各論4 トピックス 2.我が国の統合型コホート研究ーILSA-J研究―
公開月:2021年9月
国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
鈴木 隆雄
1:はじめに
現在の日本は男女ともに世界で最も平均寿命の長い集団であり、特に1990年以降その傾向が明確である。集団における長期化の要因は複雑であるが、長寿化に伴って高齢者の健康度、すなわち身体機能の向上に伴う生活機能の向上が存在することは明らかである。このような現象は、集団の長寿化による超高齢社会における高齢者の存在する意義、すなわち、高齢者は単なる社会的弱者・負担としての存在なのか、あるいは有効な社会的資源として有望な存在なのかを見極めるうえで極めて重要な問題を含んでいる。
本業績集で特集されている「フレイル」に関しても、高齢社会となり、高齢者の人口割合が増加することによって、フレイル高齢者の割合も増加しているように思われるが、例えば20年-30年前と比較して、人口構造を補正した場合にフレイル高齢者の割合が本当に増加しているかあるいは逆に減少しているかは、厳密な科学的検証が必要であることは言うまでもない。
高齢期の心身の機能の変化を把握するための老化研究には広く知られるように、横断研究、縦断研究、そして定点観測的(時間差)研究が必要である。横断的研究にはコホート差というバイアスが存在し、真の老化をゆがめる。縦断的研究は優れた方法であるが、長期間にわたる研究では時代差というバイアスが含まれる。従って、コホート差や時代差がどのように老化に影響しているかを補正するためには、定点観察的な時代差研究も不可欠となる1)。
本論では、我が国の地域在宅高齢者における身体機能や日常生活動作能力(ADL)の経年的変化およびフレイルの経年的変化について、我が国を代表する老化に関する長期縦断コホート研究を統合したILSA-Jにより得られたデータを収集・分析し、2007年-2017年の10年間における変化を明らかにするとともに、1992年から2002年までの10年間の老化に関する長期縦断研究であるTMIG-LISAのデータを加味し、1990年以降25年間におよぶ日本人高齢者の健康水準の変化について総合的に考察した。
2:Integrated Longitudinal Studies on Aging in Japan:ILSA-Jについて
国立長寿医療研究センターでは2017年に我が国で実施されている地域在宅高齢者を対象とし、比較的精度の高い老化に関する13の長期縦断コホート研究の協力を得て、日本人の老化に関する総合的な研究(Integrated Longitudinal Studies on Aging in Japan:ILSA-J)を開始した(13の研究はAppendixに示すとおりである)2)。本論では、ILSA-Jから共通に得られた測定データのなかから、2007±2年と2017±2年の2時点におけるフレイルを含む健康水準を表す基本的な6項目、すなわち身長、体重、体格指数(BMI)、通常歩行速度、握力、手段的生活活動能力について対象者(被験者)数、性別、年齢階級(5歳階級)別の平均値±標準偏差、最大値、最小値を収集した。データ収集年を±2年としたのはコホートごとに調査(測定)年の間隔(毎年実施、隔年実施、3年毎実施等)が異なっているためである。これらの6項目は、高齢者の健康に関する研究では最も通常的に測定される基本的・本質的な測定項目であり、フレイルを考える際にも、重要な項目である。
ILSA-Jで用いられた6項目に関しての方法論的情報は以下の通りである。
- 身長(cm);身長計による測定。小数点第1位四捨五入
- 体重(kg);体重計による測定。小数点第2位四捨五入
- 体格指数(BMI);体重を身長の2乗で除した値(BMI=kg/m2)。小数点第2位四捨五入
- 通常歩行速度(m/sec);日本で推奨されている測定方法としては11メートルの歩行路を設定し、中央の5メートルの距離での歩行時間を測定する。被験者においては2回試行し、早い方を記録。小数点第3位四捨五入
- 筋力(kg);スメドレーの握力計を用いる。利き手で2回試行し、大きい方を記録。小数点第2位四捨五入
- 手段的生活動作能力(Instrumental Activity of Daily Living:I-ADL);老研式活動能力指標(TMIG-IC;13項目)のうち、一つの下位尺度である、I-ADLに関する手段的自立(Instrumental Self-maintenance)の5項目(1.バスや電車を使って1人で外出できますか、2.日用品の買い物ができますか、3.自分で食事の用意ができますか、4.請求書の支払いができますか、5.銀行貯金・郵便貯金の出し入れが自分でできますか)で測定された。個人別の得点は0から5点(満点)に分布する。本研究で用いたデータはそのコホート(集団)での該当項目数の平均値±標準偏差を収集した
フレイルについてはFriedの基準(5項目;J-CHS)を用い、日本で本格的にデータ収集の行われるようになった2012年をベースラインとし、2017年を追跡年として比較している。
