住民参加型のまちづくり
公開月:2022年7月
飯島 勝矢(いいじま かつや)
東京大学高齢社会総合研究機構機構長
東京大学未来ビジョン研究センター教授
はじめに
わが国では2020年には100歳以上の高齢者が8万人を超え、さらに2025年には高齢化率が30%を超えていく。この社会的背景の中、わが国での「総合的なまちづくり」の取り組みは不十分であった。縦割り行政という言葉はよく耳にするが、その弊害とも言われるように、福祉・環境・建設・交通などの分野ごとに、まったく違う部署が横の連携なしに進めてきてしまっており、その結果、日本の地域(まち)は包括的な視点や総合的な思想を持たないものになってしまっている。
地域コミュニティにおける将来像として、「住民自身が地域を創り、支え合って、守っていく」という原点の考えも包含し、持続可能な次世代型まちづくりを構築していかなければならない。生き生き快活な高齢期を送るには、身体が健康であるだけでは不十分であり、生きがい・社会参加・地域貢献・多世代交流などの活力を生む処方箋が地域の中で求められる。そのためには目前に迫った高齢化の問題を、医療面だけでなく、心理面や社会・人間関係、生きがいを持った就労や経済活動、ひいては地域活性化などの視点も重要になってくる。すなわち、多面的な視点での「総合知※1によるまちづくり」として捉える必要がある。
※1 総合知:総合知を戦略的に推進する方策(総合知戦略)の検討について
参照。(2022年6月23日閲覧)
総合知によるまちづくり(地域活動)
個々人の健康寿命を延伸し、快活なまちづくりを目指す中で、従来の健康増進活動に基づき、体操教室をはじめとする住民活動などが推進されてきた現実がある。当然ながら、それらをさらに推進することも必要だが、高齢者はもっと多様(ダイバーシティ)な価値観や嗜好を持っている。活力ある地域社会を目指すにあたり、従来の枠組みにとらわれず、フレキシブルな戦略性の下、高齢者であっても、そして定年リタイアされた方であっても、前向きな気持ちを維持でき、住み慣れた地域において多様な選択肢に触れ合える環境が重要である。
そのためには、新たな住民同士の社会交流の場や輝ける場を通して、真の役割や真の居場所などが精力的に創出されることが必要になる。その中でも高齢期における就労・労働、地域貢献も含めたやりがいを感じる新たな住民ボランティア活動などというモデル性の高い選択肢を創出し、地域に根づかせたい。
「住民主体」という機運の醸成
住民が、自分の住むまちに対して興味を持ち、自ら積極的に地域の課題解決を図っていけるまちづくりを目指したい。そのためには、住民に地域の課題や将来の目標像や活動状況などの見える化が図られていることが必要なのであろう。さらには、住民がまちづくりに気軽に参画しやすい環境づくりも同時に必須なのであろう。また、単なる参加だけではなく、住民で議論した結果を、まちづくり(地域活動)に反映させていく仕組みも強化したい要素である。自分たちの住む地域の情報を知り、自分たちの期待する(目指すべき)姿をイメージしながら、その地域課題も抽出し、その解決方法を住民が自ら考え、そしてまとめる流れである。
やはり、従来のトップダウン的な風土(すでに決められている方針や具体的事業が無機質に舞い降りてくる雰囲気)が強いと、なかなか住民の自分事にはつながりにくい。住民自身の連絡会や住民対象のワークショップなどを積極的に開催し、「地域の将来像と現在すべきこと」、すなわち地域課題やその対応策などについて自分事として議論することで、住民が自分の住むまちに対して興味を持ってくれる。さらには、多様な活動に対する理解、人材発掘などにもつながり、より活力のある地域を構築できるのであろう。
その際に、配慮すべき点として、声の大きな人などの影響ではなく、多くの人の納得のもとにつくられるべきであり、自治体の協働に円滑に入れることも重要であろう。住民同士での緩やかな関係づくりを重視し、その仲間同士で継続的に活動していこうという風土が必要である。この風土づくりが住民参加型のまちづくりにおいて最も重要なポイントである。
より早期からの包括的フレイル予防を目指す:3つの柱
筆者は大規模高齢者コホート研究(柏スタディ:千葉県柏市をフィールドとする自立高齢者を無作為抽出、開始時の平均年齢73歳)を10年間にわたり縦断追跡している1)-3)。経時的変化を観察する中で、フレイルおよびフレイルの最大なる危険因子としてのサルコペニア(筋肉減弱)がどう顕著化され、それに対して特に身体機能だけではなく、幅広い社会性の要素がどのように関わるのかを明らかにする目的である。
この研究のエビデンスから、フレイル予防のためには「栄養(食/口腔機能)」「身体活動/運動」「地域とのつながり/社会参加」の3つに集約でき、それらを三位一体として包括的に底上げし、より少しでも早い時期からのフレイル予防・サルコペニア予防につなげることが重要であることがわかった4)(図1-A)。
さらに、仮説モデル検証により、サルコペニアをアウトカムとして設定すると、地域とのつながり/社会参加が上流に存在しながら、多様なルートでサルコペニアが進行することもわかった5)。そのエビデンスも踏まえ、筆者は、社会性が上流にある「フレイル・ドミノ」の考えを以前から提唱しており、その着眼点から出発している(図1-B)。
フレイルサポーター主体のフレイルチェック活動※2
従来の健康増進事業~介護予防事業を見つめ直し、総合知によるまちづくりという視点を持ち、新しい風を入れるべき時が来ている。そこで、筆者はフレイル予防のための3つの柱を住民同士で気づき、自分事化させ、意識変容~行動変容を促すため、「高齢住民フレイルサポーター主体のフレイルチェック」を構築し、全国展開の形で推し進めている(図2、図3)。
※2 地域におけるフレイル予防活動
参照。(2022年6月23日閲覧)
この取り組みは国行政から全国の自治体に強制的に下ろす施策ではなく、各自治体が自主的に導入する形をとっており、現在、同システムの下、85自治体に導入され、全国で多くのフレイルサポーターが活動してくれている。このフレイルサポーターのフレイルチェックは究極の地域貢献活動であり、参加住民1人ひとりの健康とwell-beingに結びつくものであると同時に、フレイルサポーター自身にも大きく役立っている。
