第2回 さあ、何かを始めよう
公開月:2022年7月
石川 恭三
杏林大学名誉教授
木々は逞しく大きく生育した濃緑の葉にすっぽりと覆われ、そこに強烈な夏の陽光が降り注がれ、活発な光合成のもとで養分が産生されて、木の隅々にまで潤沢にエネルギーを届けている。そんな姿を見ていると、老木のような私もじっとしていられなくなり、生きる力を新しく創り出すために、何かしなくてはならないという気になってくる。
そんなとき、哲学者のマルティン・ブーバーが言った「人は始めることさえ忘れなければ、いつまでも若くある」という言葉が私の背中をぐいっと前に押してくれる。
この歳になってみると、新しいことを始めようとしても、何を始めたらいいのかと迷ってしまう。周りを見渡しても、とくに何かしなくてはならないことはなさそうだし、何としてもやってみたいというようなこともない。それなら仕方がないので、いつものようにしていよう、ということにでもなったら、老いの坂道を早足で下ることになってしまう。
本気で何かをしてみようと考えるなら、いくつかのテーマが浮かんでくるはずである。たとえば、新聞の投書欄に投稿するのはどうだろうか。日ごろ思っていることを文章にまとめ、推敲(すいこう)を重ねてから投稿する。一度や二度で採用される稀有な僥倖(ぎょうこう)などは期待しないで、日記をつける思いで書き続けて何度でも投稿するのである。書いているうちに文章に面白味や艶が出てきて、選者の目に止まって採用されるかもしれない。
また、和歌や俳句や川柳の創作にチャレンジするのもいい。そして、できあがった自信作を新聞の歌壇に投稿するのである。根気よく創作して感性を磨くことが主な目的であり、新聞に採用されるか否かは大きな問題ではない。だが、採用されたときの喜びはとてつもなく大きいはずである。
これまでしたことのない運動にチャレンジするのもいい。日ごろあまり近所付き合いのない人たちに交じって、ゲートボールやグランドゴルフなどをするのは何となく気が引けるとしり込みしている人には、やはりスポーツジムに行くことを勧めたい。そこではそれまでしたことのないさまざまな運動をすることができる。若い元気なインストラクターがいて、運動メニューの相談にのってくれる。私は20年間エアロビクスをし、5年前からは筋トレと水泳に切りかえ、今も週に3回ジム通いをしている。
また、パソコン・スマホにチャレンジしたり、外国語の学習を開始したり、歴史を調べて古都を散策するなどもいい。もちろん、
を始めるのは一押しでお勧めである。著者
- 石川 恭三(いしかわ きょうぞう)
- 1936年生まれ。慶應義塾大学医学部大学院修了。ジョージタウン大学留学を経て、杏林大学医学部内科学主任教授。現在、同大学内科学名誉教授。臨床循環器病学の権威。執筆活動も盛んで、著書多数。近著に『老いて今日も上機嫌!』『老いの孤独は冒険の時間』『老いのたしなみ』(以上、河出書房新社)など
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