COVID-19による高齢者の活動への影響と社会参加
公開月:2021年4月
山田 実(やまだ みのる)
筑波大学人間系教授
はじめに
2019年に発生したとされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は瞬く間に全世界に拡大し、2020年3月には世界保健機関(WHO)よりパンデミック宣言が、2020年4月には日本政府より1回目の緊急事態宣言が発出された。当初、医療機関はこの新興感染症対応のために逼迫(ひっぱく)、行政機関も対応に追われるなど、国内は混乱を極めた。また、この緊急事態宣言中には、教育機関は休校またはオンライン授業に、各企業では在宅ワークが推奨、食料品などの必需品を除くショッピングセンターは休業状態となるなどわれわれの生活状況は一変した。
感染経路を探る中で、密接、密集、密閉といういわゆる「3密」を回避することの重要性が報告され、感染予防のため「3密」や「stay home」という用語がしきりに用いられることとなった。テレビ、ラジオ、新聞、インターネットなどによって、この「3密」、「stay home」という感染予防に関する用語がたびたび報じられたことで、わが国では爆発的な感染拡大を防ぐことに成功した。しかし、同時に感染予防は活動機会を著しく制限することとなり、緊急事態宣言中には若年世代を含む、全世代で身体活動量が減少したと考えられている。
2020年5月末には1回目の緊急事態宣言も解除され、少しずつ日常を取り戻すこととなったが、以降も感染は留まることなく、また「新たな生活様式」の確立が求められるようになった。2021年1月には一部の地域で緊急事態宣言が再発出され、完全回復には今もなお、ほど遠い状況にある。
COVID-19感染拡大と高齢者
COVID-19の感染拡大によって、大きな影響を受けたのは高齢者であろう。COVID-19の感染が確認されるようになった初期から、基礎疾患を有する高齢者では重篤化しやすいことが報道され、高齢者の活動は著しく制限されることとなった。また、各地域で行われていた介護予防・生活支援サービス事業は中止、通いの場などの住民主体活動には中止要請、介護予防普及啓発事業・地域介護予防活動支援事業なども開催が見送られるなど、介護予防活動も大きな制約を受けた。これは緊急事態宣言解除後も続いている状況にあり、「感染予防と介護予防の両立」は超高齢社会が抱えた深刻な課題となっている。
COVID-19の感染拡大により、身体活動量や社会活動量の減少が長期化することで、フレイルを発症・進展させ転倒、入院、要介護などの有害健康転帰を招きやすくなることは言うまでもない。フレイルには、身体的要素のみならず心理・精神的要素、さらには社会的要素が含まれ、いずれの要素も日常生活の制限に影響することが報告されている1)-4)。そのため、フレイル対策としては、これら要素の活動レベルを引き上げることが重要視され、特に身体的フレイルに関しては、身体活動(運動)を実施することによる効果が多数報告されている5)。
わが国では以前より、このような身体活動や社会活動が制限されやすい状況として、自然災害の問題が取り上げられていた。2011年に発生した東日本大震災では、被災された高齢者において、その後に運動機能が低下することや、要介護となる方の割合が多く6),7)、身体的および社会的な活動の制約が影響していると考えられた。COVID-19の感染拡大は、自然災害に類似するように国民の活動を制限させ、またこの影響は全国的なものとなった。
COVID-19感染拡大に伴う身体活動の変化
COVID-19の感染が拡大する中で、身体活動に及んだ影響は深刻であった。われわれは、インターネット調査により、2020年4月(1回目)の緊急事態宣言中における高齢者1,600名の身体活動量を調査した8)。その結果、2020年1月時点(COVID-19感染拡大前)の1週間当たりの身体活動時間(中央値)が245分であったのに対して、2020年4月時点(緊急事態宣言中)には180分にまで、つまり約3割も減少していた(図1)。なお、携帯電話の活動量データに基づいて分析を行った研究(全世代対象)でも、この期間に約3割の減少が認められており9)、COVID-19パンデミックは身体活動量を大幅に減少させたことが示唆されている。
一方、2020年5月下旬には1回目の緊急事態宣言も解除され、企業では在宅ワークを段階的に解消、教育機関もオンサイトでの授業を段階的に再開、ショッピングセンターやレストランも営業を再開するようになり、国民の活動量も徐々に回復することとなった。1回目の緊急事態宣言中に3割もの減少が認められた高齢者の身体活動であるが、6月下旬には元の水準にまで回復10)(図2)、活動量の低下が長期化するという深刻な事態からは脱出することができた。
しかし、すべての高齢者でこのような回復が得られたわけではない。独居で近隣住民との交流が少ない方、つまり社会的フレイルの方では1回目の緊急事態宣言解除後も身体活動が十分に回復できていなかった(図3)。このような方は、情報を収集し、理解し、そして活用するという健康行動の意思決定能力が不足している可能性がある。このように、社会的フレイルがあり、かつ身体活動量が長期にわたって低下することは、要介護などの有害健康転帰の発生を高めることにつながる。まずは適切な情報を提供し、十分な解説を行うことが重要と考えられた。
"3密2活"で感染予防と介護予防の両立
新型コロナウイルス禍におけるnew normal「感染予防と介護予防の両立」には、3密のみならず2活が必要である。2活とは「身体活動」と「社会活動」のことであり、感染予防を徹底しながらもこれら活動を促進することが介護予防に重要となる。現在、命を守る活動としての感染予防は高齢者の中でも周知がなされており、換気、密集回避、ソーシャルディスタンスの確保、マスクの着用、手洗いや手指消毒の徹底など、基本的な感染予防は広く実施されている。
しかし、3密を中心としたこれら感染予防に主眼が置かれることで、2活が不十分となり、要介護化を促進する状況になっている。新型コロナウイルス禍における介護予防には"3密2活"を合言葉に、適切な感染予防と充実した介護予防に努めていただきたい。
われわれは「通いの場開催の8の工夫」と題したポスターやチェックリストを作成し、各自治体に配布するなど、通いの場の開催に向けた取り組みを支援している。Jonesらがまとめた報告によると、密集場所を避けること、換気を保つこと、マスクの装着を行うこと、大きな声を出さないことなどが感染予防に重要であることが示されている11)。この情報や厚生労働省などが報告している資料を参考に、作成したポスターでは8つのポイントを紹介している(図4、5、表)。これで万全という内容ではないが、3密2活の推進に向け少しでも参考になり、動機付けの一助になれば幸いである。
項目 | 意図 |
---|---|
①何より、楽しく行いましょう | コロナ禍で高齢者の精神機能は低下していると考えられる。様々な制約がある中での開催となるが、何より前向きに参加すること、楽しいと思えることが重要であり、最重要ポイントとして最初に示した。 |
②換気をしましょう | 換気は感染予防の重要なポイントである。夏場、冬場は換気が不十分となりやすいが、十分な換気を行うことが求められる。 |
