高齢者特発性間質性肺炎の治療
公開月:2021年7月
中山 勝敏(なかやま かつとし)
秋田大学大学院医学系研究科呼吸器内科学講座教授
はじめに
間質性肺炎は、肺組織の間質である肺胞隔壁を主座とした炎症や線維化をきたす病態である。膠原病(こうげんびょう)性、薬剤性、過敏性肺炎など原因の明らかなものと、原因の不明なものがあり、後者を特発性間質性肺炎(Idiopathic Interstitial Pneumonias:IIPs)と呼ぶ。
IIPsは多種の病態を含んでおり、現在、国際分類上9つの病型に分けられる。その中で、患者数が最多である特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis:IPF)は最も重要な病型であり、慢性進行性で予後不良である。IIPsの分類は、IPFの鑑別を目的として、時代に合わせて改訂されてきた側面がある。IPFの鑑別は治療面においても重要で、IPFは他のIIPsと異なり、ステロイドが無効で抗線維化薬を用いることになる。
本稿では、IIPsの分類の概要と各病型の治療について述べる。特にIPFの最新の知見や抗線維化薬の臨床試験の結果を加え、またこれら治療の高齢者における注意点を解説する。
特発性間質性肺炎の分類と診断の概要1)
IIPsは病理組織や高分解能CT(HRCT)における形態学的パターンに基づいて、以下の9型に分類される。すなわち、1.特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis:IPF)、2.非特異性間質性肺炎(Nonspecific Interstitial Pneumonia:NSIP)、3.特発性器質化肺炎(Cryptogenic Organizing Pneumonia:COP)、4.急性間質性肺炎(Acute Interstitial Pneumonia:AIP)、5.剥離性間質性肺炎(Desquamative Interstitial Pneumonia:DIP)、6.呼吸器細気管支炎を伴う間質性肺疾患(Respiratory Bronchiolitis-associated Interstitial Lung Disease:RB-ILD)、7.リンパ球性間質性肺炎(Lymphocytic Interstitial Pneumonia:LIP)、8.PPFE(Pleuroparenchymal Fibroelastosis:PPFE、正式な和訳用語はなくPPFEのまま使用)、9.分類不能型IIPs(unclassifiable Idiopathic Interstitial Pneumonias:unclassifiable IIPs)である。
これらの病型は表のような系統的な整理がされており、その頻度により、「主要なIIPs」、「まれなIIPs」、「分類不能IIPs」の3つに分類される。さらに主要なIIPsは、「慢性線維化性」、「急性/亜急性」、「喫煙関連」の3つに分類される。
IIPsの分類 | 臨床病理学的疾患名 | 病理組織パターン(本文参照) | HRCT所見 | 薬物治療の概要 | 欧米での頻度6)(n=102) | 日本での頻度7)(n=606) | |
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頻度等による大分類 | 主要なIIPsの病型分類 | ||||||
主要なIIPs | 慢性線維化性 | IPF:特発性肺線維症 | UIP |
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63 (62%) |
319 (52.6%) |
NSIP:非特異性間質性肺炎 | NSIP |
|
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14 (14%) |
104 (17.2%) |
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急性/亜急性 | COP:特発性器質化肺炎 | OP |
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4 (4%) |
2 (2%) |
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AIP:急性間質性肺炎 | DAD |
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2 (2%) |
9 (1.5%) |
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喫煙関連 | DIP:剥離性間質性肺炎 | DIP |
|
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10 (10%) |
29 (4.8%) |
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RB-ILD:呼吸器細気管支炎を伴う間質性肺疾患 | RB |
|
