世代間問題への老年学の役割
公開日:2016年7月25日 10時00分
更新日:2024年2月16日 11時42分
世代間問題と老年学
世代間問題に関連する学問はきわめて多岐にわたっている。したがって、学際的なアプローチが必要であり、既存の単一の学会では十分に有用性を発揮し得ない。2004年5月に日本世代間交流協会(会長草野篤子氏)1)が教育・福祉・介護などの学際的人材を集めてスタートしたことは大変意義深いことである。国際世代間交流協会(ICI)との連携を図りながら、今後、グローバルな視野から世代間問題に取り組んでいくことが期待されている。
筆者は、世代間問題(リンク1参照)を老年学の中に組み入れることを常々主張してきた。実態としても、アメリカの高等教育における老年学のための学会(Association for Gerontology in Higher Education ,AGHE)の中で世代間問題が活発に討論されていることは既に述べたところである。
日本の応用老年学
日本では、教育老年学や産業老年学を含む応用老年学の確立が遅れている。すべての分野にいえることであるが、アメリカと比較してわが国では、研究と教育のウェイトの置き方がアンバランスである。老年学の研究に関してアメリカでは、国立老化研究所が設立されたのは1974年であるが、その10年くらい前1965年高齢アメリカ人法(Older Americans Act)を制定し、各大学に老年学教育のための重点予算配分を開始したのである。
わが国では、1972年東京都老人総合研究所(現 東京都健康長寿医療センター)が設立され、長寿科学振興財団を通じての研究助成などにより研究が進展した割には教育面における学際的老年学の確立には遅れをとってきたといえる。一私立大学に過ぎない桜美林大学に2002年老年学の修士課程、2004年に博士課程がスタートしたが、まだ、それに続く大学は見当らない。
教育老年学の遅れは、高齢者差別(Ageism)を払拭し得ず、世代間問題に関する解決策の提示も遅れることになる。単に学校教育の場のみでなく、産・官・学・民あらゆるセクターに老年学のコンセプトとスキルを普及させ、高齢社会の運営に資する必要がある。
日本応用老年学会の設立
このような時代の要請に応じて筆者たちは日本応用老年学会(呼びかけ人代表 柴田 博)2)を設立することにした。その構造は図に示したとおりであるが、産・官・学・民が協力して、老年学を社会のために活用する仕組みをつくることを目的としている。また、シニアビジネスの専門家、行政の政策決定者、NPOの活動家、学校や社会教育の専門家、一般市民のために有用な情報提供と協力の場を創出することを目的としている。それを通じて世代間のより良い交流を確立するために努力をしていきたい。世代間交流のために高齢者の社会貢献の意識とスキルを向上させることが喫緊の課題である。
1. 特定非営利活動法人日本世代間交流協会
Japan Intergeneration Unity Association(JIUA)
2. 日本応用老年学会
Society for Applied Gerontology(SAG-J)