統計的分析方法についての詳細は関連論文2,3)に譲るが、測定された変数はいずれも観察した2点間でのプールした平均値±2年の平均値±標準偏差を算出した。HeterogeneityについてはCochran's Q testおよびI2 統計量を算出し、それぞれの有無により、random-effect modelおよびfixed-effect modelを用いてpooled prevalence±95%CIを算出している。また2点間の変化量の差に関してはpseudo-microdataを算出して共分散分析を行い有意差に関する検定を行った。
1.ILSA-Jの主要な分析結果について
ILSA-Jの分析結果について、2007±2年において、6項目を収集しているのは5のコホートであり、対象者数の合計は5,144名(男性1,909名、女性3,235名)である(平均年齢は73.2±6.2歳から78.5±4.2歳に分布)。一方、2017±2年の6項目データは10コホートから収集され、対象者合計は8,052名(男性3,052名、女性5,000名)であり、平均年齢の分布は71.8±4.5から80.0±4.0歳であった。6項目における2007±2年から2017±2年の10年間の経年的変化については図1に示すとおりである。
分析結果から、身長に関しては男女とも各年齢階級において全て増加していた。体重については男性は各年齢階級全てにおいて増加していたが、女性においては前期高齢期では低下、後期高齢期では増加していた。BMIにおいて、男性は全ての年齢階級で増加、女性は85歳-89歳でのみ増加し、他の年齢階級では全て有意に低下していた。通常歩行速度は男女ともに全ての年齢階級で増加が認められ、特に女性の後期高齢期における増加が大きいことが示されている。握力に関しても、男女ともに65-69歳を除いて全ての年齢階級で増加が認められている。また手段的ADLについても、男性では85-89歳および女性では75-79歳を除き、男女ともに得点(スコア)の増加が認められた。2007年のコホートと2017年のコホートでの各測定値の低下の割合に関しては共分散分析の結果、2007年コホートにおいて有意に低下速度の大きいことが確認され、いわば新しいコホートにおいて若返りの現象が生じていたと考えられた(図2)。
またフレイルについてはILSA-Jデータのうち、2012年については7コホート10,312名および2017年では8コホート7,010名について分析されている。プールされた全体の有病率は図3に示すとおりである。2012年に比較し全体的にフレイルの有病率は低下しており、この傾向は男女ともそして各年齢階層ともに同様の傾向が認められた。
2.ILSA-Jから窺える日本人高齢者の健康水準の変動(特に歩行速度)について
先進諸国を中心にこの数十年間で平均寿命は延伸し、多くの国々では高齢社会となり、高齢者の健康水準あるいは生活機能にも大きな変化が生じている。日本においては、第2次世界大戦後の1946年には男性50.06歳、女性53.96歳と非常に低い平均寿命であったが、その後今日に到るまで、一貫して上昇を続け2018年には男性81.15歳、女性87.50歳となるに至った。ILSA-Jで取り上げた2007±2から2017±2年にかけての10年間においても男性5.0歳、女性5.1歳の平均寿命の延伸が認められている。このような著しい平均寿命の延伸のもと、日本の高齢者の健康水準の変化は着実に向上していることが明らかになった。2007年から2017年の基本6項目の各変動の詳細なデータとその意味するところは論文に譲るが、ここでは特にフレイル、なかでも身体的フレイルの中核をなす身体機能であり、ロコモティブ・シンドロームの基本的な要因でもある歩行能力(速度)についてのデータを中心に紹介しよう。
高齢者が自立した生活を送るうえで、移動能力なかでも歩行速度は最も重要かつ必要不可欠な能力であり、高齢者の基礎的運動能力は歩行速度で代表されることが明らかにされている4)。高齢者の歩行速度は日常生活全体の機能、転倒リスク、抑うつ状態、さらにはADLの低下や施設入所、さらには死亡の予測因子となることが知られている5,6,7)。
本研究において、日本の地域在宅高齢者の2007年から2017年にかけての歩行速度の変化は、男女ともそして各年齢階級ともに著しい改善を示している。それぞれの変化率([2017年歩行速度-2007年歩行速度]/2007年歩行速度)は男性では3.7-7.9%、女性では7.5-16.3%と増加しており、歩行速度の改善の度合いが著しいことが明らかとなった。このような日本の地域在宅高齢者の(最も重要な生活機能の基盤的要因としての)歩行速度の変化・改善は1990年代以降連続して生じている現象と思われる。
