超高齢者の転倒予防ケアプラン
公開月:2022年1月
鳥羽 研二(とば けんじ)
東京都健康長寿医療センター理事長
転倒骨折は、寝たきりの3番目の原因として重要である。
転倒は自宅では個人の責任、病院の敷地に一歩入ったとたんに医療機関の責任という奇妙な構図に誰も異論を唱えず、「転倒」が内的因子と外的因子の双方から起きる症候であるにもかかわらず、外的因子は「バリアフリー」、内的因子は施設や院内の「事故防止委員会」などがもてはやされ、リスクマネージメントの対象とされてきた。
転倒スコアは環境要因も得点化し、再現性、妥当性、有用性を検討した、唯一のリスク評価法である1)。
転倒スコア下位項目は各ケアプラン策定の項目になる。
転倒スコアの研究から、重要な5つの因子が抽出され、猫背やつまずきが危険因子として抽出されたことから、姿勢と転倒、脳と転倒に着目して研究が継続され、歩行と転倒の動的観察に基づき、足関節筋力と柔軟性、膝関節屈曲、脊椎後弯と転倒の関連を明らかにし、姿勢による転倒危険度を測定する「Dorsiflex meter」(足首背屈角度測定器)が開発され、実用に至っている2)。
また、転倒のメカニズムの研究から、重点的に行うべきストレッチ、筋力向上の部位が示され、簡便な転倒予防体操や有効な履物が明らかになった。バランス、つまずきと脳虚血の関連を調査し、血圧や脳循環の影響が明らかになり、予防薬開発への基礎的データとなった。高齢者の転倒は疾患であり、事故ではない。われわれの日本7地域の住民調査で、転倒者と非転倒者の環境要因を比較したところ、家の中の段差は「段差あり」が両者とも69%でまったく差がなく、階段の使用も、坂道も差がなかった。差があった項目は、「家の中が片付いていない」、「家の中が暗く感ずる」といった、整頓や照明の工夫で対処できるものであり、事故というより身体的原因に起因する「疾患」「症候群」として転倒を捉え、転倒予防にかける経費は、バリアフリーより身体的な工夫を生かした「予防医療」に注がなくてはならない。
今後急増する超高齢者(80歳以上)の転倒について改めてサブ解析したところ、転倒スコアの平均値は10を超え、半数以上が転倒危険者(カットオフ値9/10)であった。単一の因子が独立して危険因子とはならず、加齢と転倒スコア総数、ポリファーマシーが重要な因子であった。80歳以上の高齢者では、すべての老年症候群を洗い出し、処方の前に、非薬物療法として、それぞれの病態に適切なケアプランをすることが転倒予防に役立つと思われる。
本特集では、地域、病院、施設の転倒の実態を斯界(しかい)のアクティブな研究者、臨床従事者に執筆を依頼した。従来転倒について「なぜ」と思われていたことに対し、「そうだったのか」という読後感がいただければ幸いである。
文献
- 鳥羽 研二, 大河内 二郎, 高橋 泰, 他:転倒リスク予測のための「転倒スコア」の開発と妥当性の検証. 日本老年医学会雑誌 2005; 42(3): 346-352.
- Toba K, Nagai K, Kimura S, et al.: New dorsiflexion measure device: a simple method to assess fall risks in the elderly 2012; 12(3): 563-564.
筆者
- 鳥羽 研二(とば けんじ)
- 東京都健康長寿医療センター理事長
- 略歴
- 1978年:東京大学医学部卒業、同附属病院医員、1984年:同助教授、1989年:テネシー大学生理学研究員、1996年:フリンダース大学老年医学研究員、東京大学医学部助教授、2000年:杏林大学医学部高齢医学主任教授、2006年:杏林大学病院もの忘れセンター長(兼任)、2010年:国立長寿医療研究センター病院長、2014年:同センター理事長・総長、2019年より現職
- 専門分野
- 老年医学
- 過去の掲載記事
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