | 30―49 | 50―64 | 65―74 | 70以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 99 | 114 | 99 | 103 | 134 | 242 | 151 | 38 | 0 | 0 | 0 | 0 |
女性 | 96 | 99 | 86 | 135 | 171 | 178 | 89 | 33 | 0 | 0 | 0 | 0 |
2.ビタミンD
ビタミンDは消化管からのカルシウム吸収を促進し、骨代謝にも関与することから骨の健康に重要な栄養素である。
ビタミンDは非常にユニークな栄養素である。すなわち、その供給源が2つあるという点である。食品として経口摂取されるとともに、紫外線に当たることで皮膚で生合成される。このビタミンDの栄養状態は血中の25(OH)D濃度で評価できるが、適度な日照(紫外線)曝露があれば、皮膚での生合成量の寄与が大きいと考えられている。なお、日本の国土は南北に長く、北海道と沖縄では紫外線の強さが異なる。表6は5.5㎍のビタミンDを産生するために必要な日照曝露時間を札幌、つくば、那覇という3地点で推定した結果である6)。これを見ると夏期は問題は少ないが、冬期の札幌では日照曝露による生合成はほとんど期待できないことになる。
日本人の食事摂取基準2020年版では、ビタミンDは目安量として表7の値が示されている。この場合の目安量は骨折の予防を視野に入れた値であり、日照暴露によって皮膚で生成される量も考慮されている。しかし、前述したように、冬季の札幌のように日照暴露によって皮膚で生成される量ができない場合もあり、積極的なビタミンD摂取が望まれる。
性別 | 男性 | 男性 | 女性 | 女性 |
---|---|---|---|---|
年齢等 | 目安量 | 耐容上限量 | 目安量 | 耐容上限量 |
0~5(月) | 5.0 | 25 | 5.0 | 25 |
6~11(月) | 5.0 | 25 | 5.0 | 25 |
1~2(歳) | 3.0 | 20 | 3.5 | 20 |
3~5(歳) | 3.5 | 30 | 4.0 | 30 |
6~7(歳) | 4.5 | 30 | 5.0 | 30 |
8~9(歳) | 5.0 | 40 | 6.0 | 40 |
10~11(歳) | 6.5 | 60 | 8.0 | 60 |
12~14(歳) | 8.0 | 80 | 9.5 | 80 |
15~17(歳) | 9.0 | 90 | 8.5 | 90 |
18~29(歳) | 8.5 | 100 | 8.5 | 100 |
30~49(歳) | 8.5 | 100 | 8.5 | 100 |
50~64(歳) | 8.5 | 100 | 8.5 | 100 |
65~74(歳) | 8.5 | 100 | 8.5 | 100 |
75以上(歳) | 8.5 | 100 | 8.5 | 100 |
妊婦 | 8.5 | ― | ||
授乳婦 | 8.5 | ― |
※日照により皮膚でビタミンDが産生されることを踏まえ、フレイル予防を図る者はもとより、全年齢区分を通じて、日常生活において可能な範囲内での適度な日照を心がけるとともに、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である。
ビタミンDの栄養状態は、血清25(OH)D濃度によって評価することができる。最近の報告では日本人のビタミンD栄養状態が悪いことが報告されてきている。Tamakiらは日本の7地域の15-79歳の女性4,550人を対象に行われたJPOSコホート研究の参加者のうち、50歳以上で、43歳以下では閉経していない、または骨、骨格筋に影響を与える疾患に罹患しておらず、15年以上のフォローアップが可能であった1,211例(64±8.2歳;平均±S.D.)について、ベースライン調査時における血清25(OH)D濃度を4群に分類(<10、10-20、20-30、30≦ ng/mL)し報告している7)。図4はその結果を示したもので、ビタミンD不足とみなされる人が38%、ビタミンD欠乏とみなされる人が52%存在している。
食品からのビタミンDは、その供給源が限られており、日本人では魚類が最も良い供給源となる。とくにサケに多く含まれる。そのほかの食品では天日干しされたきのこ類に多く含まれる。
3.ビタミンK
ビタミンKはオステオカルシンのグラ化に関わる栄養素である。ビタミンKは納豆に多く含まれている。納豆の原料である大豆にはほとんど含まれていないことからわかるように、納豆菌による発酵によって生成される。
日本人の食事摂取基準2020年版ではビタミンKは目安量として成人では150㎍/日という値が示されている。この値は、ビタミンKのもっとも良い供給源である納豆を摂取しなくても摂取できる量として設定されている。また、この値は正常な血液凝固を目的としたものであり、骨の健康を目的とした値ではない。
骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでは1日250-300㎍/日という値が推奨されている。
4.B群ビタミン、ビタミンC
B群ビタミン、ビタミンCは主に骨質の観点から骨の健康に重要な栄養素と考えることができる。B群ビタミンの中でもビタミンB6、ビタミンB12、葉酸はホモシステインを介して骨の健康に関わると考えられている。これらのビタミンの供給源となる野菜や果物の摂取がすすめられる。
5.その他 ビタミンA
ビタミンAと骨の健康に関しては、摂取不足は骨折のリスクを高めるが、一方で過剰摂取も骨折リスクを高める可能性が示唆されている。ビタミンAは大きく分けると動物性のレチノールと、植物性のカロテノイドに分けることができるが、カロテノイドの場合には過剰の心配はないと考えられている。
カロテノイドの1種であるβクリプトキサンチンと骨の健康について関心が高まって来ている。βクリプトキサンチンを多く含むミカンが、骨の健康に関与するということで栄養機能性食品として販売されている。
4:まとめ 栄養素から食品へ
ここまでは、骨の健康に関わる栄養素について紹介してきた。しかし私たちは栄養素を摂取するわけではなく、これらの栄養素を含む食品を摂取している。したがって実際の食生活では栄養素ではなく、どのような食品を摂取すれば良いかが大切である。先に紹介した四群点数法や食品摂取の多様性スコアを参考に、たんぱく質源となる、肉類、魚類、卵などはもちろん、カルシウム源となる牛乳・乳製品、ビタミンDの供給源でもある魚類、さらには野菜や果物の摂取を心がけることが重要である。
文献
プロフィール
- 上西 一弘(うえにし かずひろ)
- 女子栄養大学 栄養生理学研究室 教授
- 最終学歴
- 1986年 徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了 管理栄養士、博士(栄養学)
- 主な職歴
- 1987年 雪印乳業生物化学研究所 1991年 女子栄養大学助手 2006年 女子栄養大学栄養生理学研究室教授 現在に至る
- 専門分野
- 栄養生理学、カルシウムの吸収・利用に関する研究
※筆者の所属・役職は執筆当時のもの
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