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まれなIIPs | LIP:リンパ球性間質性肺炎 | LIP |
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- | 14 (2.5%) |
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PPFE | PPFE |
|
|
その他として 9 (8%) |
その他として 74 (12.2%) |
||
分類不能 | unclassifiable IIPs:分類不能型IIPs | unclassifiable IIPs | - | - |
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IIPsは病型によって治療方針が異なる。以下に、まずIPFを中心にその診断と治療について解説し、その後、他のIIPsについて概要を述べる。
IPF(特発性肺線維症)1),2)
1. 診断
IPFはIIPsの中で最も頻度が高く、予後不良であり、最重要の疾患といえる。北海道在住患者を対象とした疫学研究によれば、IPFの罹患率は10万対2.2、有病率は10万対10であった。生存中央値は35か月であり、死因として急性増悪(40%)、慢性呼吸不全(24%)、肺がん(11%)が上位を占める3)。
IPFの臨床症状は、慢性進行性の乾性咳嗽(がいそう)と労作時呼吸困難で、半年以上の経過で初受診することも多い。画像所見として、両側中下肺野・胸膜直下優位にびまん性網状影、牽引性気管支拡張、蜂巣肺(1cm以下の壁の厚い嚢胞(のうほう)性病変の集簇(しゅうぞく))を認める。特に蜂巣肺は重要で、「胸膜直下優位の不均等分布」+「蜂巣肺」の画像所見はUIP(通常型間質性肺炎)パターンとされ、これに特発性と臨床像の合致をみれば、病理診断がなくともIPFの診断は可能とされる。また、「胸膜直下優位の不均等分布」+「牽引性気管支拡張を伴う網状影」はprobable UIPパターン(UIPの可能性)、線維化の分布と陰影がUIPとも他のパターンとも言い切れない場合をindeterminate for UIP(UIP確定できず)、明らかに他の疾患を示唆するものはalternative diagnosis(UIP以外)と分類される。
病理所見としては、「小葉・細葉辺縁分布」、病変部に正常肺が介在する「病変の空間的時間的不均等性」、活動性病変と考えられる「線維芽細胞巣」の存在が重要とされ、これも確診度に応じた付記がつけられる。
次に実際のIPFの診断の流れを図に示す4)。前述のように、IIPsの分類はIPFの鑑別診断から発展してきた側面があり、IPF診断の方針がIIPs鑑別診断の柱となる。図の左側「可能性のある原因/関連する状況→No」以下がIIPsにおけるIPFの診断アルゴリズムとなる。症状(乾性咳嗽、労作時呼吸困難)、身体所見(ばち指、肺底部捻髪音)、検査所見(拘束性換気障害、6分間歩行での低酸素血症、KL-6・SP-D・SP-Aの高値)、疾患の挙動(慢性線維化性、進行性)、画像所見(HRCTでのUIPパターン)、病理所見(生検肺標本におけるUIPパターン)等を指標とし、可能であれば、呼吸器科医、放射線科医、病理医を中心とした多分野による集学的検討(Multidisciplinary Discussion:MDD)により、診断の確度を上げることが望ましいとされる。
Reprinted with permission of the American Thoracic Society. Copyright (c) 2021 American Thoracic Society. All rights reserved., Raghu G, Remy-Jardin M, Myers JL, et al. 2018, Diagnosis of Idiopathic Pulmonary Fibrosis. An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 198(5): e44-e68.4) , The American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine is an official journal of the American Thoracic Society. The authors, editors, and The American Thoracic Society are not responsible for errors or omissions in translations.
UIP: 通常型間質性肺炎、probable UIP: UIPの可能性、indeterminate for UIP: UIP確定できず、alternative diagnosis: UIP以外、MDD: 多分野による集学的検討、BAL: 気管支肺胞洗浄probable UIP: UIPの可能性、indeterminate for UIP: UIP確定できず、alternative diagnosis: UIP以外、MDD: 多分野による集学的検討、BAL: 気管支肺胞洗浄
