第2回 夏の養生
公開月:2021年7月
杉山 卓也
薬剤師、漢方アドバイザー、神奈川中医薬研究会会長
高温多湿の日本の夏は湿気が多く、近年では温暖化の影響なのか地域によっては四十度近くまで気温が上がる場所もあります。昼夜問わず暑さが続くこと、そしてこの高い湿度が合わさることで夏特有の体調不良を起こします。
夏場に特有の邪気と呼ばれる「暑邪(しょじゃ)」による発汗は体内のエネルギーである「気」と体内の潤いである「陰」の両方を消耗します。これにより頭がぼおっとしたり、ほてりが出たり動悸が出たりします。夏の時期は五臓でいうところの「心(しん)」に負荷がかかりやすい時期です(図)。心とは臓器としての心臓の働きも含みますが、大量の発汗に伴い体の水分が失われてしまうと血液が凝縮し、心臓にも大きな負担がかかります。
こうした夏の暑さに対して冷たい水をがぶ飲みしてしまうと胃が冷やされてしまい、消化吸収の働きをコントロールする五臓のひとつ「脾(ひ)」の働きが低下してしまいます(図)。
脾は飲食により体にとって不可欠な気血水(きけつすい)という栄養成分をつくり出す重要な働きを担っており、脾の働きが悪くなってしまうことで気血水の生成に不具合が生じ、疲労感、貧血、渇きやほてりという不調が起こりやすくなります。
水分摂取は大切ですが、冷えたものを一度に大量に飲むということは避け、常温程度の水分(できれば麦茶やうすめたスポーツドリンクなどミネラルや電解質を含むものがよいでしょう)をゆっくり少しずつ摂るのがお勧めです。
一方、部屋と外との温度は冷房のために大きな寒暖差を起こすことになり、体の温度調節機能が追いつかなくなってしまうことで自律神経のバランスが崩れ、不調を起こす人も増えます。できれば冷房の温度は高めに設定しておくことが大切です。
夏の食養生としては夏の暑さを冷ましてくれつつ、夏に弱りやすい胃腸をいたわる作用を併せ持つ、きゅうり、スイカ、トマト、ナスなどの夏野菜を中心に、夏の消耗を改善する鶏肉、山芋などもよいでしょう。「旬の食材を活かしていく」というのは、どの季節においても有効な食養生です。ただし食べすぎにはご注意を。
夏に用いる漢方薬としては暑さでの消耗を防ぐ「生脈散(しょうみゃくさん)」や「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」などが有効です。暑さで消耗する「気(き)」や「陰(いん)」を補ってくれるよい漢方薬です。また、冷たいものの摂りすぎなどでお腹をこわしたり、胃腸の調子が悪くなったりした方には「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」という漢方薬がよく効きます。冷房などによる夏風邪にもよく効く漢方薬ですので、覚えておかれると非常に便利です。いずれも服用される方の体質や病状に合わせて服用していただくと、夏バテ、夏負けの予防や改善に非常に役立つでしょう。
最後に気持ちの持ち方として「心静自然涼(しんせいしぜんりょう)」ということわざがあります。これは「夏の暑さにイライラするとよけいに暑さが増す、ゆったりとした気持ちでいるほうが涼しい」というもの。これは真理ですね。暑い夏を養生知識でどうか元気にお過ごしください。
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