「貢献寿命」の延伸を
公開月:2021年10月
秋山 弘子(あきやま ひろこ)
東京大学名誉教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授、東京大学高齢社会総合研究機構客員教授
紀元前に秦の始皇帝が不老長寿の薬を探すよう命じたように、古来、長寿は人類の夢であった。長生きするために個人も社会も努力し、多大な資源をつぎ込んだ。そして、20世紀後半に先進国の平均寿命が75歳を超えた頃、寝たきりで長生きしている人や定年後を無為に過ごす人が目につくようになり、「粗大ごみ」「濡(ぬ)れ落葉(おちば)」が流行語になった。元気で長生きする「健康寿命」の延伸が提唱されたが、いまだに平均寿命と健康寿命にはギャップがあり、健康寿命の延伸は引き続き重要課題である。
一方、私たちは長生きするだけでなく、元気で長生きするようになったことも事実である。国際的に元気度の簡便な指標とみなされている通常の歩行速度を同年齢層で比較すると、過去10年間で5~10歳くらい若返っている。国民の実感としても、今や60代で自分は高齢者だと思っている人は少ない。定年は余生ではなくセカンドライフ、もうひとつの新しい人生の出発点だと考える人が多くなった。セカンドライフの設計は自由だ。
社会の変化をみると、少子高齢化で生産年齢人口の減少が著しく、社会保障制度のみならず国の経済の持続可能性が危ぶまれる。今日の高齢者は前世代と比べて元気で、高等教育を受けている。しかも多くの高齢者は支えられる側よりも支える側、現役でいたいと願っている。
75歳くらいまで現役でいれば、社会の持続可能性は大幅に好転する。新卒の若者と異なり、体力、自由になる時間、経済状態、価値観において多様な高齢者が各人の強みを活かして無理のない範囲で働ける社会の仕組みをつくる必要がある。ロボットやAI技術は多くの不可能を可能にするであろう。
何歳になっても社会とつながり役割を持って生きる、収入を伴う仕事に限らず、些細なことでも「ありがとう」と感謝される「貢献寿命」の延伸は、個人と社会のwell-beingに資する。
世界最長寿国の日本が「健康寿命」の次なる目標としてモデルを示すことが期待される。
筆者
- 秋山 弘子(あきやま ひろこ)
- 東京大学名誉教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授、東京大学高齢社会総合研究機構客員教授
- 略歴
- 1984年:イリノイ大学Ph.D(心理学)取得、1985年:米国国立老化研究機構(National Institute on Aging)フェロー、1987年:ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、1997年:東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)、2009年:東京大学高齢社会総合研究機構特任教授、2020年より現職
- 専門分野
- ジェロントロジー(老年学)
- 高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を30年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。近年は長寿社会のニーズに対応するまちづくりや産官学民協働のリビングラボにも取り組む。人生100年時代にふさわしい生き方と社会のあり方を追求
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