先に筆者は(旧)東京都老人総合研究所の実施した老化に関する長期縦断研究TMIG-LISA8)の観測データから、1992年から2002年における日本人高齢者の歩行速度を含む身体機能の変化を報告したが、通常歩行速度(m/sec)については1992年の65歳以上の全体の平均値±標準偏差は男性1.16±0.27、女性は1.00±0.27であったが、その集団と同じ(有意差のない)平均値±標準偏差を示す2002年の集団は男女ともに76歳以上の集団(男性1.17±0.30、女性1.00±0.27)となっており、通常歩行速度については男女とも11歳若返っていたことが報告されている9)。これらのデータに加え、ILSA-Jの2007年から2017年のデータから経時的変化を合成すると、例えば男性65-69歳では1992年1.26、2002年1.36、2007年1.38、2017年1.41、80-84歳では各々0.86、1.07、1.15、1.25であり、女性の65-69歳では、各々1.16、1.33、1.36、1.42、80-84歳では各々0.79、0.95、1.03、1.23(m/sec)と、男女とも全て年齢階級で1992年-2002年-2007年-2017年の順に速くなっていることが認められた(図4)。これらのデータの推移から、日本の地域在宅高齢者はこの25年間一貫して歩行速度が速くなっており、特に女性での改善が顕著であることが認められている。TMIG-LISAおよびILSA-Jデータの経年的な変化に関する統合的な分析で示されたように、歩行速度も含め、生活機能に関わる項目においても著しい改善の状況は以下のことを示唆している。すなわち、平均寿命の延伸に伴う超高齢社会を構築する高齢者の健康水準は(低下するのではなく)明らかに高くなるということである。平均寿命が延伸し、高齢者人口が増加することは、単に(昔のような)虚弱(frail)な高齢者が増加することではなく、活力に溢れた活動性の高い、そして身体機能の高い高齢者が増加することを意味していると言えよう。
文献
Appendix; ILSA-J参加コホートの概要(肩カッコは各コホート研究の主要文献を示す)
1.National Center for Geriatrics and Gerontology - Study of Geriatrics Syndrome :NCGG-SGS1)
NCGG-SGSは国立長寿医療研究センターが2011年より実施している老化の長期縦断研究である。特に本研究では、愛知県大府市の65歳以上の地域在宅高齢者を対象として、老化に関する過程、中でも認知症、身体的フレイル、サルコペニアなどの老年病の発症要因を明らかにするとともに、それらの予防法について有効な方策の解明を目的としている。ILSA-Jに適応するデータは、NCGG-SGSのなかで愛知県大府市において平成23年8月より平成24年2月の期間に実施された横断的な調査にもとづき、研究への同意を得て参加した5,104名の高齢者に対して包括的機能健診を実施しデータを取得した。
2.National Institute for Longevity Science - Longitudinal Study of Aging:NILS-LSA(NCGG)2)
NILS-LSAは国立長寿医療研究センターが1997年より実施している老化および老年病の実態と要因を明らかにするための疫学研究である。この研究は地域住民を対象として、詳細な老化に関連する調査を繰り返し実施している。対象者は、観察開始時年齢が40歳から79歳までの国立長寿医療研究センター周辺(大府市および東浦町)在住の男女地域住民であり、地方自治体の協力を得て地域住民から年齢・性別に層化し無作為に抽出された。2000年4月に2,267名の第1次調査を終了し、2016年2月に第8次調査を終了している。第7次調査までは、80歳未満のドロップアウトについては新たに無作為抽出を行い、同じ年代、性別の新たな参加者を補充したDynamic Cohort研究となっている。
調査では、NCGGの施設内に設けた専用の検査センターで、一日6-7人、年間約1,200人の対象者に、身体機能や運動機能、生活に関する調査、栄養調査、心理検査など学際的な調査・検査を実施してきた。第1次から7次までの調査の参加者は3,983人で、延べ16,338回の調査が実施されている。
3.Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES(NCGG)3)
JAGESは全国の約40の市町村と共同し、30万人の高齢者を対象にした調査を行い、全国の大学・国立研究所などの30人を超える研究者が、多面的な分析を進めているプロジェクトである。特に、「健康の社会的決定要因」の重要性や「健康格差」の実態を明らかにすることが主要な目標である。1999年に愛知県の2自治体から始め,2003年には3県15市町村において、要介護認定を受けていない高齢者3万2千人、2005年には追跡調査に協力が得られた3県の10自治体(3万6千人)で調査を実施してきた。2010年から全国31市町村の約10万人、2013年には全国30市町村約14万人、2020年には全国39市町村約18万人の大規模データを収集している。
