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各論4 トピックス 3.認知症における「見た目」研究

 

公開月:2021年9月

東京大学医学部附属病院 老年病科 特任講師
亀山 祐美

東京都健康長寿医療センター 放射線科診断科 医長
亀山 征史

東京大学医学部附属病院 老年病科 教授
秋下 雅弘

1:「見た目年齢」と認知症研究

1.はじめに

 2025年には日本に認知症患者が700万人に増えると予測されており、その前段階の軽度認知障害MCIも400万人程度いると言われている。正常からMCIになる、また、MCIから認知症になる高齢者を早期に発見し、介入できるよう、認知症早期発見ツールを開発し一般化させることを予定している。認知症の早期発見ツールは、どこでもでき、特別なスキルを要さず、簡便、安価であることが求められている。「物忘れ外来」といった名前の外来が増えているが、受診したくない、またはできない高齢者も多く、高齢者健診の一環で、スクリーニングができることが理想である。顔(表情)で認知症を診断できないだろうか。顔をAIで認知症か正常かスクリーニングできれば、採血や注射、放射線、腰椎穿刺などの侵襲は一切なく、費用も安い。まずはじめに、高齢者医療専門家による「見た目」評価と認知症の研究を行い、AIでの検討も行った。

2:「見た目年齢」研究

1.目的

 老化は全身のプロセスである。見た目年齢は、寿命、テロメア長と相関する2)、見た目年齢は、骨の状態を反映する3)、見た目年齢は、動脈硬化を反映する4)、といった「見た目年齢」研究がある。日々の診療の中で、認知機能が低下すると「見た目」が老けて見えると感じている。「見た目年齢」と認知機能の関係を検討することを目的とした。

2.方法

 東大病院老年病科に物忘れ精査入院をした患者を対象とした。臨床心理士が30分程度会話をし、うち解けてから「証明写真を撮るときの顔で」とリクエストし、正面・両斜位を撮影した。

 顔写真を5名の老年病専門医と5名の臨床心理士(認知症診療経験5年以上)が見た目年齢を評価し、10人の平均値を見た目年齢とした。高齢者総合機能評価(認知機能MMSE、意欲Vitality Index、うつ GDS15、生活機能IADL/Barthel Index)を行った。

3.結果

 暦年齢と見た目年齢は有意に相関した(r=0.560, t=7.47, P=1.36×10-11)(図1)。

図1:見た目年齢と暦年齢の相関図。
図1 見た目年齢( 縦軸) と暦年齢(横軸)

暦年齢と見た目年齢は有意に相関する(r=0.560, t=7.47, P=1.36×10−11).

 MMSEは、女性では、見た目年齢との相関のほうが暦年齢との相関よりも有意に高かった。一方、男性では見た目と暦年齢との相関係数にほとんど差がなかった(図2-1)。Vitality Indexと暦年齢/見た目年齢との相関も、全体と女性において有意差を認めた(図2-2)。

図2-1:MMSEと暦年齢、見た目年齢の相関係数を表す図。
図2-1 MMSEと暦年齢・見た目年齢の相関係数
図2-2:Vitalityと暦年齢、見た目年齢の相関係数を表す図。
図2-2 Vitalityと暦年齢・見た目年齢の相関係数

 うつの指標であるGeriatric Depression Scale-15(GDS-15)は男女ともに見た目年齢と暦年齢との間に差がなかった。

4.考察・まとめ

 MMSEは、女性では、見た目年齢との相関のほうが暦年齢との相関よりも有意に高かった。認知機能が正常な女性は身だしなみに気を使うことができ、若く見えるということが影響しているのかもしれない。Vitality Indexは、男女ともに見た目のほうが強い相関係数を示した。男性のみでは有意差が出なかったが、人数が少なかったからと思われる。うつは、見た目に影響を与えると予想していたが、GDS15については暦年齢とも見た目年齢とも有意な相関は認められなかった。

3:Deep learningを用いた顔写真からの認知症早期発見の検討

1.目的

 認知症が「見た目」に与える影響を調べるために機械学習であるdeep learningを用いて顔写真の弁別課題を行うことにした。顔写真から認知症か正常か弁別できるか、検討を行った。

2.方法

 対象は、アルツハイマー病(AD)の患者は東大病院老年病科から、Normalは地域在住高齢者(柏コホート研究)からリクルートした。撮影場所が異なるため、背景を除去した画像も作成した。5つのmodel(Xception, SENet, ResNet, VGG16, simple自作)それぞれに対し2つのoptimizer(SGD, Adam)を使用した。SENet, ResNet, VGG16は、VGG-Faceで学習済みモデル、XceptionはImageNetで学習済みモデルを使用した。

