代償動作(代償運動)による問題
公開日:2016年7月25日 07時00分
更新日:2019年2月 1日 17時19分
代償動作とは
代償動作(代償運動)とは、本来の動作や運動を行うのに必要な機能以外の機能で補って動作や運動を行うことです。
リハビリテーションの現場において代償動作は、疾患や怪我によって機能が障害され、ある動作や運動が行えなくなった時に、ほかの筋肉の動きで動作を補って行うこと、あるいは、何か道具を利用することや環境を整えることで行えない動作を補完して目的を達成することを指します。
患者の姿勢や動作を評価する際や徒手筋力検査(MMT)を行う際には、代償動作が起こっていないかを確認し、代償動作を促したい動作や運動に修正するということが行われます。
例えば、以下のような何かの動作をほかの動作で補って行うことを代償動作ととらえます。
- 手を上に挙げる動作を行う際に指先から上げるのではなく、体幹を側屈(そっくつ:からだを側方に曲げること)させ、肩を挙上(きょじょう:もち上げること)させることで手を上げようと補うこと
- 歩行時に足が上に上がりにくい際にすり足で歩くことや、ぶん回し歩行(横に足をふって前に出すこと)で足を前に出そうとすること
- 骨盤や背中を起こして座ることがしんどいときに背中を丸くかがめて、背もたれにもたれて座ること
日常生活の場面やスポーツなどにおいて、代償動作がその人にとって改善すべきものである場合には、まず、代償動作が起こっている要因を探ります。そして、本来使われるべき筋肉を働かすことや関節の可動域を広げること、バランス力や協調性の向上を促して、代償動作が出現しないように姿勢や動作を修正していきます。
反対に、日常生活に必要な動作や運動が身体の機能障害によってうまく行えない場合には、ほかの行い方で行えるように提案・練習したり、道具や環境を整えたりして動作が行えるように代償し、生活機能の低下を防ぐようにすることもあります。
健康な人にもみられる代償動作
健康な人の場合でも環境や運動の経験、身体の柔軟性や筋力、体力などの状態によって代償動作がみられます。
成長過程において裸足で歩く経験が少ないと、足の裏の筋肉を十分に使わないので土踏まずが発達しにくくなり、偏平足になります。偏平足は、つま先で地面を蹴り出して歩くのではなく、ペタペタと足底全部を床につけて代償するようになります。足の指での蹴り出しが行われないと、歩行時に体幹やお尻の筋肉が使われず、足部や膝関節、股関節、腰などに負担がかかり、痛みや関節の障害などが後々になってでてくることもあります。
筋力が弱かったり、身体の柔軟性が乏しかったりすると、行いにくい姿勢や動作を、本来使うべき筋肉を休ませて、ほかの筋肉で補って姿勢や動作をとっていることもあります。姿勢のとり方や動作の仕方が一人一人違うのは、それぞれの身体の状態や環境によって行いやすい方法で姿勢や動作をとってきたからであり、長年の代償動作の積み重ねによるものでもあります。
代償動作による問題
代償動作が問題となってくるのは、
- 「本来使うべき筋肉を使わずにほかの筋肉を使ってきたことにより、使われなかった筋肉の筋力が低下し、過剰に使ってきた筋肉に負荷がかかって痛みにつながること」
- 「非対称な姿勢をとることにより、姿勢のゆがみが生じてくること」
- 「筋力の低下や姿勢のゆがみが長年続くことにより、関節に負担が生じて変形性関節症などをまねくこと」
- 「非効率な動作となっており、動作のパフォーマンスやスピードが落ちていること」
などがあげられます。
代償動作がみられ、代償動作により身体の機能的な問題が生じている場合や、動作が非効率となっている場合、日常生活に支障をきたしている場合、将来的に痛みや障害につながると予測される場合には、本来、使うべき筋肉を働かすように促し、関節の制限がみられる場合には関節の動きを拡げ、ほかの筋肉や関節に負担がかかりにくい姿勢や動作に修正します。
日常的な代償動作の積み重ねにより、姿勢のゆがみや痛み、慢性的な凝りなどがみられることもあります。気づいたらどこかにもたれかかっていたり、どちらかの足を組んでいたり、左右どちらかに体重をかけていたりと身体が休めの状態になっている場合には、身体を対称に保つこと、下腹部に力を入れること、お尻を伸ばすこと、膝の上に力を入れること、背筋を伸ばすこと、腰が反りすぎないようにすること、肩の力を抜くこと、頭のてっぺんを糸で引っ張られているように顎を引いた姿勢を保つことを意識してみるとよいでしょう。
筋力を鍛えるための運動を行う際にも、鍛えたいと思っている筋肉が代償動作によって鍛えられていないこともあります。姿勢や行い方に注意して実施するようにしましょう。
代償動作によって生活の質の維持・改善を図る
すべての代償動作が悪いものではなく、障害された機能を補って生活機能の低下を防ぐことは必要なことでもあります。例えば、下肢の筋力低下によって一人で歩くことが困難になった場合には、杖・歩行器などの福祉用具を使うことや、手すりの設置・段差の解消などで家の環境を整え、下肢の機能低下を補うことで、生活の質を低下させることなく、以前と同じように生活を継続できることもあります。
手指の機能障害により手指の細かい動作が行えなくなった場合には、肘や肩の動きで代償して行う方法を学習することや自助具の活用によって、以前の方法とは違う新しい方法で目的を達成し、日常生活動作が自立できることもあります。
代償動作であっても、その人の生活の質を維持するために必要な動作であり、安全に行えているものであれば推奨すべきものもあります。大切なのは代償動作がみられたときになぜ行っているのかを探ることと、それは修正すべき動作であるのか、推奨すべき動作であるのかを判断して対処することだと言えるでしょう。