4.Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology - Longitudinal Interdisciplinary Study on Aging(TMIG-LISA)and Itabashi Aging Cohort(IAC):TMIG-LISA4)
TMIG-LISAは1991年に東京都老人総合研究所により開始された日本で最初の老化に関する前向きコホート研究である。TMIG-LISAについての詳細は他の学術誌に紹介されている。本研究では、1992年-2002年の10年間における日本人高齢者の身体機能や運動機能に関する変化をすでに報告し、「若返り」が起きていることを報告した。IACについては、TMIG-LISAを引き継ぎ、老化に関する長期縦断研究として継続されている。2017年の調査に関しては、板橋区の住民基本台帳に基づき、65-80歳の高齢女性に対し、各年齢層の13%に該当する人数を無作為に抽出し、施設型調査に招待した。その結果、最終的に1,035名の参加があり、ILSA-Jに適合した項目を含めて調査を行った。
5.Active Senior Health Monitoring Cohort(ASHMC/TMIG)5)
ASHMCは2004年度より実施している長期縦断研究である。多様な社会参加・社会貢献活動に参加している集団のため、比較的高い生活機能を有している。本研究は東京都中央区、川崎市多摩区、滋賀県長浜市在住の65歳以上の絵本の読み聞かせボランティア(通称REPRINTS)グループおよび、同等の心身機能を有するコーラスグループや病院ボランティア、健康体操サークル等、他の多様な社会参加活動に従事する集団である。2005年6月-2007年に得たデータから約10年後の2015年3月-2016年3月に得たデータをまとめた。2005年度の対象者は245名(平均年齢70.5±4.5歳)、10年後の対象者は163名(追跡率66.5%)となっている。さらに2017年の横断調査で、190名(平均年齢は74.6±5.1歳)が追加され調査された。
6.Kusatsu Cohort Study(KCS/TMIG)6)
草津町コホート研究は2002年に70歳以上の草津町在住高齢者を対象として開始され、現在に至るまで年に1度の頻度で自治体の検診に付随する形で調査を実施している。本研究の概要はすでに多くの論文で紹介されているが、草津町コホート研究は、群馬県吾妻郡草津町との間で実施する共同研究事業に位置づけられ、2002年から2017年までの16回の調査に2,023名(延べ9,493名)が参加している。調査内容は、身体、心理、社会的機能を包括的に評価する指標を用いて研究が進行している。
7.Itabashi-Otassha Cohort Study(IOCS/TMIG)7)
IOCSは2011年より実施している老化の長期縦断研究である。特に本研究では、東京都板橋区の65歳-90歳の地域在宅高齢者を対象として、運動機能、口腔機能、栄養、認知機能、抑うつなどに関する調査を行い、要介護、フレイルの発生要因を明らかにするとともに、それらの予防法について有効な方策の解明を研究の柱としている。板橋2011研究は東京都板橋区の協力を得て、2011年に板橋区内9地域在住の65歳-84歳の高齢者全員(約7,000名)から包括的生活機能評価のための会場招待型健診参加者を募集し、以降7年に渡って、毎年過去の健診参加者と、新規65歳に同様の健診を案内し、追跡調査を行っている。2017年度の健診は、過去の健診受診者1,520名および新規65歳495名に案内を送付し、761名が調査に参加した。このうち2011年のベースライン調査参加者は342名で、追跡率は44.9%であった。
8.Takashimadaira- Cohort Study(TCS/TMIG)8)
TCSは2016年より実施している老化の長期縦断研究である。本研究では、東京都板橋区高島平地域の70歳以上の地域在宅高齢者を全員対象として、大都市に暮らす認知症高齢者の出現頻度と生活実態を把握することを目的としている。この研究では、高島平地区に住む70歳以上高齢者7,614名全員を対象に生活実態把握調査「高島平こころとからだの健康調査」を実施した。本調査は自記式アンケートであり、これを郵送し、調査員が回収する郵送留置法で実施し5,430票(71.3%)を回収した。さらにこれらの方を対象として、専門職による面接調査および実測調査を実施した。健診会場の調査(会場調査)に参加した者は1,248名(23.0%)であった。
Research on Osteoarthritis / Osteoporosis Against Disability(ROAD)9)
