第3章 食事,摂食・嚥下 2.住民、専門職(栄養士)、多職種連携 ―様々な形による高齢者の食に対する取り組み事例を中心に―
公開月:2020年5月
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 研究員
成田 美紀
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 研究部長
北村 明彦
1:はじめに
高齢になっても住み慣れた地域で安心して生活を送るためには、医療・介護・福祉サービスを包括的に提供し、地域での見守りや支え合いの他、専門多職種による連携を深め、高齢者の暮らしを支えていくことが必要になる。
医療施設におけるチーム医療は、医学の進歩や高齢化の進行に加え、患者の社会的・心理的観点および生活への十分な配慮も求められていることから、専門職種の積極的な活用や、多職種協働を図ること等によって医療の質を高め、効率的な医療サービスを提供することを目的としている。厚生労働省は2010年3月に「チーム医療の推進について」と題する報告書を上げ1)、現在では高齢者特有の慢性疾患に関する多職種連携も始まっている。また、医療依存度が高くとも、住み慣れた地域で安心して生活を送るためには、在宅医療を普及し介護と連携して、患者や家族に寄り添った医療・介護を推進していく必要があることから、医療・介護の多職種連携も盛んに行われている。2015年からの介護予防・日常生活総合支援事業の導入により、高齢者の日常生活を支えるための多職種連携が活発に議論され、地域における多職種連携はここ数年で急速に増えてきた。このように、多職種連携に関するテーマは時代を追って多彩になっている。その中で、高齢者自身(医療施設では患者、介護施設では利用者、地域では住民)もチームの重要な一員であり、参画するという価値観も、多職種連携において求められるようになってきている。
本稿では、多職種連携の類型および課題について整理し、高齢者の健康や食に関する支援における多職種連携、中でも専門職種として栄養士が関与している事例を紹介する。
2:多職種連携の類型と課題
1.多職種連携の類型
多職種連携についての研究は、ケア・マネジメントの分野において多く行われており、多職種連携は主に三つに類型化されている2)。
1)Multidisciplinary team model(多職種参加型)
アセスメント、ケアプラン作成、ケア提供などを個別に実施する。例として、病院の医療チームが挙げられる。患者の治療という共有された目的を達成するために、医師の指示により、各専門職種の課題を果たしていく。人命に関わる危機的状況や時間的制約のもとで活動する場合に適する。
2)Interdisciplinary team model(多職種連携型)
他の専門職とのコミュニケーションに重点が置かれ、アセスメント、ケアプラン、ケア提供による協働・連携が行われる。例として、在宅サービスを提供するチームが挙げられる。時間的制約のもとでの活動が少なく、一人から指示を受ける必要も少ない。様々な専門領域の概念、方法、データを単に調整するだけではなく、統合することが課題となる。在宅生活をする人のニーズが多様であり、チームが解決すべき課題が一人一人異なる上に複雑であることを反映している。
3)Transdisciplinary team model(超職種型)
多職種による協働・連携に加え、「role release:役割解放」と呼ばれる意図的な専門職種間の役割の横断的共有の概念を含む。例として、ホームヘルパーだけではなく、相談業務を行うソーシャルワーカーや訪問看護師が家事援助を行うことが挙げられる。資源が少なく、必要な支援を十分に行えない場合に、代理して援助を行う。
2.多職種連携における課題
多職種連携における課題として、第一に、職種による価値観の違いが挙げられる。価値観の違いについて、何が大切と思っているかを共有し認め合うことが必要である。第二に、職種による用語や言葉の違いが挙げられる。職種間で伝えるための共通言語をつくる、もしくは用語の解釈の違いを確認する必要がある。第三に、行う内容について職域の重複が生じる場合が挙げられる。この点については、職種間をどのようにつなぐかを整理する必要がある。これらの課題を解決するために、多職種が一同に会して話し合う場の設定、状況・情報を共有するためのツール開発、職種ごとの役割を振り分けるための連携パスなどが必要となる。
3:事例
高齢者の食に対する取り組み事例は多岐にわたるため、本稿では在宅・療養・臨床の三つの観点から見た、近年始められた高齢者の健康や食に関する支援に向けた多職種連携の取り組み事例に絞って紹介する。