フレイルサポーター主体のフレイルチェック活動におけるねらいと特徴、そして工夫点を以下に列挙する。
住民主体の集う場で笑いの絶えないエンターテインメント性を持ち、かつ科学的根拠を基にした心と身体の通知表をつけるチェックとなっている。さらに、全国の導入自治体で同じ方向性を見定めていることを十分認識しながら、しっかりと養成研修を受けた高齢住民フレイルサポーター自身が参加住民のロールモデルになり得るので、継続参加につながるように設計されている。
いかに個々人がより早期からのフレイル予防の重要性を容易に理解でき、周囲の仲間と一緒に行動変容につながるのかが鍵である。そのためには、地域事情や特性を把握している各自治体や民生委員、サロンづくりの主な担い手である社会福祉協議会等とも手を携えて、ともに効果的かつエンターテインメント性のある社会参加の場を創設していくことが重要である。
さいごに:地域貢献を軸とした生きがい
筆者が現在行っている新たな研究において、フレイルサポーターにおける「地域貢献を軸とした生きがい感」のステップアップを見える化している(図4)。図4にはフレイルサポーターにおける心境の推移を示したが、地域貢献活動を行っている「支え手側」の強い意識が醸成され、第1段階(スタートアップ:地域貢献へ着手、活動に慣れる、正確なデータ取得など)から徐々に第2段階(継続維持~スキルアップ:質の向上に向けてのこだわり、独自性のアイデア出し、チーム感の醸成など)に成長していく。さらには、第3段階(応用発展~深化:責任感、サポーター活動以外の多様な地域活動へ発展など)に進んでいくことがわかった。
目指す方向性の頂の高さを常に感じ、心地よさと同時に大きな達成感や充実感を得ることができている。そして、参加住民からの感謝の言葉と笑顔がフレイルサポーターたちの次なるエネルギー源になっていることは間違いない。フレイルサポーターたちの心の中には、「自分がまずは一歩踏み出そう!地域住民も一緒で仲間だ!自分のまち(地域)を皆で創ろう・守ろう・支え合おう、声をかけ合おう!そして、データにもこだわろう!」という気持ちで全国統一されている。
自治体主導の公的財源によるヘルスケアの活動にはある程度の限界が来ており、住民活力を中心とした自助互助のまちづくりを再度強化する必要がある。すなわち、高齢者の新しい社会参加のカタチも求められている。わが国が新たなステージに入るために、新旧のエビデンスを十分踏まえたうえで、行政改革も中心に置きながら、「まちぐるみでの包括的アプローチ」をいかに有効的に持続可能な形で達成するのかが鍵になるのであろう。それを実現し各地域に根づくことができれば、最終的にはわれわれが追い求める「Aging in Place」(住み慣れた地域で安心して自分らしく年を取ることができる社会)につながると確信している。
文献
- Tanaka T, Iijima K, et al.: "Yubi-wakka" (finger-ring) test: A practical self-screening method for sarcopenia and a predictor of disability and mortality among Japanese communitydwelling elderly. Geriatr Gerontol Int. 2018; 18(2): 224-232.
- Tanaka T, Iijima K, et al.: Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018; 73(12): 1661-1667.
- Kuroda A, Iijima K, et al.: Eating Alone as Social Disengagement is Strongly Associated With Depressive Symptoms in Japanese Community-Dwelling Older Adults. J Am Med Dir Assoc. 2015; 16(7): 578-585.
- Weida L, Iijima K, et al.: Associations of multi-faceted factors and their combinations with frailty in Japanese community-dwelling older adults: Kashiwa Cohort Study. Arch Gerontol Geriatr. 2022 (in press).
- Tanaka T, Iijima K, et al.: Impact of social engagement on the development of sarcopenia among community-dwelling older adults: A Kashiwa cohort study. Geriatr Gerontol Int.2022; 22(5): 384-391.
筆者
- 飯島 勝矢(いいじま かつや)
- 東京大学高齢社会総合研究機構機構長
東京大学未来ビジョン研究センター教授 - 略歴
- 1990年 東京慈恵会医科大学卒業、千葉大学医学部附属病院循環器内科入局、1997年 東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座助手・同講師、2002年 米国スタンフォード大学医学部研究員、2005年 東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座講師、2011年 東京大学高齢社会総合研究機構准教授、2016年 東京大学高齢社会総合研究機構教授、2020年より現職
- 専門分野
- 老年医学、高齢者医療、総合老年学(ジェロントロジー)
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