③距離をあけましょう | 通いの場の会場で、2mのソーシャルディスタンスを確保することは容易ではないが(会場のキャパシティーが問題)、なるべく距離を保つように常に意識を持っていただくことが重要である。 |
④分散開催しましょう | ③にも関連するが、密集環境を避けるためには、人数を減らすということも検討すべき事項である。参加人数が多い通いの場においては、2回や3回に分散して参加者の入れ替えを検討することも必要である。 |
⑤手洗い、消毒を行いましょう | 会場へ到着した際、帰宅する際には手洗い、手指消毒を徹底する。また、椅子やテーブルなど、参加者が触れる場所も定期的に消毒する。 |
⑥マスクをしましょう | マスクは感染予防に重要なアイテムであるが、装着したまま運動することは難しい。環境に応じて着脱を検討するとともに、掛け声や大きな声は出さないといったルールを設けておくことも重要である。 |
⑦食事はなるべく控えましょう | 会食や喫茶は多くの参加者が楽しみにしているが、飛沫のリスクを回避するためには、飲食を伴うような活動は未だ控えるべきと言わざるを得ない。 |
⑧健康管理を行いましょう | 日々の検温により、少しでも高いと感じる日は参加しないなど、一人一人の危機管理意識を高めておくことが大切である。 |
おわりに
COVID-19の感染拡大は、医療体制、経済、教育などさまざまな領域で多大なる影響を及ぼした。その中でも、高齢者に対する影響は大きく、今後の要介護認定者数の増加が危惧されている。現時点で詳細な予測をすることは困難であるが、この影響を最小限に留めるためにも、外出機会を増やし、身体活動量を改善させることが重要である。高齢者に対しては、"3密2活"を合言葉に「感染予防」と「介護予防」に努めていただきたい。
文献
- Kojima G.: Quick and Simple FRAIL Scale Predicts Incident Activities of Daily Living (ADL) and Instrumental ADL (IADL) Disabilities: A Systematic Review and Meta-analysis. J Am Med Dir Assoc. 2018; 19(12): 1063-1068.
- Yamada M, Arai H.: Social frailty predicts incident disability and mortality among community-dwelling Japanese older adults. J Am Med Dir Assoc. 2018; 19(12): 1099-1103.
- Hoogendijk EO, Smit AP, van Dam C, et al.: Frailty Combined with Loneliness or Social Isolation: An Elevated Risk for Mortality in Later Life. J Am Geriatr Soc. 2020; 68(11): 2587-2593.
- Shimada H, Makizako H, Lee S, et al.: Impact of Cognitive Frailty on Daily Activities in Older Persons. J Nutr Health Aging. 2016;20(7): 729-735.
- 荒井秀典編:介護予防ガイド 平成30年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進事業)「介護予防の取り組みによる社会保障費抑制効果および科学的根拠と経験を融合させた介護予防ガイドの作成」.メジカルビュー社, 2019.
- Ito K, Tomata Y, Kogure M, et al.: Housing type after the Great East Japan Earthquake and loss of motor function in elderly victims: a prospective observational study. BMJ Open. 2016; 6(11): e012760.
- Tomata Y, Suzuki Y, Kawado M, et al.: Long-term impact of the 2011 Great East Japan Earthquake and tsunami on functional disability among older people: A 3-year longitudinal comparison of disability prevalence among Japanese municipalities. Soc Sci Med. 2015; 147: 296-299.
- Yamada M, Arai H, et al.: Effect of the COVID-19 epidemic on physical activity in community-dwelling older adults in Japan: A cross-sectional online survey. J Nutr Health Aging. 2020; 24(9): 948-950.
- Tison GH, Avram R, Kuhar P, et al.: Worldwide Effect of COVID-19 on Physical Activity: A Descriptive Study. Ann Intern Med. 2020; 173(9): 767-770.
- Yamada M, Arai H, et al.: Recovery of physical activity among older Japanese adults since the first wave of the COVID-19 pandemic. J Nutr Health Aging. 2020; 24(9): 1036-1037.
- Jones NR, Qureshi ZU, Temple RJ, et al.: Two metres or one: what is the evidence for physical distancing in covid-19? BMJ. 2020; 370: m3223.
筆者
- 山田 実(やまだ みのる)
- 筑波大学人間系教授
- 略歴
- 2008年:京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻助手、2010年:神戸大学大学院医学系研究科修了(保健学博士)、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻助教、2014年:筑波大学人間系准教授、2019年より現職、2020年:筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達専攻長兼筑波大学人間総合科学学術院人間総合科学研究群リハビリテーション科学学位プログラムリーダー
- 専門分野
- 老年学、リハビリテーション学
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