3.結果

 当科物忘れ精査入院の軽度認知症者125名(平均年齢80.3±7.2 平均MMSE 22.0±5.6)と地域在住高齢者(柏コホート)116名(平均年齢76.8±7.5 MMSE 28.9±1.5)。いくつかのモデルで試みたが、Xceptionモデルでは92%のaccuracy(AUC 0.9717)で認知症か正常か弁別できた(図3)。

図3:認知症か正常かを弁別する顔写真のROC曲線を表す図。
図3 顔写真のROC 曲線

丸い点(○):AI ソフトが決めた点(sensitivity:87.31%, specificity:94.57%)
三角の点(△):ROC 解析によって決めた点(sensitivity:96.27%, specificity:91.42%)

4.考察

 Deep learningを用いて、顔写真から認知症か正常か判別することができる可能性を示すことができた。今回は、パイロットスタディーであり、人数が少なかったが、今後、多くの顔写真を集めて精度を上げていきたい。

4:まとめ

 認知機能やVitalityの低下が、高齢者医療専門家による「見た目評価」に影響を及ぼすことがわかり、AIでも顔写真から認知症か正常か弁別することができる可能性を示すことができた。

ACKNOWLEDGEMENT

 本研究は、「適時適切な医療・ケアを目指した、認知症の人等の全国的な情報登録・追跡を行う関する研究」日本医療研究開発機構研究費・認知症研究開発事業 : 16dk0207027h0001での研究である。

文献

  • 1)Umeda-Kameyama Y, Kameyama M, Iizuka T, et al: Cognitive function has a stronger correlation with perceived age than with chronological age. Geriatrics and Gerontology International 2020; 20(8): 779-784.doi: 10.1111/ggi.13972
  • 2)Christensen K, Thinggaard M, McGue M, et al: Perceived age as clinically useful biomarker of ageing: cohort study. BMJ 2009; 339: b5262.doi: 10.1136/bmj.b5262.
  • 3)Nielsen BR, Linneberg A, Christensen K, et al: Perceived age is associated with bone status in women aged 25-93 years. Age 2015; 37(6): 106.doi: 10.1007/s11357-015-9842-5.
  • 4)Kido M, Kohara K, Miyawaki S, et al: Perceived age of facial features is a significant diagnosis criterion for age-related carotid atherosclerosis in Japanese subjects: J-SHIPP study. Geriatr Gerontol Int 2012; 12: 733-740.doi: 10.1111/j.1447-0594.2011.00824. x.

プロフィール

写真:筆者_亀山祐美先生
亀山 祐美(かめやま ゆみ)
東京大学医学部附属病院 老年病科 特任講師
最終学歴
2006年 東京大学大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻 博士課程 修了
主な職歴
1998年 フランス国ストラスブール大学病院神経内科 2006年 東京大学医学部附属病院老年病科研修登録医 2009年 東京大学保健・健康推進本部助教 2013年 東京大学医学部附属病院老年病科(早期・探索的臨床試験拠点事業)特任助教 2014年 東京大学医学部附属病院老年病科助教 2020年 同・特任講師(病院) 現在に至る
専門分野
老年医学、認知症、睡眠障害、性差医療
写真:筆者_亀山征史先生
亀山 征史(かめやま まさし)
東京都健康長寿医療センター 放射線科診断科 医長
最終学歴
2005年 東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻 博士課程 修了
主な職歴
2011年 慶応大学放射線科非常勤講師 2015年 国立国際医療研究センター医師 2016年 東京都健康長寿医療センター放射線診断科医長 現職 慶応大学放射線科非常勤講師、東京都健康長寿医療センター放射線診断科医長
専門分野
脳核医学、数理学
写真:筆者_秋下雅弘先生
秋下 雅弘(あきした まさひろ)
東京大学医学部附属病院 老年病科 教授
主な職歴
1994年 東京大学医学部老年病学教室助手 1996年 スタンフォード大学研究員、ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイメンズ病院研究員。帰国後前職東京大学助手 2000年 杏林大学医学部高齢医学講師 2002年 同・助教授 2004年 東京大学大学院医学系研究科老年病学助教授(2007年職名変更により准教授) 2013年 同・教授
専門分野
老年医学、老年病の性差、高齢者の薬物療法