腹囲の基準は、なぜ85cm?
公開日:2016年7月25日 10時00分
更新日:2024年2月14日 11時19分
内臓脂肪型肥満に注目があつまるワケ
肥満(リンク1参照)のなかでも、内臓脂肪型肥満(りんご型肥満、ビヤ樽型肥満)では皮下脂肪型肥満(洋ナシ型肥満)よりも糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞(リンク2参照)を引き起こしやすいことが経験的に知られていました。
最近15年間あまり、脂肪細胞の研究がさかんにおこなわれ、内臓脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポサイトカイン)の役割が明確になってきました。
それによると、肥大化した内臓脂肪細胞から、糖尿病や高血圧(リンク3参照)の原因となるアディポサイトカインを分泌しているために、死の四重奏を引き起こしやすいというもので、これらの研究成果を踏まえてメタボリックシンドロームの概念が提唱されたのです。
内臓脂肪量をどのように判定するか
内臓脂肪型肥満を判定するためには、内臓脂肪量の増加を検出できる方法が必要です。わが国では人間ドック等の機会を通じて、比較的多くの健常人に対して腹部CTが撮影されており、CTを活用した内臓脂肪型肥満の診断と検証が進められました。その結果、腹部CTで臍(へそ)の位置の断面像から内臓脂肪面積を算出すると、100cm2以上の場合にはそれ以下の場合より合併する疾患数が50%増加していることが明らかになり、100cm2以上を内臓脂肪の過剰蓄積と判断することが定められたのです。
CTを使わない内臓脂肪の判定方法は?
CT検査は一般の診療所や健診で簡単にできないことから、内臓脂肪面積100cm2に相当する腹囲、すなわち臍の高さで男性85cm、女性90cmをもってスクリーニング検査値と定められました(腹囲と内臓脂肪面積の相関:男性(6,191人)でr=0.82、女性(1,178人)でr=0.79、川崎ら.Arts and Science 53:1462-1466)。このような定め方はCTをドックにも多くもちいている日本独自の方法であり、他の国の腹囲基準は、CTでの内臓脂肪面積との相関で定められたものはないので、各国の間で腹囲に対する考え方が異なるのです。
腹囲の測定法
腹囲はメタボリックシンドローム判定の第一ステップであるため、できるだけ測定誤差が小さくなるように正確に測らねばなりません。測定方法は「図:腹囲の測定方法」が示すように、以下の方法で行います。
- 腹囲は立位でへその高さを計測します。
- 両足をそろえ、両腕は身体の横に自然に下げ、お腹に力が入らないようにします。
- 呼吸は意識せず、普通にし、呼気(吐き出した)の終わりに目盛を読み取ります。
- 巻尺が、背中や腰に水平に巻かれているかを確認します。
- 正確な計測を行うためには下着をつけないでください。
注意すべき点は、腹囲の測定部位が欧米と日本では異なることです。日本では腹囲は臍の位置で測定するのがきまりですが、欧米では一番くびれているウェストラインで測定しています。女性ではとくにウエストのくびれがある高さと臍の位置を比較すると平均7cmの違いがあることから、腹囲の国際比較をするときには注意が必要です。
男性と女性の違い
CT画像をみると、女性では皮下脂肪が多いために、同じ内臓脂肪面積でも腹囲は5cm大きな基準となっています。日本では女性のやせが問題となっており、いきすぎた減量メッセージを発信しないためにも、基準値を変更することに対して日本肥満学会は慎重な姿勢をとっているようです。