1.在宅高齢者の観点からみた支援
在宅高齢者の健康や食に関する支援に向けた多職種連携の取り組み事例を表1に示す。
事業・プロジェクト | 目標 | 関わる職種 | 対象 | 実施場所と内容 | 共有化のためのツールや連携パス | 評価方法 |
---|---|---|---|---|---|---|
1)おおたフレイル予防事業(東京都大田区) | フレイル予防 | ・行政、町会・自治会、シニアクラブ、民生委員、事業所(スーパー、フィットネスクラブ、社会福祉法人)等で構成 ・行政(大田区)、研究所の専門職(医師、健康運動指導士、栄養士、臨床心理士)が支援 |
モデル3地区(嶺町地区、田園調布地区、糀谷地区)の住民 | 地区内でリーディング・イベントを定期的に実施 ・「ポール・ウォーク」+「さあにぎやかにいただく」の普及・実践活動 |
・協議体「コミュニティ会議」を設立し、協議後、イベント実施 ・フレイル予防普及・実践活動のためのツール⇒ポスター、パンフレット、チェック表など ・ICT ツール(チャレンジスクワット)導入 |
フレイルチェックリスト(CL15)で、フレイルおよび3要素(運動・栄養・社会参加)を評価 |
2)兵庫県養父市、埼玉シルバー人材連合(いきいき埼玉) | フレイル予防 | ・行政、研究所の専門職(指南書の作成と担い手研修の担当)、シルバー人材センター、担い手(シルバー人材センター会員) | 地域住民 | 市内の各地区に出張し教室運営 | ・サポーター研修で技術を習得 ・教室では紙芝居、お助けボード、指南書使用 |
フレイルチェックリスト(CL15)で、フレイルおよび3要素(運動・栄養・社会参加)を評価 |
3)ドラッグストアを起点とした健康無関心層へのアプローチと就労機会創出によるフレイル対策(サンキュードラッグ) | フレイル予防 | ・専門職(薬剤師や管理栄養士など)、シニアボランティア ・行政、研究所の専門職(医師、管理栄養士など)、企業が支援 |
薬局店頭での高齢者全員 | ・薬局で週1回フレイル対策プログラム(健康体操講座、昼食会、脳トレ講座)を実施 ・デイリーワークの実施チェックと励まし(管理栄養士によるサポート) ・自宅での毎日の取り組み |
・フレイルチェック表 ・運動&脳トレ&栄養のデイリーワーク提供とチェックリスト ・医療・介護への地域医療連携パスあり |
数値改善の確認や行動変容(健康測定・フレイル・認知機能、脂質) |
4)歯と食からはじめる健康寿命延伸プロジェクト(兵庫県) | フレイル予防 | ・歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士等の専門職、配食事業者等 ・県や市町はプログラム導入するための体制整備を実施 |
地域高齢者 | 兵庫県内の市町における通いの場やサロンなど | ・フレイル概念(資料) ・口腔機能、栄養状態評価票 ・関係団体一覧 ・プログラム参画配食事業者一覧 ・媒体(共食含む) ・地域包括支援センター・介護予防主管課・健康増進主管課と通いの場でのフレイル予防プログラムとの連携パスあり |
身体状況の変化、口腔・栄養状態の変化 |
5)多職種協働による食支援プロジェクト(東京大学) | ①フレイル予防 ②要介護状態にある患者のケアおよび治療 |
・専門職(医師、歯科医師、栄養士、言語聴覚師など)、行政・自治体、住民 | モデル2地区 ①東村山市:配食サービス利用者 ②西東京市:通所サービス利用者 |
①地域のコミュニティスペースで定期的な食事会開催 ②デイサービス |
①食支援サポーターの養成 ②簡易スクリーニングツール(KTBC)使用、食支援パスの構築 |
・フレイルまたは要介護状態にある患者のケアおよび治療による状態の改善 ・生活の質(QOL)の充実 |
1)おおたフレイル予防事業
東京都大田区は、東京都健康長寿医療センター研究所との共同事業として、フレイル予防のための大規模介入「元気シニア・プロジェクト」を2016年度から2018年度までの3年間実施した3)。フレイル予防を地域で展開するにあたり、地域特性の異なるモデル地区を3地区設定し、行政、町会・自治会、シニアクラブ、民生委員、事業所など多職種で構成される協議体「コミュニティ会議」を各地区で設立し、地域における課題を共有した。また、行政(大田区)と東京都健康長寿医療センター研究所の専門職(医師、健康運動指導士、栄養士、臨床心理士等)がその進行を支援した。実施内容として、運動面はポール・ウォーク、栄養面は食品摂取の多様性を高めることの普及・実践活動を行った(図1)。