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第2回 「節酒」か「禁酒」か、それが問題?

 

公開月:2024年7月

仲野 徹
隠居・大阪大学名誉教授


 健康な生活を送るために推奨されていることがいくつかあります。たとえば、国立がん研究センターは、がんにできるだけなりにくくするための5つの生活習慣として、禁煙、節酒、塩分控えめ、運動習慣、適正BMIをあげています。塩分控えめ以外は、がんだけでなく、生活習慣病や認知症の予防にも役立つとされていますから、守るに越したことはありません。でも、これを見ると、いつも気になることがあります。タバコは禁煙なのに、なぜにお酒は節酒なのかと。

 依存症がご専門の国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生は、アルコールというものがごく最近に開発された化合物なら、絶対に禁止薬物に指定されているはずだとおっしゃっておられます。飲んだら意識が朦朧とすることがあるし、事故や事件を引き起こすことがある。さらには依存症もある。なるほど、そう言われたら、確かに危険な「薬物」です。にもかかわらず、「禁酒」ではなくて「節酒」なのです。

 酒は百薬の長で、少し飲むのは体にええからとちゃうんか、と思う方がおられるかもしれません。しかし、最近の研究では、少量でも体に悪いというのがコンセンサスになりつつあります。それに、少し前になりますが、厚労省の研究班による報告では、喫煙と飲酒の経済的損失はそれほど違わないというのもあります。そう考えるとますます不思議です。

 集会や付き合いなどには大昔からアルコールがつきもので、社会生活に密接に関係してしまっているということが、酒に甘い最大の理由でしょう。確かにタバコよりもそういった役割は大きそうです。それに、宗教上の理由で飲んではいけないムスリムは別として、制度として禁酒法を取り入れた国はことごとく失敗したという歴史的経緯もあります。

 まったく飲まないというのは無理として、どれくらいなら飲んでいいのか。この2月、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が厚労省から発表されました。その内容、個人的にはかなり衝撃的なものでした。一日あたりの純アルコール量として男性で40グラム以下、女性で20グラム以下にしましょうというのです。純アルコール量20グラムはビールなら500ミリリットル、日本酒なら一合弱です。それって少なすぎるんちゃうんか。このニュースを受けての居酒屋店主さんのコメント「つきだしだけで飲めてしまう量」に爆笑してしまったほどです。

 厚労省のいう「節酒」とはこのレベルです。こんなに少量で飲むのをやめるくらいなら禁酒の方がやさしいんとちゃいますか?って、節酒も禁酒もできそうにないから、どっちでもよろしいわ。

著者

仲野 徹(なかの とおる)
 1957年大阪市生まれ。大阪大学名誉教授。大阪大学医学部卒業後、ドイツ留学、京都大学医学部講師、大阪大学微生物病研究所教授を経て、2004年大阪大学大学院医学系研究科病理学教授。2022年定年退職。現在、晴耕雨読+ときどき物書き生活の隠居。著書に『からだと病気のしくみ講義』(NHK出版)、『仲野教授のこの座右の銘が効きまっせ!』(ミシマ社)など多数。

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第2号(PDF:5.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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