2. 慢性安定期の管理・治療
IPFの病態は、気道上皮細胞の慢性的傷害から慢性の線維化が生じるものと考えられ、炎症の重要性は否定されている。このため慢性安定期のIPFに対して、ステロイドや免疫抑制薬は用いられず、ピルフェニドンやニンテダニブの抗線維化薬が第一選択薬となる。ピルフェニドンは、初回200mg×3回/日から開始し、2週間を目安に400mg×3回/日へ、さらに600mg×3回/日へ増量し、継続する。肺活量の低下抑制、急性増悪の抑制、死亡リスクの軽減が示唆されている。
有害事象としては、消化器症状と光線過敏症が重要である。ニンテダニブは、150mg×2回/日内服するが、肺活量の低下抑制、急性増悪の抑制が示されている。有害事象の中心は下痢であり、時に高度になりうる。これら抗線維化薬は、病勢の進行抑制効果は示されているが完治はむずかしく、患者に対するインフォームド・コンセントが必要となる。
治療効果の判定には、肺活量(VC)や肺拡散能(DLCO)など肺機能、6分間歩行試験、HRCTでの画像所見、KL-6やSP-Dなど生化学指標のほか、咳嗽や呼吸困難を評価する。評価は治療開始3~6か月後に行い、悪化が軽減され副作用が問題とならなければ、治療継続を基本とする。
また、非薬物療法として、肺移植も考慮される。その他、在宅酸素療法、呼吸リハビリテーション、日常生活管理(禁煙、感染予防、胃食道逆流対策、精神的配慮と福祉、定期的診察)、合併症(肺がん、気胸・縦隔気腫、肺高血圧、感染症)の対策が挙げられる。急性増悪については次項で述べる。
3. 急性増悪
急性増悪とは、IPFの慢性経過中に両肺野に新たな浸潤影の出現とともに急速に呼吸不全の進行がみられる病態であり、IPFの死因の4割を占める。慢性進行性であるIPFにAIPやARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome:急性呼吸促迫症候群)の病理であるびまん性肺胞傷害(Diffuse Alveolar Damage: DAD)が合併した病態と考えられる。急性憎悪はIPF以外の慢性間質性肺炎にも起こる。発症機序は不明だが、ステロイド減量、手術、薬剤、ウイルスや病原微生物、胃食道逆流などがトリガーとなる。
治療としては、十分なエビデンスはないが、ステロイドの全身パルス療法が行われる。メチルプレドニゾロン500~1,000mg/日×3日間の点滴静注を1週間間隔で1~2コース(最大4コースまで)施行し、その後療法として経口プレドニゾロン(PSL)0.5~1.0mg/kg/日で投与後、漸減が行われる。これに加えて免疫抑制薬(シクロスポリン、シクロフォスファミド、タクロリムスなど)の併用も報告されている。
その他、急性増悪の病態として好中球の活性化や各種の炎症性メディエーターの関与が考えられることから、好中球エラスターゼ特異的阻害薬(シベレスタット)による好中球由来組織傷害の抑制療法やポリミキシンカラム(PMX-DHP)によるエンドトキシンや炎症性メディエーターの除去療法などが試みられている。
IPF以外のIIPs1)
1. NSIP(非特異性間質性肺炎)
NSIPは、亜急性~慢性の経過で、咳嗽、呼吸困難を主症状に発症する。平均年齢は50歳前後、IPFに比して非喫煙者が多く、女性が多い。
画像所見としては、両側下肺野優位のすりガラス影、細かい網状影、牽引性気管支拡張を認める。病変の分布として、気管支血管束周囲優位の分布と逆に胸膜直下の肺病変が少ない(subpleural sparing)ことが特徴的とされる。肺容積の低下を認め、呼吸能検査でもVCの低下を認め、拘束性換気障害を呈する。
NSIPの病理所見は、症例により、cellular NSIPとfibrotic NSIPに分けられる。いずれも病変の分布は気管支血管束周囲や小葉内においてびまん性均一性に分布するが、cellular NSIPはリンパ球浸潤を認め肺構造が保たれているのに対し、fibrotic NSIPは線維化病変が目立ち細胞浸潤は少なめで、一部に肺構造の改築も認める。
NSIPの治療はcellular NSIPとfibrotic NSIPで異なる。cellular NSIPはステロイド単独治療に対する反応性もよく、予後は良好とされている。PSL0.5~1.0mg/kg/日を初期量とし、反応性を評価し2~4週ごとに5mgずつ減量する。一方、fibrotic NSIPはステロイド単独治療でしばしば増悪を繰り返す。これに対し、ステロイド+免疫抑制剤(シクロスポリン、シクロフォスファミド、タクロリムスなど)の併用療法が有効との報告がある。この場合、ステロイドはPSL0.5mg/kg/日で4週間、次いで2~4週ごとに5mgずつ減量し、10mg/日または20mg/隔日投与にて維持する。また、fibrotic NSIPkの場合、抗線維化薬も考慮される。IPF以外の進行性間質性肺炎患者を対象にしたニンテダニブの臨床試験(INBUILD試験)において、登録患者の約20%がNSIPであったことからニンテダニブはfibrotic NSIPの治療選択肢のひとつと認められている。
急性増悪時の治療については、IPFの項に準じる。