研究所の専門職が、利用者に簡便で継続使用が可能な普及啓発ツールとして、ポスター、パンフレット、チェック表などの作成(大田区ホームページよりダウンロード可能)4)や、地区間での取り組み状況が可視化できるICTツール「スクワット・チャレンジ」を開発した。地区別に定期的に会議を開き、議論を重ねた結果、スーパーと連動し店舗でのレシピ設置や総菜・弁当の販売、手作りのおにぎり・味噌汁・甘酒を用意して梅を鑑賞、ウォーキングを行った後に弁当を用意して会食、など地区の要望に沿った形での展開が可能となり、利用した住民が自然と食品摂取の多様性を高めることができるような仕組みを創出している。その内容と成果を住民にわかりやすい形で還元できるよう、区報にフレイル特集号を掲載している5)。
2)兵庫県養父市、埼玉県シルバー人材センター連合
兵庫県養父市では、高齢になっても歩いて通える徒歩圏域ごとに、運動・栄養・社会面に働きかける週1回のフレイル予防教室(集いの場)を創ることを目標とし、2014年より取り組みが行われている。フレイル教室を運営する担い手が不足しているという課題を解決するために、シルバー人材センターの養成講座で「フレイル予防プログラム」を学び、講座を修了したシルバー人材センター会員が各地に出張し、仕事として一定期間教室を運営することを特長としている(図2)。フレイル予防教室の内容の統一化は、会員が教室開催に際して内容をセリフで読み上げることができるテキスト(指南書)とツール(紙芝居、お助けボード)を東京都健康長寿医療センター研究所の専門職(医師、看護師、健康運動指導士、栄養士、臨床心理士など)が協働して開発し6)、養成講座の担当を担った。2014年から3年間のプロセスおよびアウトカム評価を行った結果、シルバー人材センターが一定期間教室を運営後も、住民主体による週1回の活動が96.2%の拠点で継続され、傾向スコアマッチング後のフレイルの有病率は、非参加群では2012年から5年間で13.7%増加したことに対し、参加群では6.8%の増加にとどまったことが報告された7)。
この手法は、埼玉県シルバー人材センター連合にも採用され、新たな高齢者就労の場の拡大と高齢者の健康を支える事業として展開している。
3)ドラッグストアを起点とした健康無関心層へのアプローチと就労機会創出によるフレイル対策
経済産業省平成30年度健康寿命延伸産業創出推進事業(代表団体:株式会社サンキュードラッグ)において、モデル的に実施した8)。ドラッグストアの場を起点として高齢者をスクリーニングし、無関心層やこれまで補足できていなかった層へフレイル対策プログラムを提供する。筋力・栄養・社会性に着眼した教室だけでなく、自宅での取り組みサポートや、就労機会の提供など、コンテンツのさらなる進化・定着により自走可能なビジネスモデルの構築と生涯現役社会の実現を目指している(図3)。フレイル対策プログラムの運営は専門職(薬剤師や管理栄養士など)やシニアボランティアが実施主体として携わり、行政(北九州市健康・生活産業振興協議会、九州経済産業局)、参加団体として企業(大日本印刷、しちだ・教育研究所)、協力団体として東京都健康長寿医療センター研究所の専門職(医師、作業療法士、管理栄養士)が支援を行った。共有化のツールとして、フレイルチェック表、運動&脳トレ&栄養のデイリーワーク提供とチェックリストを作成した。医療・介護への地域医療連携パスも構築された。今後、こうした取り組みが拡がることを期待する。
4)歯と食からはじめる健康寿命延伸プロジェクト
健康寿命の延伸を図るために、加齢に伴う口腔機能の低下、食の偏りによる低栄養などを起因とするフレイルや誤嚥性肺炎を予防することは大切である。兵庫県では、2018年度より「フレイル予防・改善プログラム」を開発し、口腔機能の向上と栄養状態の改善に向けた取り組みの強化に取り組んでいる(図4)9)。この取り組みは、県が高齢者の口腔機能向上と栄養改善を一体的に行うプログラムを提供し、市町における効果的な介護予防事業の実施を支援することにより、通いの場やサロン等への専門職(歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士等)や配食事業者等の関与を促進し、フレイル対策に取り組む市町を増やすことを狙いとしている。提供するプログラムは、「フレイル予防・改善対策」に取り組む際の基本的な考え方や、関係者(各職種)の役割と連携、具体的な取り組み事例が示されている。また、プログラム実施の際には、関係者と十分協議し、地域の実情に応じて取り組むことが勧められている。
5)多職種協働による食支援プロジェクト
