インナーマッスルとは
公開日:2016年7月24日 09時00分
更新日:2019年2月 1日 17時03分
インナーマッスルとは
インナーマッスルやアウターマッスルという呼び方はトレーニングやエクササイズの用語として使われることが多いです。インナーマッスルとは身体の深いところに位置する筋肉で深層筋のことを指します。インナーマッスルに対してアウターマッスルは、身体の表面に位置する筋肉のことを指し、表層筋のことを指します。
テレビや雑誌などでもインナーマッスルという言葉を目や耳にする機会は多いと思います。インナーマッスルとして取り上げられているのは体幹の深層筋の場合が多く、インナーマッスルは体幹筋のことを指していると思われがちですが、身体の奥に位置している筋肉の総称がインナーマッスルであり、体幹筋のことだけを指しているわけではありません。体幹だけでなく、上肢・下肢の筋肉の深層筋もインナーマッスルと呼ばれます。
身体の主なインナーマッスル
体幹・肩関節・股関節の主なインナーマッスルについてみていきましょう。
体幹のインナーマッスル
腹横筋(ふくおうきん)
腹筋の最も深部にある筋肉です。上肢の運動時に最初に収縮する体幹筋1)で、体幹の安定性に関与していると考えられています。腹部を引き締めて、内臓へ腹圧をかけ、排泄を助ける作用があります。努力呼気(強制的に息を吐く)にも作用2)しています。
多裂筋(たれつきん)
腰背部の筋の中で最も深部にある筋肉で、頸椎から腰椎にかけて細かい束をなした筋肉が連なっています。背骨の椎骨同士をつないで脊柱を安定させる作用と脊柱の伸展2)に作用します。
横隔膜(おうかくまく)
胸郭の下方に半球型についている筋肉で、腹式呼吸時の呼吸に作用します。息を吸うときは横隔膜が下へ下がり、腹腔(腹部の内臓がおさまっている空間)の内臓が押し下げられます。息を吐くときは横隔膜が持ち上がって胸腔(胸部の内臓がおさまっている空間)に圧がかかります2)。
骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)
尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)、球海綿体筋(きゅうかいめんたいきん)、肛門挙筋(こうもんきょきん)、外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)など、骨盤の下部にハンモック状についている筋肉の総称で内臓を支えています。骨盤底筋群が緩むと尿漏れや便漏れ、内臓の下垂などにつながります。
肩関節のインナーマッスル
回旋筋腱板(かいせんきんけんばん:ローテーターカフ)を形成している肩甲下筋(けんこうかきん)、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋で肩関節の安定に作用しています。
股関節のインナーマッスル
股関節後面深部にある深層外旋六筋の梨状筋(りじょうきん)、外閉鎖筋(がいへいさきん)、内閉鎖筋(ないへいさきん)、上双子筋(じょうそうしきん)、下双子筋(かそうしきん)、大腿方形筋(だいたいほうけいきん)、および小殿筋(しょうでんきん)、腸腰筋(ちょうようきん:大腰筋、腸骨筋)などで、股関節の安定、歩行の安定性に関与3)していると考えられています。
インナーマッスルの作用
身体の表層の筋肉であるアウターマッスルは、体幹の腹直筋、大胸筋などや肩関節周囲の僧帽筋や三角筋、上肢の上腕二頭筋、下肢の大殿筋や大腿四頭筋などがあげられます。アウターマッスルは身体の表層を覆う比較的大きな筋肉であり、主に動作時に力を発揮します。身体を見ても筋肉の形状や使っていることがわかりやすい筋肉です。
インナーマッスルは身体の深層に位置しており、見た目には働いていることを確認することは難しいですが、関節の安定や内臓の安定に働き、動作時にもアウターマッスルとともに働いて、姿勢の保持や動作のサポート、内臓の正しい働きを促すために作用しています。
インナーマッスルもアウターマッスルもそれぞれの筋肉が役割を持って適切な時期に働いており、相互の働きによって姿勢の保持や動作が行われています。
インナーマッスルとアウターマッスル
加齢によって衰えやすい下肢の筋肉は立ち上がり動作や歩行に主に作用する大腿四頭筋(だいたいしとうきん:太もも前面の筋肉)や大殿筋(だいでんきん:おしりの筋肉)4)があげられます。歩行能力の低下や臀部や大腿部の痩せによって、大腿四頭筋や大殿筋などのアウターマッスルの筋肉量の減少や筋力低下は目につきやすく、筋力低下を予防するための運動も足上げやヒップアップなどが知られています。インナーマッスルは深部に位置しており、表面的には筋肉が確認しづらいことや関節や動作時の安定性などのサポート的な働きからアウターマッスルに比べて目立ちにくい存在かもしれません。
しかし、「長時間姿勢を保持し続けること」や「動揺の少ない安定した動作」、「方向や力の調節などの微細なコントロール」、「柔軟性に富んだしなやかな動き」、「上下肢・体幹の協調した動き」、「バランスの保持やバランスを崩したときに立ち直る動作」など、長い時間活動し続けられることや、バリエーション豊かな姿勢や動作を行うにはインナーマッスルとアウターマッスル双方のバランスのとれた働きが必要となってきます。
インナーマッスルを意識したエクササイズとしてはピラティスが有名であり、リハビリテーションでも深層筋を意識したアプローチが用いられています。
普段何気なく座っているときでもお腹を引っ込めて背筋を伸ばしてみることや、日常生活の動作で大きく手を伸ばす、太ももを高く上げる、身体をひねるなどの動作を取り入れるように心がけることで、普段あまり使うことのない筋肉も働かすことができ、より多くの筋肉をバランスよく使えます。大きく身体を動かしてみることで、自分の身体の硬さや左右差、苦手な動作や姿勢にも気づくことにもつながるでしょう。
参考文献
- 脊椎の分節的安定性のための運動療法 : 腰痛治療の科学的基礎と臨床 Carolyn Richardson ほか原著 齋藤昭彦訳 東京:産学社エンタプライズ出版部 2002.1 P37
- 新・徒手筋力検査法 Helen J.Hislop and Jacqueline Montgomery 協同医書出版社 P369.364.366
- 股関節外旋筋群の疲労による筋力低下が歩行の空間的・時間的パラメータに与える影響 佐藤久友他 Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)