2. COP(特発性器質化肺炎)
COPは、臨床的には比較的急性の経過で息切れ・発熱・倦怠感などの症状と斑状・浸潤影の画像所見を呈し、さながら市中肺炎に類似するが、陰影は再発性、移動性を示し、抗菌薬に反応しない。組織学的には肺胞腔内の器質化病変を特徴とする。病変部では浮腫とまばらな線維化を伴って線維芽細胞が増生し、末梢気腔内にポリープ型器質化病変を形成して気腔を閉塞している。病変部の肺構造はよく保たれ、構造改築は認められない。
治療としては、ステロイドに非常によく反応し、数週間から3か月以内で改善する。PSL 0.5~1mg/kg/日を4~8週投与後、2~4週ごとに5mgずつ漸減する。漸減中の再燃に注意する。
3. AIP(急性間質性肺炎)
臨床症状は、呼吸不全が急速に進行する急性呼吸促迫症候群(ARDS)と類似しており、特発性のARDSと考えられている。予後は不良で、入院死亡率は50%以上との報告がある。発熱・乾性咳嗽など感冒様症状に引き続き、数日から数週間の経過で急速に呼吸困難が進行する。
画像所見としては、両側肺野の特に背側に優位なすりガラス陰影や浸潤影を認める。病理所見としてはDiffuse Alveolar Damage (DAD)と呼ばれる進行性病変を呈し、これは時間経過により、滲出期(しんしゅつ)、増殖期、線維化期に分けられる。滲出期は間質の浮腫、硝子膜の形成、肺胞腔への液性滲出を主体とし、増殖期は滲出物の器質化、肺胞壁内線維芽細胞の増生、血管内皮の腫大、2型肺胞上皮の増生を認める。さらに進行すると密な膠原線維の増生と周囲肺胞の虚脱、逆に肺胞間の拡張による蜂巣肺類似の所見が認められる。
薬物療法として確立した治療法はない。主に酸素療法や補助換気療法といった支持療法が中心となり、ARDSに準じて低容量換気による肺保護換気が勧められる。その他の治療方針はIPFの急性増悪に準ずる。
4. DIP(剥離性間質性肺炎)
DIPは、全IIPsの3%未満とまれな疾患であり、多くは30~40歳代の喫煙者で男性に多く、喫煙に関連する。咳嗽や呼吸困難が数週間~数か月の経過で進行し、画像所見としては、下肺野優位のすりガラス陰影を呈し、線維化所見に乏しい。病理所見としては、末梢気腔内にPAS陽性顆粒を持つ褐色マクロファージが広範・高度に滲出するが特徴的である。当初は、この肺胞マクロファージの集簇が剥離した2型肺胞上皮と誤解されたため、DIPの名がつけられ、現在も使用されている。
治療として、禁煙とステロイドに反応し、10年生存率は70%以上とされている。
5. RB-ILD(呼吸器細気管支炎を伴う間質性肺疾患)
呼吸細気管支炎を伴う間質性肺炎であり、喫煙に関連する。乾性咳嗽や労作時呼吸困難を症状とし、画像所見として気管支肥厚やすりガラス影、粒状影を認める。病理所見としては、呼吸細気管支および周辺に軽度の線維化を示し、同部位の気腔に褐色肺胞マクロファージの滲出を認める。
治療として、禁煙が最も重要かつ有用である。反応不良の場合にはステロイドを考慮する。一般に予後は良好である。
6. LIP(リンパ球性間質性肺炎)
リンパ球が肺胞隔壁にびまん性に浸潤する疾患であり、まれな疾患である。女性に多く、数年に及ぶ慢性進行性の咳嗽・呼吸困難を呈し、画像所見として両側下肺野優位の網状影、すりガラス影を認める。病理所見としては、異型のない分化したリンパ球を主体とした肺胞壁への著明な細胞浸潤を特徴とし、進行例では線維化や肺構造の改築も認められる。濾胞形成や嚢胞形成も認められる。
症例が少ないため治療は経験的なものとなるが、コルチコステロイドを中心とし、シクロフォスファミドなどの免疫抑制剤も用いられる。
7. PPFE
PPFEは両側上肺野を主座とする慢性経過の肺線維症である。年齢に幅があり、若年発症もまれでない。本邦で報告されている「網谷病(特発性上葉限局性肺線維症)」もこの疾患概念に含まれると考えられる。臨床症状としては、咳嗽、呼吸困難の他、るい痩、胸郭扁平化、気胸などは特徴的な症状である。
画像所見としては、両側肺尖(はいせん)部から上肺野の胸膜直下を主体とした楔状(けつじょう)・帯状の線維化病変であり、気管支血管束の肥厚に連続している。近傍に嚢胞(間質内気腫)や気管支拡張像を伴う。この病変はapical cap(肺尖部に見られる無気肺硬化型の非特異的な線維性病変)と同様の病変であり、胸膜病変ではない。病理的には、硬い線維化病変が胸膜直下から肺実質へ進展しており、肺胞隔壁は著明な弾性繊維の増加を伴って畳み込まれ、気腔は膠原繊維により置換されている。IPFに比して弾性繊維増生が目立っており、病態の相違をうかがわせる。
治療として、ステロイドや免疫抑制薬は推奨されない。抗線維化薬も本病態に対する有効性は報告されていない。肺移植が現時点での最も有効な治療であるが、高度な胸膜肥厚や胸郭変形等により、技術的な困難が生じる場合もある。
8. unclassifiable IIPs(分類不能型IIPs)
前述の8つの病型を基にMDDを行っても最終診断が得られない場合、分類不能型IIPsとする。特に、臨床、画像、病理の所見の間で大きな不一致を認める場合や、必要な検査情報が得られない場合などが相当する。具体的には、1.臨床、画像、病理のデータが不十分な症例、2.治療の影響により原病型が不確定の症例、3.新規な疾患病態の症例、4.複数の病型が併存する症例が挙げられる。