老化により食事に関する能力(準備、咀嚼、嚥下)を逸することは、必要な栄養素の不足や他者との交流の機会を減少させる要因であり、心身の状態を悪化させるリスクとなり得る。2017年度に多職種による食支援ワーキンググループが編成され、全国の食支援モデルの抽出および整理を行った10)。その結果、高齢期に生じる食の課題を認識しても専門的な知識や情報がなく、解決に向けて動き難い状況が生じていた。2018年度よりモデル地区として二つの自治体を選び、配食サービスや通所サービスにおける課題に対し、医療専門職(医師、歯科医師、栄養士、言語聴覚士など)、地域包括支援センター、行政、介護従事者などの多様な視点から知識や情報を元に支援を行えるよう食支援パスを構築し、介入効果の検証が始まっている。専門職は現場経験から積み重ねた知識や技術を提供し、行政・自治体は専門職同士のハブや住民と専門職をつなぎ、住民は自身や家族の食生活に目を向け、専門職や行政に支援を求めるようになることで、地域における食支援が機能することが期待される。
2.療養高齢者の観点からみた支援
1)在宅訪問における栄養管理と多職種連携
厚生労働省保険局高齢者医療課では、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について検討を行っている。「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に関する事例集」11)において、三重県津市では、高齢者の特性を踏まえた低栄養やフレイルの予防に取り組んでおり、2015年度から、保健師・管理栄養士・歯科衛生士が地域で行われているサロンや集まりの場などへ出向き、生活習慣や食生活に関するチェックと食生活に関する相談・支援を行う「栄養パトロール」を紹介している。この取り組みでは、フレイルや疾患・転倒リスクを確認し、本人・家族・関係者による栄養ケア担当者会議を実施後、本人が望む暮らしを支援する「個別栄養支援」、地域の栄養課題を抽出して改善に向けた検討を行うために多職種による「地域栄養ケア会議」を行うことによって、低栄養・フレイルの重症化予防の可能性を示唆している。
日本栄養士会では、フレイルや低栄養状態に陥らないための在宅高齢者における栄養管理を重視し、地域における身近な栄養支援活動の拠点や人材育成を行っている。2008年度より栄養ケア・ステーションを展開し、2018年度より「栄養ケア・ステーション認定制度」を設立、並行して在宅医療と関わる他職種と連携を図り、かつ在宅療養者の疾患・病状・栄養状態に適した栄養食事指導(支援)ができる管理栄養士を育成することを目標に、2011年度より特定分野管理栄養士として日本在宅栄養管理学会認定の「在宅訪問管理栄養士」制度を設けた。また、在宅療養者に対する食事・栄養支援を行う人材の確保、全国規模で人材を継続的に供給可能となる体制の整備、関係機関・関係職種と連携した活動拠点の確立を目標に取り組む栄養ケア寄り型ソリューション事業(よりソリプロジェクト)を立ち上げた。このプロジェクトは、厚生労働省健康局が実施する「栄養ケア活動支援整備事業」を受け、地域包括ケアシステムにおける管理栄養士・栄養士による栄養ケアサービスの確実な提供を目指し、多職種連携による個別実践事例を多く収集している12)。
2)経口維持加算に係る多職種連携
2006年度から介護保険制度に導入され、2015年度の改定によって見直しされた経口維持加算は、施設入所者の口腔機能や咀嚼機能を重視し、その機能を改善・把握した上で栄養管理を行うこと、また歯科と栄養をはじめとした多職種協働のプロセスを評価するという内容であったことを受け、「多職種経口摂取支援チームマニュアル 経口維持加算に係る要介護高齢者の経口摂取支援に向けて」が作成された13)。本マニュアルは、経口維持加算に係る要介護高齢者の経口摂取支援を多くの施設で実施できるよう、出来るだけ見やすく、かつ分かりやすい内容にすることを心がけて作られている。医師、看護師、管理栄養士、歯科衛生士、ケアワーカー、セラピスト等から構成される多職種による食事観察(ミールラウンド)や会議(カンファレンス)等の実施プロセス、多職種チームの発展に向けた要点がまとめられており、経口維持加算の取り組み事例も掲載されている。
3.臨床高齢者の観点からみた支援
臨床の場におけるチーム医療は、診療報酬に位置付けられた課題別医療チームとして、多岐にわたるチームが存在するが、本稿では近年始められた高齢者特有の慢性疾患に関する多職種連携の取り組み事例について紹介する。
1)骨粗鬆症リエゾンサービス
