わが国における世代間交流の活動 その2
公開日:2016年7月25日 11時00分
更新日:2019年2月 1日 18時10分
世代間交流とは
この分野の第一人者であるピッツバーグ大学のサリー・ニューマン名誉教授は、「異世代の人々が相互に協力し合って働き、助け合うこと、高齢者が習得した知恵や英知、ものの考え方や解釈を若い世代に言い伝えること」と定義しています1)。
ここでは、この定義に基づき我が国の世代間交流の歩みをご説明します。
わが国では第2次世界大戦後に、新憲法が制定され、「家父長」制度の廃止、夫婦家族制度が導入され、社会や人々の価値観が大きく変わりました。米国と同様に1960年前後から第一次産業から第二次、第三次産業への産業構造のシフトにより、都市部への人口の集中、地方の過疎化がおこり、核家族化、小家族化が促進しました。家族形態の変容によって、家族の機能にも大きな変化が生じました。つまり、子育てにおいて、祖父母など親以外の複数の大人が関与することが物理的に困難になり、家庭の教育力の低下が叫ばれるようになりました。
この頃から、老人クラブや保育園児、小学生を主とした訪問型交流活動が散見されるようになりましたが、七夕、節分交流会や誕生会など単発的・イベント的なプログラムが大半でした。
1980年代以降に変化
1980年代以降、都市化、過疎化に拍車がかかりました。一方で、大都市、首都圏への一極集中から多極分散型のコミュニティづくりが提案されるようになりましたが、これは、快適でおしゃれな郊外のマンション生活に代表されるように、核家族化、単身家族化、個人化傾向を強めることになりました。同時に女性の就業率が高まり、子育てや介護に関連した諸問題が浮き彫りになりました。こうした社会のニーズから1990年代以降、子育て支援を目的とするボランティア団体やNPOが全国的に増えました。
一方で、高齢者施設と保育園・小中学校など子どもの施設とを合築または併設し、そこで統合ケアを行う事例がみられるようになりましたが、その実情は量質ともにまだまだ不十分といわざるを得ません。
ボランティア活動の普及・啓発
国はシニア世代によるボランティア活動を普及・啓発しました。そうした中、1993年、総務庁老人対策室が、同年に行なった『世代間交流に関する調査研究』(エイジング総合研究センター、2003)で収集された302事例を見ると世代間交流のプログラムの内容は季節行事等への招待、慰問、文化・技能の伝承など多岐にわたっていました。
これらの結果をもとに、市町村の施策担当者向けに世代間交流のマニュアル『高齢者との世代間交流の手引き』が作成されました。
日本世代間交流学会の設立
1997年には、阪神淡路大震災を契機に異世代同士の連携を考える関西世代間交流研究会が発足しました。2004年に、ピッツバーグ大学名誉教授サリー・ニューマン氏の来日を契機として、福祉・教育・医療・保健など関連分野の研究者、実践家などが集まり、日本世代間交流協会が設立されました。2006年には、特定非営利活動法人として認可されました。
全国的に実践活動が推進される一方で、世代間交流がもたらす多面的な効果について科学的知見は限られ2)、エビデンスの集積が求められていました。そこで、2010年に日本世代間交流学会が設立され、全国学術大会の開催や学会誌の発行により、学際的な研究を推進する第一歩が踏み出されました3)。