わが国における世代間関係
公開日:2016年7月25日 13時00分
更新日:2019年2月 1日 18時10分
高齢者に対する偏見
アメリカのデェーク大学のパルモア(Palmore)教授は高齢者差別(エイジズム、Ageism)の専門家であり、わが国の世代間関係について多くの著書や論文を書いてきた。そして一貫して「日本には欧米と異なり高齢者を敬う精神的風土がある」と主張してきた。
どうも、このような欧米人の考え方がわが国にも影響し、日本の世代間関係はよい状態にあると思い込んできた節がある。しかし、かつてのわが国の世代間関係が良好に見えたのは儒教にもとづく家父長的な規範のためであって、戦後この規範が崩壊した後には、新しい世代間関係のモラルや規範が形成されず、いわばカオスの状況にある。
否定的エイジズムの1つである高齢者に対する偏見に関し、筆者たちは20年前に、パルモア教授のクイズを用いて調査した。30~59歳の東京近郊の住民に対してである。その結果、「65歳以上の高齢者の過半数が障害をもっている」とする誤認識が6割を超えることが判明した1)。パルモア教授は調査結果、3割以上のアメリカ人がこのような誤認識をもっていることを嘆いていたが、日本の誤認識はその倍も存在したのである。
「老いた親の扶養の意識」に対する国際比較
グラフは、日本政府の行った、18~24歳の若者の「年老いた親の扶養の意識」に関する国際比較調査の結果である。「どんなことをしても親を養う」という孝養心は隣国の韓国やアメリカ、イギリス、フランスに比較しても低いのである。私的扶養が一般的である発展途上国より低いことは当然ともいえるが、同じように公的年金制度の確立した欧米諸国と比較してかなり低いことは気になるところである。
現在国民年金の掛け金の不払いが大きな社会問題となっており、とくに不払いは若年層に高率である。もちろん、この背景にはニートの増加などの問題も存在する。同時に、若者世代の中高年世代に対する不信感もこれを助長しているのである。
東京大学の宮島洋名誉教授は「日本親世代は世界でもっとも子供の高等教育に出費し、子供の結婚費用も負担し、遺産も多く残している。これらの合計は、子供世代が生涯に支払う、年金保険料の総額に相当する」ことを指摘している1)。子供世代の年金保険料の負担のみが強調されるのは妥当ではないのである。
世代間の支え合いと信頼感の崩壊
このように、客観的な指標をみると親世代と子供世代は相互に支え合っている。それにもかかわらず、主観的側面における世代間の信頼が崩壊しているところに大きな問題がある。親世代には、家父長制にもとづく規範に代わる新しい世代間の規範を創造する役目がある。そして、それを広め、子供世代に伝承していく義務がある。その義務を放棄して、子供世代のサポートの不足ばかりを嘆くことも、またサポートを拒否してしまうことも正しくない。
参考文献
1)柴田博:中高年健康常識を疑う、講談社選書メチエ、2003