健康寿命を延伸するために、要支援・要介護状態の原因となる骨折や転倒を減少させることが期待されているが、大腿骨近位部骨折や椎体骨折等の脆弱性骨折はむしろ増加する傾向にある。骨折患者や骨折リスクの高い人が十分な治療を継続実施し、適切な骨折予防のための骨粗鬆症治療におけるリエゾンサービスが注目されている。リエゾンとは診療におけるコーディネーターの役割を意味しており、最初の骨折への対応および骨折リスクの評価と、新たな骨折の防止、最初の脆弱性骨折の予防を目的とする。大腿骨近位部骨折例、その他の脆弱性骨折例、骨折リスクや転倒リスクの高い例、高齢者一般を対象として、骨粗鬆症の薬物治療と治療継続率を向上させると共に、運動療法や服薬、栄養指導を含めた患者教育・指導を行い、多職種連携によって骨折予防を推進する。日本骨粗鬆症学会では、2012年より骨粗鬆症治療におけるリエゾンサービスの普及を目的に、骨粗鬆症の診療支援サービスに関わる医療職を対象にした教育プログラムを策定し、普及・推進している14)。
2)リハビリテーション栄養
リハビリテーションの成果を高めるために、最適な栄養管理を主眼としたチームによる多職種連携が行われている。2011年より日本リハビリテーション栄養研究会を設立し、2017年より日本リハビリテーション栄養学会に名称変更した。2019年からリハビリテーション栄養(リハ栄養)を指導するために、医療・福祉に関する国家資格を有する職種を対象とした指導士制度が設けられ、「リハ栄養診療ガイドライン2018」が作成され、一般向けに分かりやすく紹介するパンフレットも作成されている15)。実践のためには知識や技術に加え、マネジメントの考え方が不可欠とされ、多職種で共有するマネジメントツールとして「リハ栄養ケアプロセス」が考案されている16)。このプロセスは、障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルに関連する問題に対して、質の高いリハ栄養ケアを行うための体系的な問題解決手法で、評価、診断、ゴール設定、介入、モニタリングの5つのステップで構成されている。
4:おわりに
在宅・療養・臨床の三つの観点から、高齢者の健康や食に関する支援に向けた多職種連携について、様々な事例を紹介した。介護予防・日常生活総合支援事業の導入や高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の検討が行われたことに伴い、これまで医療・介護の現場で主に行われていた多職種連携は、地域における高齢者の健康や食に関する支援においても広がりをみせている。生活の仕方が個々で異なり、かつ多様な健康課題を抱える高齢者に対し、在宅・療養・臨床で活動する多様な職種が連携・協働をする必要性は、今後さらに高まるであろう。
<謝辞>
本稿に際し、事例・資料を提供いただいた東京都健康長寿医療センター研究所 新開省二副所長、清野諭研究員、野藤悠研究員、兵庫県健康福祉部健康局健康増進課 諸岡歩氏に深謝します。
文献
プロフィール
- 成田 美紀(なりた みき)
- 東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 研究員 - 最終学歴
- 2011年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程単位取得満期退学、博士(栄養学)、修士(医科学、理学)
- 主な職歴
- 日本原子力研究所東海研究所環境安全研究部、東京都老人総合研究所疫学部門、同・介護予防緊急対策室を経て、2011年より現職 現職 東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム研究員
- 専門分野
- 公衆衛生学、栄養疫学
- 北村 明彦(きたむら あきひこ)
- 東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 研究部長 - 最終学歴
- 1989年 筑波大学大学院医学研究科環境生態系専攻(博士課程)修了
- 主な職歴
- 2012年 大阪がん循環器病予防センター副所長 2014年 大阪大学大学院医学系研究科准教授 2016年 東京都健康長寿医療センター研究所研究部長 現職 東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム研究部長
- 専門分野
- 循環器疾患、フレイル・認知症・ロコモティブシンドロームの予防
※筆者の所属・役職は執筆当時のもの
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