分類不能型IIPsは、不均一な疾患群であり、治療・管理も個々の症例によらざるを得ない。一般に急性/亜急性進行例では、ステロイド薬、ステロイド薬+免疫抑制薬が考慮され、慢性進行性の症例では、抗線維化薬が検討される。また、BALF(気管支肺胞洗浄液)中でリンパ球や好酸球が優位であれば、ステロイド薬の効果が期待できる場合が多い。
高齢者におけるIIPsの管理・治療に関する注意事項5)
高齢者におけるIIPsの管理・治療に関しては、「IIPs 特にIPF病態におけるフレイル」、「IIPsに対する薬物療法に関する有害事象」の2つが重要である。
1. 高齢者IPF病態におけるフレイル
IPFでは、労作時呼吸困難やるい痩によりADLや意欲が低下し、フレイル状態に陥りやすい。これに対して在宅酸素療法や経口的栄養補助により症状の緩和を図り、介護保険の各種サービスや呼吸リハビリを用いて、ADLや意欲を維持しフレイルを予防することが有用である。
また、抗線維化薬は肺機能低下の軽減や増悪の予防が期待されており、次項の有害事象に留意したうえで、重要な治療のオプションとなる。
一方、気胸や感染症はしばしば合併し、呼吸不全を増悪させることから、気管支治療による咳嗽の軽減や感染予防は重要である。さらに生命予後を規定する合併症として急性増悪、肺がん、肺高血圧が挙げられ、定期的な受診でのチェックアップが大切である。
2. 高齢者IIPsに対する薬物療法に関する有害事象
高齢者は肝臓・腎臓の機能低下や細胞内水分・血清アルブミンの減少により、薬物代謝・排泄機能も薬物緩衝効果も低下している。したがって、有害事象が起きやすく、薬物治療の開始、用量の設定については、リスクとベネフィットを考慮し、十分なインフォームド・コンセントのもとに行う必要がある。
特にIPFで用いられる抗線維化薬(ピルフェニドンやニンテダニブ)については、有害事象として下痢・食思不振・肝機能障害等の消化器症状が重要である。ピルフェニドンでは光線過敏症も重要となる。時に重篤となり、ADLの低下からフレイルに陥ることもある。2剤とも肝代謝型薬剤であり、有害事象発現の場合は減量や休薬を考慮する。減量の目安としてピルフェニドンは400mg×3回/日、ニンテダニブは100mg×2回/日が示されている。
文献
- 日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎診断と治療の手引き(改訂第3版).南江堂,2016.
- 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策事業「びまん性肺疾患に関する調査研究」班 特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会編:特発性肺線維症の治療ガイドライン2017.南江堂,2017.
- Natsuizaka M, Chiba H, Kuronuma K, et al.: Epidemiologic survey of Japanese patients with idiopathic pulmonary fibrosis and investigation of ethnic differences. Am J Respir Crit Care Med. 2014; 190(7): 773-779.
- Raghu G, Remy-Jardin M, Myer JL, et al.: Diagnosis of idiopathic pulmonary fibrosis. an official ATS/ERS/JRS/ALAT clinical practice guideline. Am J Respir Crit Care Med. 2018; 198(5): e44-e68.
- 坂本晋: 間質性肺炎の治療とフレイル.フレイル対策シリーズ3 呼吸器系と健康長寿・フレイル対策.先端医学社, 2020, 48-54.
- Bjoraker JA, Ryu JH, Edwin MK, et al.: Prognostic significance of histopathologic subsets in idiopathic pulmonary fibrosis. Am J Respir Crit Care Med. 1998; 157(1): 199-203.
- 千田金吾:NSIPは独立した疾患か? 日呼吸会誌 2004; 42(1): 17-22.
筆者
- 中山 勝敏(なかやま かつとし)
- 秋田大学大学院医学系研究科呼吸器内科学講座教授
- 略歴
- 1995年:東北大学大学院医学研究科内科学専攻修了、1999年:東北大学病院老年・呼吸器内科助手、2001年:米国コーネル大学遺伝子医学教室留学、客員研究員、2005年:東北大学病院老年・呼吸器内科講師、2007年:東京慈恵会医科大学呼吸器内科講師、2008年:同准教授、2018年より現職
- 専門分野
- 呼吸器内科
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