ROADスタディはわが国の運動器障害とそれによる運動障害や要介護の予防のために、運動器疾患の基本的疫学指標を明らかにし、その危険因子を同定することを主たる目的として、2005年より開始された地域住民コホート研究である。ROADスタディでは、2005年-2007年に、都市型コホート(東京都)、山村型コホート(和歌山県)、漁村型コホート(和歌山県)と、特性の異なる3地域コホートを設置し、3,040人(平均年齢70.3歳)の参加を得た。ベースライン調査では、400項目からなる詳細な問診票調査、栄養調査、握力、歩行速度、身体測定、Dual energy X-ray absorptiometry(DXA)による骨密度測定、尿検査、血液検査を行い、脊椎、股関節、膝関節のX線撮影を実施し、整形外科医による診察を行った。その後ベースライン調査参加者を対象に、3年後、7年後、10年後の追跡調査を行い、ベースライン調査時の項目を再度実施し、運動器疾患の発生、増悪、要介護の有無、生命予後についての経過を把握している。
10.Kashiwa Nutrition And Health Study(KNHS)10)
KNHSは東京大学高齢社会総合研究機構が2012年度から実施している高齢者を対象とし健康についての総合的前向きコホート研究である。千葉県柏市在住高齢者の内、65歳以上かつ介護認定を持たない高齢者に協力をいただき、5年以上の追跡調査を実施している。中でも、高齢者の多面的なフレイルを主なアウトカムに設定し、歯科・口腔も含めた身体機能、精神心理機能、社会的機能など多くの因子を調査することでアウトカムの発症因子を明らかにするとともに、それらの予防法についての有効な方策の解明が研究の柱としている。柏スタディから得られた知見を集約し、市民主導型の多面的なフレイル予防プログラム「フレイルチェック」を開発し、有効な予防プログラムとして多くの自治体に実装されてきている。対象者は同市の65歳以上の全高齢者のうち無作為に抽出した2,044名の方である。2012年より2016年に掛けて実施してきた。
11.Longitudinal Aging Study Tsumagoi(LAST)11)
LASTは群馬県嬬恋村と桜美林大学老年学総合研究所が共同して2004年度より実施している老化の長期縦断研究である。同村の国民健康保険特定健康診査・後期高齢者健診の受診者約1,300名を10年以上にわたって追跡している。毎年の受診者を追加して縦断的データを蓄積している。本研究では、嬬恋村の住民の、老化に伴う生活機能や血液生化学検査指標をはじめとする各種健康指標の加齢変化とその関連要因を明らかにし、総合的な老化の予防方策を樹立するための基礎的知見を確立することを研究の柱としている。とくに、本研究では各種健康指標およびそれらの老化過程に及ぼす地域の要因についても検討することに特色がある。2017年は4月の国民健康保険特定健康診査・後期高齢者健診を受診した70歳以上の高齢者747名のデータが収集されている。
12.Kyoto Aging Cohort Study(KACS)12)
KASCは筑波大学山田研究室が2012年より実施している老化の長期縦断研究である。特に本研究では、京都府伊根町の65歳以上の地域在宅高齢者を対象として、老化に関する過程、中でもサルコペニア、フレイルなどの老年病の発症要因を明らかにするとともに、それらの予防法について有効な方策の解明を研究の柱としている。KASCは伊根町との協力を得て、同町の要支援・要介護認定を受けていない65歳以上高齢者を対象として総合的な健診事業として実施されている。
13.Tarumizu Aging Study in Kagoshima(TASK)13)
TASKは鹿児島大学、垂水市、垂水市立医療センター垂水中央病院が協働となり、大学・行政・地域基幹医療機関で健康長寿・子育て支援の街づくりを目指す「たるみず元気プロジェクト」の一環として実施している2017年に開始された長期縦断研究である。本研究では、65歳以上の地域在宅高齢者を対象として、老化に関する過程、なかでも身体機能の老化やフレイルや認知症、循環器疾患などのリスク要因を明らかにするとともに、それらの予防法について有効な方策を解明するためのコホート研究を主たる目的として実施した。2017年は380名の参加があり、調査項目については本研究事業に適合するべく、基本的な項目(身長、体重、BMI、通常歩行速度、握力)を調査し得られたデータを提供した。
Appendix References
プロフィール
- 鈴木 隆雄(すずき たかお)
- 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
- 最終学歴
- 1982年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了
- 主な職歴
- 1988年 札幌医科大学助教授 1990年 東京都老人総合研究所疫学研究室長(疫学) 1995年 東京大学大学院客員教授(生命科学専攻分野) 1996年 東京都老人総合研究所部長 2000年 同研究所副所長 2009年 国立長寿医療研究センター研究所所長 2015年 桜美林大学大学院教授、老年学総合研究所所長 現在に至る
- 主な著書
- 2019年 超高齢社会のリアルー健康長寿の本質を探るー(大修館書店)、2012年 超高齢社会の基礎知識(講談社)、2008年 体の年齢事典(朝倉書店)その他多数